【香りの由来】
植物に備わる香りの成分は進化の過程で獲得した形質の一つで,時々の環境に適したものが存続してきたと考えられます
病害虫に抵抗し競合する植物の侵入を防ぐだけでなく,食害者の天敵を誘引し,他の個体に危機を知らせる働きも報告されています *1)
このように自己防衛の手段として形成された植物の香り成分を人々も古くから活用してきました *2)
ここでは設計の指針に紹介した耐腐朽性・耐蟻性について影響する因子を解析します
香り成分の放散能は,その含有量と放散速度で決まります
含有量については,熱水やアルコールで抽出した値が報告されています
香り成分は主に心材の細胞壁に含まれています *3)
放散速度はその細胞壁の性状や材面への露出度合が影響すると考えられます
【組成・構造との関係】
影響を与える因子を明らかにするため,国産広葉樹を対象として耐腐朽性・耐蟻性と組成・構造との関係を調べました *4,5,6)
国産広葉樹では,以下の関連性が見られました(いずれも質量減少率との相関)
・耐腐朽性
正:軸方向柔組織
負:道管相互壁孔の大きさ,道管放射組織間壁孔,熱水可溶分
・耐蟻性
正:なし
負:平均道管要素長,チロース・道管中の堆積物,放射組織の高さ,熱水可溶分
熱水可溶分は含有量と関連するため,質量減少率とは負の相関になります
細胞や壁孔の性状は放散速度と関連すると考えられますが,個々のメカニズムは必ずしも明確ではありません
これらの影響評価は今後の課題としたいと考えます
【参考文献】
1)「植物アロマ成分を用いた有機栽培システムの開発とヒト健康増進効果への応用」
有村源一郎ほか 化学と生物 57巻 7号 (2019)
2)「森の香り・木の香り その正体と働き」
谷田貝光克 におい・かおり環境学会誌 38巻 6号 (2007)
3)「心材形成研究の最近の進歩」
中田了五 木材学会誌 Vol.64 No.2 (2018)
4)「材の化学組成およびパルプ化試験」
米沢保正ほか 林業試験場研究報告 253号 (1973)
5)「日本産主要木材の材構成割合について」
平井信二 東京大学農学部木材材料学第一教室業績 第159号 (1960)
6)「広葉樹微細構造」
森林総合研究所 日本産木材識別データベース