【熱伝導率の導出】
木材は多孔質で,内部に多くの空気を含んでいます
木部の熱伝導率をλw,空気の熱伝導率をλa,木部の比率をxとすると,木材全体の熱伝導率λは以下で表されます *1)
式1 λ=xλw+(1-x)λa
同様に,木部の密度をρw,空気の密度をρa,木部の比率をxとすると,木材全体の密度ρは以下で表されます
式2 ρ=xρw+(1-x)ρa
空気と木部の熱伝導率と密度は以下で与えられます(20℃時)
空気 λa=0.0257W/mk ρa=0.00121g/cm3
木部 λw=0.291W/mk ρw=1.5g/cm3
ここで木部の熱伝導率は,セルロース粒子の値を使用しています *2)
ρw≫ρaより,木材全体の熱伝導率λは以下で表されます
式3 λ=λa+x(λw-λa)≒λa+ρ(λw-λa)/ρw
=0.0257+0.176*ρ
このように木材の熱伝導率はその密度に比例します
(温度,水分の影響は考慮していません)
【組成・構造との関係】
熱伝導率に影響を与える因子を明らかにするため,国産広葉樹を対象として組成・構造との関係を調べました *3,4,5)
国産広葉樹では,木部繊維の壁厚,菱形結晶の有無,放射組織の比率と正の相関が見られました
繊維の壁が厚いと木部の比率が増加し,樹幹方向の熱伝導が増加すると考えられます
木材の菱形結晶はシュウ酸カルシウムによるものですが,その熱伝導率は0.16W/mkと低いため,増加のメカニズムは不明です *6)
放射組織は繊維方向と交差して存在するため,樹幹に垂直な方向の熱伝導が増加すると考えられます
【参考文献】
1)「木材の比重と熱伝導率の関係について」
滿久崇麿 木材研究 京都大学木材研究所報告 (1952)
2)「単ーセルロース粒子の熱分解速度」
小嶋英一ほか 化学工学論文集 第16巻 第6号 (1990)
3) 日本産主要樹種の性質 「材の化学組成およびパルプ化試験」
米沢保正ほか 林業試験場研究報告 253号 (1973)
4)「日本産主要木材の材構成割合について」
平井信二 東京大学農学部木材材料学第一教室業績 第159号 (1960)
5)「広葉樹微細構造」
森林総合研究所 日本産木材識別データベース
6) "Salt Hydrates for Thermochemical Storage of Solar Energy: Modeling the Case Study of Calcium Oxalate Monohydrate Dehydration/Rehydration under Suspension Reactor Conditions"
Laura Garofalo et al. Industrial & Engineering Chemistry Research Vol.60, No.30 (2021)