第5回城崎新人セミナー講演アブストラクト

全体講演(講演順 敬称略)


梶浦 宏成 (京都大学 理学研究科) : ホモトピー代数とその応用について

ここでホモトピー代数とは, Quillen の homotopical algebra のことではない. 基点付きループ空間などの持つ構造として, Stasheff'63 はstrongly homotopy associative algebra (A-infinity 代数)というものを導入した. これと同様に, 一般に高次の積を持ち, ホモトピーに関してうまく振る舞う代数がまとめて homotopy algebra と呼ばれている. このような代数の弦理論との関係と, 特に A-infinity 代数の場合の三角圏との関係(への応用)について, できるだけ高次の積を考える意味と必要性が伝わるようにお話ししたい.


戸田幸伸 (東京大学 IPMU) Stability conditions and counting invariants of semistable objects

三角圏の安定性条件はBridgeland氏により導入された概念であり、導来圏を通じた様々な対称性(McKay?対応など)との関わりが注目されている。 一方、安定性条件を与えたときに、それから定まる半安定な対象のモジュライ問題、及びそれらの数え上げ不変量を考えることは基本的な問題意識である。 本講演ではこれらの問題に関する自分の仕事について紹介する。


葉廣和夫(京都大学 数理解析研究所) 底タングルの圏と量子不変量について

(3次元の)ハンドルボディの中の底タングルとは、有限個のアークからなるタングル(1次元部分多様体)で、端点がハンドルボディの境界の中のディスクの中にあって、 各成分の2個の端点が隣り合っているようなもののことです。底タングルのイソトピー類がなす集合にbraidedテンソル圏の構造を入れることができます。 その中に、Hopf代数の構造が入ります。一方、量子群(リボンHopf代数)Hが与えられると、 左H加群の圏H-Modは、自然にbraidedテンソル圏を持ち、Hをadjoint actionにより、左H加群とみたものに、H-Modの中のHopf代数の構造が入ります。 底タングルの圏からH-Modへの、braidedテンソル圏とHopf代数の構造を保つ関手を定義して、量子不変量への応用について述べる予定です。


浅岡正幸 (京都大学 理学研究科) 力学系の変形空間と統計物理 -- 円周上の拡大写像の場合

ある力学系と位相共役な可微分力学系の微分共役類がどれくらいあるかという問題を考える. 周期軌道での微分の固有値が微分共役の不変量となることはすぐにわかるが,円周上の拡大写像の場合には,この局所的な不変量の全体が微分共役類を決定することが知られている. そこでこの場合には,与えられた不変量を持つ拡大写像が構成できれば上の問題はほとんど解決するのであるが, 全体が「よく混ざっている」ために,局所的な構成をつなぎあわせて欲しい写像を構成することはほとんど不可能である. 本講演では,逆に「よく混ざっている」がために,統計物理の手法が写像の構成に有効であることを見たい.また時間があれば,この構成法のより複雑な状況への応用例も概観したい


宮地兵衛 (名古屋大学 多元数理研究科) Lie環等の表現論に頻繁に登場する重要な数と多項式のホモロジー代数的もしくは圏論的解釈

なるべく一般向けのお題ということで、なるべく専門用語を使わないで 御話のアブストラクトを書きます.

群か群もどきか代数の表現を考えます. 群か群もどきか代数決めずに G と書きましょう.

[設定] G の表現空間は, ある互いに可換な作用による固有空間分解をもつ を場合を考えます. 基本的に知りたいことは、G の表現の情報です. たとえば、基本中の基本として既約表現は何次元か?とかですね. Lie環等の表現では、固有空間分解はCartan部分環の可換な作用から来ています. weight分解をもつと言われる場合です. 私が考えたい設定では、weight分解の他にVerma加群やWeyl加群といった 極大部分G-加群がただひとつしかなく、かつ、固有空間に順番がつけられて 最も高い固有空間が一つきまるといった良い性質をもつstandard加群をもつ G のみを考えています. (また Gの表現の圏には、k を体としてHom(-,k)のような双対閉手があることも 仮定します.) こういったことが内包されている表現の圏としてHighest Weight Category というものがあります.

