【設計因子】
木材に触れた時の冷温感に影響する主な因子は以下の通りです
・木材の熱伝導率
・木材の熱容量(吸放熱含む)
・接触部の熱抵抗
【木材の熱伝導率】
木材と接触したときの冷温感は,熱伝導率の対数に比例します
熱伝導率が大きいと木材内部に温度勾配ができにくいため,身体との温度差を感じやすくなります
比重の小さい木材は内部に空気を多く含んでいるため,熱伝導率が小さくなります
主な樹種の比重と熱伝導率は以下の通りです *1,2)
樹種 比重 熱伝導率 (W/mK)
針葉樹
サワラ 0.34 0.079
ネズコ 0.36 0.084
スギ 0.38 0.087
トドマツ 0.4 0.090
コウヤマキ 0.42 0.093
エゾマツ 0.43 0.094
モミ 0.44 0.095
ヒノキ 0.44 0.095
ヒバ 0.45 0.098
ヒメコマツ 0.45 0.098
カラマツ 0.5 0.106
ツガ 0.5 0.106
イチイ 0.51 0.108
アカマツ 0.52 0.110
クロマツ 0.54 0.114
広葉樹
キリ 0.3 0.073
ドロノキ 0.42 0.091
サワグルミ 0.45 0.098
ヒロハノキハダ 0.49 0.108
ホオノキ 0.49 0.105
シナノキ 0.5 0.106
カツラ 0.5 0.106
セン 0.52 0.110
クスノキ 0.52 0.110
オニグルミ 0.53 0.112
ハンノキ 0.53 0.112
シオジ 0.53 0.112
ヤチダモ 0.55 0.115
クリ 0.6 0.126
シイノキ 0.61 0.128
ハルニレ 0.63 0.131
タブノキ 0.65 0.136
イタヤカエデ 0.65 0.135
ブナ 0.65 0.136
マカンバ 0.67 0.140
ミズナラ 0.68 0.142
ケヤキ 0.69 0.143
ミズメ 0.72 0.151
アサダ 0.73 0.152
シラカシ 0.83 0.176
アカガシ 0.87 0.186
イスノキ 0.9 0.193
他の材料
アルミ 236
鉄 83.5
ガラス(ソーダ) 0.650
コンクリート 1.000
ナイロン 0.270
空気 0.024
木材の熱伝導率には異方性があり,樹幹方向は直交する方向の約2倍の値となります
樹幹方向には木材の細胞が伸びているため,空気層の比率が下がり,熱伝導率が上昇します
主な樹種の熱伝導率の比率は以下の通りです *3)
樹種 樹幹/直交比
アッシュ 1.80
スプルース 1.97
ウォルナット 2.31
カシワ 1.94
カエデ 2.40
トネリコ 2.36
マツ 2.50
モミ 2.16
カエデ 2.52
ツゲ 2.43
コナラ 1.82
オニグルミ 2.62
チーク 2.13
マホガニー 1.94
オーク 1.72
ストローブマツ 2.65
【木材の熱容量】
木材の熱容量が大きいと,温度変化に必要な熱量が多くなり,身体との温度差を感じやすくなります
熱容量が小さくても,木材周囲との熱の移動(吸放熱)があると,同じ結果となります
コンクリートの躯体に薄い木材を貼り付けた床面では,見かけの熱容量が増え,温度差を感じやすくなります
躯体との間に熱伝導率の低い空気層を設けると,周囲との熱の移動を防ぐことができます
【接触部の熱抵抗】
接触部の熱抵抗が小さいと,熱の移動が容易になり,温度差を感じやすくなります
木材の熱抵抗は表面の粗さ,塗装の有無などにより変化します
表面粗さが大きいと接触する面積が減少し,界面に空気を保持できるため,熱抵抗が大きくなります
黄銅棒を用いた試験では,表面粗さを Ra = 1.1 から 2.2 (um) に拡大すると,抵抗値が40~50%上昇したと報告されています *4)
塗装を施すと表面の平滑性が高まるため,接触部の熱抵抗が小さくなります
2種類の国産材(柾目)に4種類の塗料を上塗りした試験では,熱伝導率が10~20%上昇しています *5)
塗膜は十分に薄いため,この変化は接触部の熱抵抗の減少によるものと考えられます
塗料 熱伝導率: アカマツ / スギ (W/mk)
下地のみ(ウレタンシーラー+研磨) 0.168 / 0.124
ポリブタジエン 0.191 / 0.147
アクリル+シリコン 0.191 / 0.135
ポリエステル 0.188 / 0.139
アクリル+ポリイソシアネート 0.192 / 0.133
【設計指針】
木の温かさを活かすには,以下の様な工夫が有効です
・熱伝導率の小さい樹種を選定
・接触面を板目・柾目に木取り
・熱容量,及び吸放熱量を小さく
・表面粗さを大きく
・無塗装もしくは平滑でない塗膜に
【参考文献】
1) 木材工業ハンドブック
丸善出版 森林総研監修
2) 理科年表
丸善出版 国立天文台編
3) MAKU,Takamaro 京都大学木材研究所報告13巻 (1954)
“Studies on the Heat Conduction in Wood”
4) 富村寿夫ほか 九州大学機能物質科学研究所報告 9(1) 1995
「うねりを有する固体面間の平均接触熱抵抗」
5) 穴沢靖ほか 色材協会誌 72巻 (1999) 6号
「軟質木材用コーティング材料の開発」