【見映えの導出】
木材の見映えに影響する主な因子は以下の通りです
・色彩,濃淡
・模様,周波数
・凹凸,光沢
本サイトでご紹介した無垢材の解析では,濃淡,模様,光沢が嗜好性に影響する結果となっています
【組成・構造との関係】
影響を与える因子を明らかにするため,国産広葉樹を対象として見映えの各要素と組成・構造との関係を調べました *3,4,5)
・色彩,濃淡
L値(明度)とa値(赤緑)については,関連性の高い因子はありませんでした
b値(黄青)については,らせん肥厚の分布,道管密度と関連性があるという結果となりました
木材の淡黄色は主にリグニンによるものと報告されています *6)
らせん肥厚の断面はその境界の密度が高く,黄色みに影響を与えると考えられます
道管の壁も密度が高く,黄色みに影響を与えると考えられます
・模様,周波数
コントラストについては,関連性の高い要素はありませんでした
・凹凸,光沢
光沢度は関連する要素が多く見られました
特に関連性の高い因子として,以下が抽出されました
正:道管相互壁孔,道管相互壁孔の大きさ,アルコール可溶分
負:木部繊維の壁厚,柔組織ストランド長,リグニン比率,放射組織比率
リグニンは光を吸収すると報告されていますので *7),この比率が高い樹種では光沢度が低下すると考えられます(木部繊維の壁厚,リグニン比率)
光沢は細胞内腔での反射に起因すると言われています *8)
加工面に細胞の内腔が多く露出する樹種では,光沢度が増加すると考えられます(道管相互壁孔,道管相互壁孔の大きさ)
柔組織ストランド長,放射組織比率の影響するメカニズムは不明です
アルコール可溶分には抽出成分が含まれており,文献でも外観との関連性が指摘されています *6)
しかしながら抽出成分は樹種固有のものが多く,酸化・還元や各種の修飾により性質が大きく変化します
樹木に含まれる化学成分を調査しましたが *9,10),見映えとの関連性を評価するには至りませんでした
抽出成分の影響評価は今後の課題としたいと考えます
【参考文献】
1)「木質材料の視覚特性に関する研究」
安田明ほか 京都大学木材研究資料 12号 (1978)
2)「木材のイメージに与える色彩および光沢の影響」
増田稔 材料 34巻 第383号 (1984)
3)「材の化学組成およびパルプ化試験」
米沢保正ほか 林業試験場研究報告 253号 (1973)
4)「日本産主要木材の材構成割合について」
平井信二 東京大学農学部木材材料学第一教室業績 第159号 (1960)
5)「広葉樹微細構造」
森林総合研究所 日本産木材識別データベース
6)「木材およびパルプの発色団について」
近藤民雄 日本紙パルプ技術協会誌 26巻 10号 (1972)
7) "Solar-assisted fabrication of large-scale, patternable transparent wood"
QINQIN XIA et.al SCIENCE ADVANCES Vol.7 Issue5 (2021)
8)「木材の光沢異方性および細胞内こう面からの反射について」
加藤弘之ほか 京都大学農学部演習林報告 61号 (1989)
9)「樹木成分集(I)」
北尾弘一郎ほか 木材研究 京都大学木材研究所報告 Vol.34 (1965)
10)「樹木成分集(II)」
北尾弘一郎ほか 木材研究 京都大学木材研究所報告 Vol.37 (1966)