[ゲーム] そこでの基本的なゲームはstandard加群は、良く分かる加群と思って、 それらを使って既約加群の情報を得ることです. 固有空間の順番から standard加群に入っている組成因子の数と種類を表に すると、下三角にとれる格好になります.

話を、もうちょっと限定して Lie環, 代数群, 量子群の表現の場合を考えると この表は、実はある1変数多項式に1を代入すると得られる形として 求められます.

重要ポイントを列挙すると

  1. この重複度の数を直に求める手段は、一般的にはないのですが、 多項式にあがったから計算可能となること. closed formulaは 一般には知られていない.
  2. この多項式には、幾何的な意味があること.
  3. この多項式には、組み合わせ論的意味がある(りそうな)こと.
  4. この多項式には、Gの表現の圏のhomology代数的な意味があること.
  5. 整環の表現論等に登場する完備離散付値環等からくる次数付けが予想としてありそうなこと. (アリスメティックな性質) ([2]が、一番完成度が高く、大半の場合[1]は[2]に依存しています. [5]が一番分かっていません.)

今回の私の御話では、[4] 番に話をしぼって具体的な G をいくつかえらんで 私が関係した仕事をこの枠組みで説明していく予定です. ([1],[2],[3],[5]の説明は、時間の関係上できません.) [4]の文脈で、どのように多項式が説明されていくか? (最近の言葉では "categorification"が近いkey word.), や理論は完成されていない部分が 多いため野望をもてるといった面白さがあります.

またここでの G は、いろいろな G を考えてそれらの表現の圏の相互の間の 閉手たちも考えることも重要で面白い話となってきます. 仲間同士の G たちの表現の圏たちを自然に並べることや, 逆に 一見仲間に見えなさそうな G たちの表現の圏が関係したりもします.


赤穂まなぶ (首都大学東京 数理科学) ラグランジュ部分多様体のフレアーホモロジー入門

本講演では、ラグランジュ部分多様体のフレアーホモロジーについて解説を行います。まずはじめに、シンプレクティック幾何学の軽い準備をしたのち、アーノルド予想を紹介します。 次に、フレアーホモロジーの考え方の基礎となるモースホモロジーを解説し、閉多様体のモースホモロジーが特異ホモロジーと同型になることの証明を与えます。 そして最後に、「ループ空間上のモースホモロジー」を考えることにより、フレアーホモロジーのアイデアに到達する過程を概観しようと思います。 仮定する知識は、多様体論の基礎で十分ですが、胞体分割を用いた特異ホモロジーの計算方法を知っていると、より理解が深まると思います。


代数セッション講演 (講演順 敬称略)


小寺 諒介 (東京大学 M2) On Kirillov-Reshetikhin crystals for type A

アファイン量子展開環の表現にはKirillov-Reshetikhin加群とよばれる有限次元既約表現の族があり,結晶基底を持つと予想されている. この予想はA型のときには解決されており, Young盤を用いた結晶基底の記述が知られている. 講演では量子展開環と結晶基底の定義, A型Kirillov-Reshetikhin加群の結晶基底の組合せ論的な記述を紹介し,ある2つのKirillov-Reshetikhin加群のテンソル積の結晶基底の構造について説明する.


梶 真理香 (奈良女子大学 M2) p元体上の二次特殊線型群のある既約表現の決定

目的は,保型形式の整数論への応用を持つ二次特殊線型群のある表現空間の基底を具体的に与えることです.具体的にはBorel部分群の1次表現から誘導される表現を考えていきます.


関谷 雄飛 (名古屋大学 M2) グレブナー扇を用いたG-軌道のヒルベルトスキームの構成

G-軌道のヒルベルトスキームは、商特異点の特異点解消と深く関係しています。 実際、2次元の場合には極小特異点解消になることが知られています。伊藤由佳理は、グレブナー扇を用いて2次元巡回商特異点の極小特異点解消を構成しました。 今回は、一般の次元においてグレブナー扇を用いてG-軌道のヒルベルトスキームが構成できることを紹介します。


土居 毅士(京都大学 M2) 射影空間上のベクトル束について

射影空間上のベクトル束(直線束に分解されないもの)の存在問題はこれまで多くの代数幾何学者が挑んできましたが、次元が高くなると未だに分かっていないことが多くあります。 Hartshorneによる次元が5以上ではそのようなベクトル束は存在しないという予想がありますが、基礎体の標数が2であれば5次元の場合、丹後束と呼ばれるrank2のベクトル束の存在が知られています。 今回の講演ではこの丹後束の構成方法を紹介したいと思います。


