【特徴】
東大寺の正倉院には奈良時代の宝物が良好な状態で保管されています
高床式の構造と三角材を交互に組み上げた校倉造りがこの環境を実現しています
倉内の気温と湿度の変動幅は外気の数分の一と非常に低く抑えられています
木材は水分を吸収・放出する特性があり,空間を調湿できる材料として広く用いられています
結露を防ぎ,細菌・カビ・ダニなどの増殖を防ぐ効果が確認されています
呼吸器の炎症,リューマチや神経痛などの症状を緩和する効果も報告されています
同一温度での含水率を比較すると,木材は羊毛・革に次いで高く,プラスチックやコンクリートの数倍以上の値となります
湿度50%時の含水率(吸湿等温線より)
・羊毛,革 18 %
・木材 10 %
・ナイロン 3 %
・コンクリート 1 %
このような特性は木材の組織構造に起因しています
木材の細胞は樹幹方向に伸びた中空の形状をしており,空孔を介して相互に連結されています
大気中の水分は,水蒸気圧と木材細胞との結合力のバランスにより吸放出されます
吸放出される水分の量は結合する細胞の総量,すなわち木材の質量に比例します
同じ寸法・形状であれば,比重の大きい樹種・部位の方が,吸放出の量が大きくなります
吸放出の速度は接触できる細胞の面積に比例します
表面に多くの細胞が現れる木口は,柾目や板目と比較して吸放出の速度が数倍,大きくなります
塗装の有無や仕上げの状態(表面の粗さ)によってもこの特性は変化します
コンクリート製建物の増加や住宅の高気密・高断熱化により,室内を調湿するニーズが高まっています
加湿・除湿器に加え,素焼きタイルや漆喰など調湿できる建材が市販されています
木材は調湿作用に加え,内装材に必要な強度,手触り,温もりなどの特徴を兼ね備えた素材と言えます
【設計要件】
樹種,樹齢,部位(芯材,辺材),外形寸法などにより水分の吸放出量が変化します
木取り,表面仕上げ,塗装の有無などにより吸放出の速度が変化します
木材の吸湿性については,JIS-Z2101に規定があります(木材の試験方法)
建築材料の調湿性については,JIS-A1470に規定があります(建築材料の吸放湿性試験方法)
樹種ごとの24時間吸湿量は“設計の指針”に,結露を抑制する使用率については“機能性の試算”に記載しています
【留意点】
木材は吸湿により形状や強度が変化します
湿度の大きな変動が予想される個所では,寸法の逃げや強度を確保する工夫が必要となります
【参考資料】
特徴
・成瀬正和 正倉院紀要 (2003) 25号
「正倉の温湿度環境調査Ⅱ」
・満久崇麿ほか 材料 28巻 (1979) 315号
「木質材料の居住特性」
・横田徳郎 材料 21巻 (1972) 220号
「木材中における水の拡散」
・葉石猛夫ほか 材料 46巻 (1997) 11号
「温湿環境と木材」
・林野庁HP (2017)
「科学的データによる木材・木造建築のQ&A」
・木を活かす建築推進協議会報告書 (2016)
「木の良さデータ整理検討」
・佐道健 材料 18巻 (1969) 193号
「塗装木材における塗膜の透湿性」
・福水浩史ほか 環境資源工学 52巻 (2005) 3号
「アロフェン系調湿建材に関する研究」
・大釜敏正ほか 京都大学木材研究資料 (1992) 28号
「内装材料の調湿効果」
・特許第4759550号
「スギ材を用いた二酸化窒素の浄化方法」
・石丸優ほか著 海青社 (2017)
「木材の物理」
設計要件・留意点
・永井智 兵庫県農技総セ研報(森林林業)55巻 (2008)
「木材の調湿・断熱性能評価」
・山田正ほか 京都大学木材研究所報告 (1952) 9号
「木材の吸湿(第一報)」
・登石健三ほか 保存科学 (1970) 6号
「空気湿度変化緩和剤としての木材の材種による相違」
・福山萬治郎 材料 28巻 (1979) 311号
「木材と水分」
・横田徳郎ほか 林業試験場研究報告 (1967) 198号
「針葉樹材の吸湿-脱湿拡散係数」
・岸久雄ほか 三重県工業技術総合研究所研究報告 (1999) 23号
「木材の調湿機能と塗装」
・木材水分計(HM-500/HM-520) カタログ
「比重表」
・平井信二 高分子 7巻 (1958) 4号
「木材々料の吸湿について」