【見映えの数値化】
印象評価の手法を用いて,壁材や床材の好ましい外観についての調査が実施されています *1,2)
色彩や光沢が与える印象について報告されていますが,外観の良否に影響する物理量は明らかにされていません
市販の木質フローリング材を対象として,画像特徴量と印象の関係についての調査も実施されています *3)
光沢が抑えられ,角度により明るさが変化する外観が好まれる結果になっています
これらは表面を処理した建材を対象としており,無垢の木材を評価した報告は限られています
ここでは国産の無垢材を対象とした報告 4 に,光沢度を説明変数として加え,データの揃う10樹種より見映えの回帰式を求めました
(報告では光沢度は評価されていませんが,微細な凹凸による反射は含まれていると推定しました)
得られた回帰式は以下の通りです
Y = 0.346*X1 - 0.155*X2 + 0.123*X3 - 0.0639
Y : 木材の嗜好性 (-1~+1)
X1: 木取り (板目:2,追柾:1,柾目:0)
X2: R値 (0~255) の標準偏差
X3: 光沢度 (a.u) , 文献 5 のグラフより読み取り
樹種 木取り R偏差 光沢度 嗜好性
実測 推定
アカマツ 2 8.23 7.5 0.29 0.27
スギ 2 6.63 6.0 0.30 0.34
ヒノキ 1 6.10 7.8 0.39 0.30
サワラ 0 3.69 7.4 0.39 0.27
ミズメ 1 5.70 5.8 0.10 0.11
シナノキ 1 6.05 7.1 -0.10 0.22
ブナ 0 4.03 5.9 0.02 0.04
ミズナラ 0 6.78 5.4 -0.44 -0.45
カツラ 2 7.18 5.8 0.36 0.23
キリ 1 9.55 7.5 -0.26 -0.28
板目の木取りで,色のばらつきが少なく、光沢度の高い樹種の外観が好まれる結果となっています
(回帰の精度を表す決定係数は0.82,切片を除く係数のP値は0.004~0.075)
異なる論文よりデータを引用しているため,材料の個体差は考慮できていません
外観の好ましさは認識が共通化されておらず,得られた数値の普遍性・再現性は明確ではありません
製品の用途や使用条件などを限定して扱う必要があります
1) 安田明ほか 京都大学木材研究資料 (1978) 12号
「木質材料の視覚特性に関する研究」
2) 増田稔 材料 第34巻 第383号 (1984)
「木材のイメージに与える色彩および光沢の影響」
3) 仲村匡司ほか 木材学会誌 Vol.62 No.4 (2016)
「木質床材の外観特性を記述する画像特徴量および印象評価との対応」
4) 信田聡ほか 木材学会誌 Vol.62 No. 6 (2016)
「日本産木材50種のデジタル画像を用いた視覚的好ましさの評価」
5) 伊藤三郎 照明学会雑誌 37巻 11号 (1953)
「木材表面による反射光の性質」