ウルシによる“かぶれ”や樟脳による中毒など,木材の成分が原因となる健康障害は古くから知られています
最近では,木材の粉じんによる発がんも指摘されています
有効性と安全性は表裏の関係にあり,機能だけでなく負の側面についても留意する必要があります
木材の成分や粉じんによる健康障害について,以下の様な症例が報告されています
・湿疹,かぶれなどの皮膚疾患
・ぜんそく,鼻炎などの呼吸器疾患
・眼,喉,頭の痛み,中毒,がんなど
影響する可能性のある樹木として,100種類以上が報告されています
・皮膚疾患
ウルシノキ,カシューナッツ,イチョウ,ローズウッド,チーク,ベルガモット,イチジクなど
・呼吸器疾患
ベイスギ,ラワン,リョウブ,クワ,ホウノキ,ネズコなど
・発がん性
オーク,ブナ,マホガニー,チーク,クルミなど
厚労省の職業病リストには,テレビン油による皮膚疾患,木材の粉じんによる呼吸器疾患が記載されています
米国産業衛生専門家会議(ACGIH),ドイツ研究振興協会(DFG)では,木材の粉じんを発がん性物質に指定しています
樹種や成分だけでなく,濃度や暴露時間も重要な指標となります
木材の成分であるテルペン類の気中濃度について,以下の様な報告があります
・自然林 0.01~0.1ppm
・戸建住宅 0.01~0.1ppm(無垢材を多用)
・製材工場 1~2ppm
国内では木材の揮発成分について濃度の基準値は定められていません
経産省によるVOC排出抑制の手引きにおいても,木材及び木製品は管理対象から外れています
ドイツではテルペン類(αピネン)の室内濃度指針を0.36ppmと定めています(2003)
この指針に照らすと,上記の製材工場では何らかの対策が必要となります
木材成分の揮発量は,樹種,乾燥条件,表面状態(加工粗さや塗装など)により変化します
時間経過により指数的に減衰するため,木製品や内装材では初期の強制換気やベイクアウトが有効です
職業として木材を加工する現場を除くと,これらに触れる機会は少ないかもしれません
一時的に閾値を超える可能性は否定できないため,正確な知識を備えて対処する必要があります
【参考資料】
・佐藤惺 京都大学木材研究・資料 23巻 (1987)
「木材抽出成分と健康問題」
・原田千聡ほか 空気調和・衛生工学会講演論文集(2017)
「木材から発生するVOCの特徴と住宅における実測調査」
・東賢一 厚労省 第11回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会(2012)
「WHOと諸外国の取り組みについて」
・堀雅宏 室内環境 13巻 (2010) 1号
「室内環境指標としての総揮発性有機化合物(TVOC)」
・厚労省 化学物質安全対策室 「シックハウス対策 室内濃度指針」
・厚労省 「作業環境測定対象物質の管理濃度・許容濃度等一覧」
・経産省 「VOC排出抑制の手引き(2010)」
・厚労省 「木材粉じんによるがん」
・厚労省 「職業病リスト 労働基準法施行規則 別表第一の二」