【横弾性率の導出】
木部はその大半が直径:数十ミクロン,長さ:数ミリ前後で中空構造の道管・仮道管から構成されています
その細胞壁は長い鎖状のセルロースを骨格として,その間を埋めるヘミセルロース,それらを被覆するリグニンから形成されています *1,2)
セルロースはヤング率が138GPaと金属に匹敵する硬さの材料であり,この繊維が筒状に伸びている樹幹方向では高い比強度を発揮します *3)
一方,壁や床では樹幹に垂直な方向に荷重を受けるため,筒状の細胞はより小さい力で変形し,材料に柔らかな印象を与えています *2)
一般に中空材料の剛性は,空間の大きさ,壁の厚さの関数となります
実際の木材ではこの他に,細胞の配列状態,放射組織の有無,季節による粗密などの影響を受けます
また早材・晩材による水分量の差異も大きな影響を与えています
【組成・構造との関係】
影響を与える因子を明らかにするため,国産広葉樹を対象として板目材のヤング率と組成・構造との関係を調べました *4,5,6)
国産広葉樹では,道管の複合,木部繊維の壁厚,リグニンの比率と正の相関が,道管の密度と負の相関が見られました
中空材料の壁厚は,伸縮変形にはその一乗で,曲げ変形にはその三乗で剛性に影響します
道管が複合すると空間は大きくなりますが,それに伴い壁厚も増加するため,剛性が向上すると考えられます
リグニンのヤング率についての報告は見つかりませんでしたが,細胞壁が強化され剛性が向上すると考えられます *7)
道管の密度が大きくなると,複合の場合と反対の作用により,剛性が低下すると考えられます
【参考文献】
1)「木材の力学的性質」
山田正 材料 第28巻 第312号 (1979)
2)「木材材質の異方性」
堤壽一 材料 第20巻 第218号 (1971)
3)「セルロースの構造と力学的極限」
西野孝 材料 第57巻 第1号 (2008)
4)「材の化学組成およびパルプ化試験」
米沢保正ほか 林業試験場研究報告 253号 (1973)
5)「日本産主要木材の材構成割合について」
平井信二 東京大学農学部木材材料学第一教室業績 第159号 (1960)
6)「広葉樹微細構造」
森林総合研究所 日本産木材識別データベース
7)「植物と人を“支える”細胞壁の科学」
飛松裕基 京都大学 生存圏研究 第13号 (2017)