川谷 康太郎 (大阪大学 M2) 4次元既約シンプレクティック多様体への有限群作用について

既約シンプレクティック多様体(超ケーラー多様体)はK3曲面の高次元化とみなせます。K3曲面はすべて変形同値である事が知られています。 一方、現在発見されている既約シンプレクティック多様体の変形同値類は、4種類です。講演では新しい変形同値類を見つけることを動機として、 Beauville-Donagiによる4次元既約シンプレクティック多様体への有限群作用について(修士論文で調べた事を交えながら)話そうと思います。


山野井 隆晃(北海道大学 M2) 有限可換群スキームの双対性について

群スキームとはスキームのなす圏における群対象のことで,位相群や Lie 群の代数幾何的なアナロジーです. 有限群スキームの理論は標数が0の場合には有限群の理論と等価になりますが,正標数の場合には古典的な有限群の理論を真に包括するものとなります. 本講演では,よく知られている有限アーベル群の双対性と同様の双対性が有限可換群スキームにおいても見出せるということを簡単に紹介させていただきます.


森 伸吾(京都大学 M2) 概均質ベクトル空間に付随するGauss和について

最も基本的な概均質ベクトル空間の一つであると思われる、対称行列のなす空間に一般線形群が作用している実数体上の概均質ベクトル空間に対して、L関数が考えられます。 そのL関数の関数等式にあらわれてくるGauss和について、今回話したいと思っております。 時間があれば、ほかの概均質ベクトル空間の関数等式とGauss和の関係についても述べたいと思っております。


原 隆(東京大学 M2) 総実代数体の非可換岩澤理論の展開

近年 Coates 等によって非可換拡大に対する岩澤主予想が代数的K理論を用いて定式化され、加藤和也等によって特別な拡大に対して主予想が成立することが示されてきました。 本講演では、この非可換岩澤主予想を紹介し、主予想の証明を可換な拡大の主予想に帰着させる Burns の画期的な手法を紹介します。 時間が許せば、講演者が実際に Burns の手法を用いて得た結果についても紹介したいと思います。非可換岩澤理論の魅惑の世界を少しでも感じ取っていただければ幸いです。


並川 健一(大阪大学 M2) 虚数乗法をもつAbel曲面と保型形式

虚数乗法をもつAbel多様体のL関数は、量指標のL関数で書けることが知られています。 特に1次元、2次元の場合に、この関係を具体例を交えてお話しようと思います。 また保型形式にもL関数が定義されます。以上の3つのL関数が一致する対応についても触れたいと思います。


幾何セッション講演 (講演順 敬称略)


近藤 悠佳子 (奈良女子大学 M2) 3次元球面内のpre-fiber surfaceのdeplumbingについて

3次元球面内の結び目には結び目解消数と呼ばれる不変量が定義されている. Sharlemann氏-Thompson氏は結び目解消数が1の結び目Kには, その結び目解消操作と密接に関係する最小種数ザイフェルト膜が存在することを示した. 小林毅氏はさらにKがファイバー結び目ならば, このようなSからpre-fiber surfaceと呼ばれる自明な結び目のザイフェルト膜が導かれることを示した. 本講演ではpre-fiber surfaceのdeplumbingでどのような曲面が得られるかという問題に関して紹介する.


升本 功樹 (大阪大学 M2) 基本群のPSL(2,C)表現の体積

3次元双曲多様体が与えられると、ホロノミー表現として基本群のPSL(2,C)表現が得られる。 Dunfieldはpseudo-developing mapを導入し、一般にPSL(2,C)表現の体積を定義した。 簡単な考察から多様体の切り開きに関するPSL(2,C)表現の体積の公式を与えます。またその系としてグラフ多様体の任意の表現の体積が0となることを示します。


北山貴裕 (東京大学 M2) 結び目群のSU(2)-表現空間の対称性と正規化されたねじれAlexander不変量

3次元球面内の結び目に対するねじれAlexander不変量は多項式環の単数倍の差を除いてwell-definedであるが,組み合わせ的な手法によって正規化する方法を与える. また,結び目群のSU(2)-表現の共役類全体の空間上に考えられる2種類の作用について論ずる. 特に,Reidemeister-torsionを用いてcanonicalな向き及びRiemann計量を定められる部分空間に着目する.応用として,表現空間上の関数としてのねじれAlexander不変量がある対称性を持つことを明らかにする.


