【特徴】
身近なカスタネットから高級なピアノやバイオリンまで,木材は多くの楽器に使われています
木材の持つ音響特性が,柔らかく暖かい音色を実現していると考えられます
物質の振動は,密度(比重),剛性(ヤング率),粘性(損失係数)で決まります
軽く・柔らかいほど,音響抵抗が小さく,外部からの力で振動しやすくなります
軽く・硬いほど,伝搬速度が高く,内部で音が伝わりやすくなります
損失係数が大きいほど振動が減衰しやすく,音が収まりやすくなります
主な木材の密度(比重),ヤング率,損失係数は以下の通りです(樹幹方向)
・ブナ,ナラ,カエデ 比重:0.5~0.7 ヤング率:10~12 (GPa) 損失係数:11~15×10^-3
・スギ,ヒノキ,マツ 比重:0.4~0.5 ヤング率:7~9 (GPa) 損失係数:6~10×10^-3
木材の固有音響抵抗(√Eρ)は 1.2~3.5 ×10^6kg/m^2s 程度で,金属やガラスと比較して一桁ほど小さい値になります
木材の比ヤング率(E/ρ)は 10~30 GPa(樹幹方向)程度で,最高級のピアノやバイオリンに用いられるドイツトウヒの中には35GPaを越えるものもあります
これは,鋼:200GPa/8=25GPa,チタン合金:100GPa/4=25GPa,ガラス70GPa/2.5=28GPaなどに匹敵する高い値になります
木材の損失係数は 6~15×10^-3 程度で,金属やガラスと比較して一桁ほど大きい値になります
このように木材は音が鳴りやすく,伝わりやすく,収まりやすい材料といえます
木材は樹幹方向に長く伸びた組織構造で,内部に空隙や水分を含んでいるため,物性に異方性や周波数依存性が生じます
木材のヤング率は樹幹方向(繊維方向)に大きく,直交する放射・接線方向では1/10~1/20の値になります
木材の内部摩擦は樹幹方向が最も小さく,放射・接線方向はその2~3倍の値になります
これらの異方性や周波数依存性が,複雑な倍音構造を持つ木製楽器独特の音色を実現していると考えられます
【設計要件・留意点】
木材の音響特性は,樹種,含水率,木取り,温度,湿度,振動方向などにより変化します
水分の影響は大きく,気温20℃で湿度が30%RHから65%RHまで変化すると,スプルース材のヤング率は10%程度減少し,内部摩擦は繊維方向で20%,放射方向で40%程度増大します
これらの変化を抑えるため,塗装や化学処理など様々な工夫がされています
楽器の弾き込みや熟成などの経年変化にも,水分量の変化が影響していると考えられます
樹種ごとの音響特性と損失係数は“設計の指針”に,壁材の防音性能については“機能性の試算”に記載しています
【参考文献】
特徴
・林野庁HP
「科学的データによる木材・木造建築のQ&A」
・木を活かす建築推進協議会報告書
「木の良さデータ整理検討」
・矢野浩之 高分子 56巻 (2007) 8月号
「楽器と木材」
・深田栄一 日本音響学会誌 7巻 (1951) 2号
「楽器用木材の振動的性質」
・矢野浩之 材料 46巻 (1997) 8号
「聴感覚と木材」
・福島寛和 騒音制御 18巻 (1994) 4号
「振動板からの音響放射特性と室内音圧の算定方法」
設計要件・留意点
・海星社 木材科学講座3 (2017)
「木材の物理」