【衝突加速度の試算】
転倒時の頭部障害を防ぐため,施設の床の硬さについてJISに規定があります
JIS-A6519 体育館用鋼製床下地構成材
9.6 床の硬さ試験
ゴム板が置かれた測定点に高さ20cmから質量3.85 kgのヘッドモデルを自由落下させ,床に衝突したときの加速度を測定し,転倒衝突時の硬さを求める
本試験の落下衝撃加速度について,体育館では100G以下,柔道場では65G以下と定められています
コンクリートの床面にフロア材を直接貼り付けた場合の値は以下と報告されています *1, 2, 3)
種類 厚さ 加速度
クッションフロア 1.8mm 125G
フロアタイル 2.5mm 150G
木製フロア材 12mm 120G
畳 60mm 50G
(コンクリート床のみ 160G)
対象となる施設では,下地にクッション材などを使用して衝突加速度を低減しています
JISの評価試験は構成が複雑なため,衝撃加速度を計算式により求めることはやや面倒になります
ここでは,実測値の得られている木製フロア材との比較により,無垢材の衝撃加速度を推定してみます
エネルギー保存則より
mgh = kx^2/2
m:ヘッド質量
g:重力加速度
h:落下高さ
k:床材のばね定数
x:落下による変形量
ニュートンの法則より
F = ma = kx
F:ヘッドに働く力
a:ヘッドの加速度
両式より
a = (2ghk/m)^0.5
弾性体のばね定数は,以下で表されます
k = SE/L
S:面積
E:剛性(ヤング率)
L:長さ
従って
a=(2ghSE/mL)^0.5
このように落下時の衝撃加速度は床材の E/L の平方根に比例することになります
代表的な樹種のヤング率(板目方向:Et)は以下と報告されています *4, 5)
(複数例は平均値を記載)
樹種 Et (GPa)
スギ 0.31
トドマツ 0.33
エゾマツ 0.43
アカマツ 0.64
ダグラスファー 0.78
スプルース 0.48
オレゴンパイン 0.90
スコッツパイン 0.57
ブナ 0.59
ヤチダモ 0.65
ミズナラ 0.73
マカンバ 0.83
イチイガシ 0.94
アッシュ 0.89
ビーチ 1.14
バーチ 0.62
カヤ 0.51
メープル 0.87
マホガニー 0.61
スイートガム 0.58
ウォルナット 0.63
イエロービーチ 0.72
イエローポプラ 0.41
ケヤキ 1.23
アピトン 0.51
バルサ 0.06
クイポ 0.15
キリ 0.23
ココノエキリ 0.17
ハリエンジュ 1.31
アピトン 0.55
クルイン 0.51
他方,ラワン合板のヤング率(板厚方向)は約 0.64GPaと報告されています *6)
(5層,7層,9層,計7種の平均)
これらより無垢材をコンクリートに直張りした場合の衝撃加速度は以下と推定されます
(試験では厚さ8mmのゴム板を介しているため,この分を連性バネとして計算しています)
樹種 ヤング率 厚さ 加速度
スギ 0.30GPa 15mm 98G
30 79
スプルース 0.48 15 109
30 92
ナラ 0.73 15 118
30 103
キリ 0.23 15 91
30 72
樹種と木取り,厚さを選択することにより,JISの規定を達成できる可能性があります
【参考文献】
1) ダイケンHP WPCテクノロジー
2) サンゲツHP Q&Aよくあるご質問 衝撃吸収性能(G値)について
3) 北海道 林産試験場だより 2017/04号
4) 沢田稔 材料 32巻 (1983) 359号
「木材の変形挙動」
5) 沢田稔 林業試験場研究報告 No.108 (1958)
「木材の強度特性に関する研究」
6) 浅野猪久夫ほか 材料 12巻 (1963) 121号
「合板の強度的異方性について」
7) 富田隆太ほか 日本建築学会技術報告集 13巻 (2007) 26号
「住宅内の転倒時を想定した直張り木質フローリング床の頭部衝撃緩衝効果に関する検討」