安部哲哉 (大阪市立大学 M2) トーラス結び目の交代化数について

結び目の交代化数とは、与えられた結び目を交代結び目にする為に必要な交差交換の最小回数である。 この講演では、結び目の符号数とコバノフホモロジーから得られるラスムッセン不変量を用いて、 トーラス結び目の交代化数を下から評価する。


伊藤昇 (早稲田大学 D1) 語を用いた曲線の有限型不変量について

ヴァシリエフ(V. A. Vassiliev)は結び目の量子不変量を低次項から近似する,有限型不変量を導入した. 一方,トラエフ(V. Turaev)はトラエフ自身による語の理論を用いて結び目の不変量が,結び目のどんな情報を使っているのかを考察している. また,アーノルド(V. I. Arnold)はヴァシリエフの考えを平面曲線に適用して, 平面曲線に対する次数1の有限型不変量(と呼ぶことができるもの)を構成し,ポリャク(M. Polyak)がそれを整理し直した. 本講演では語を用いて曲面上の曲線の完全不変量となるような有限型不変量を構成する.その後で有限型不変量という視点で既存の不変量と新たな不変量との関係をみていく. [講演OHPはこちら|http//insei.math.kyoto-u.ac.jp/2008/OHP/itou.pdf]


GIBSON, Andrew (東京工業大学 M2) 仮想糸について

近年注目を集めている仮想結び目は,平面上の結び目図に仮想交点を許したものを,ある同値関係(仮想ライデマイスター移動)で割ったものとして定義される. これに対して仮想糸は,仮想結び目の実交点(仮想交点ではない交点)の上下関係を無視したものとして定義される. この講演ではトゥラエフによって定義された仮想糸の不変量を紹介する. また,仮想糸に対して縄編み(ケーブル)という操作を定義し,この操作でトゥラエフの不変量がどう変化するかを説明する. 最後に,トゥラエフの不変量を利用して,4交差までの仮想糸を決定する.


橋本要 (大阪市立大学 M2) 余等質性1のカラビ-ヤウ計量とスペシャルラグランジュ部分多様体について

ケーラー多様体上にケーラー構造を保つ余等質性1のリー群の作用が与えられたとき、 この群作用で不変なカラビ-ヤウ計量を求めるという問題は常微分方程式を解く問題に帰着されると考えられる。 この1つの例として、 M. Stenzelが構成したコンパクト対称空間の接束の上へのカラビ-ヤウ計量がある。 本講演では、この構成法について紹介し この計量を用いたスペシャルラグランジュ部分多様体の例についてお話したいと思います。


森谷駿二 (京都大学 D1) 代数構造の分類空間とオペラッド

オペラッドはループ空間のホモトピー論的な特徴づけの研究の際にJ.P.Mayによって導入された概念で, 位相空間上のある種の代数構造(例えば位相モノイドのような)を統制するものです. 一つ位相空間を固定したときに,そこに入り得る代数構造のなす空間(分類空間)がオペラッドの写像空間にホモトピー同値である,というC.Rezkの結果を紹介します. あまり予備知識は仮定せずに,オペラッドの定義から説明していく予定です.


山崎雅人(東京大学 M2) categorification of knot polynomials, topological strings and refined topological vertex

近年、Khovanovによるsl(2)のJones多項式のcategorification(圏化)に端を発し、結び目不変量のcategorificationが盛んに研究されている。 一方、これらの拡張された結び目不変量は、位相的弦理論の観点から、BPS状態の数えあげとして理解され、Gopakumar-Vafa不変量、Gromov-Witten不変量との関連が示唆されている。 昨年、この結び目不変量を計算するためのテクニックとして、refined topological vertexが提唱されたが、具体的な進展はまだあまりないのが現状である。 今回の講演では、これらの話題について概観を試みると同時に、数学サイドでどのような計算が必要とされているかについて述べたい。