第1回城崎新人セミナー 全体講演のアブストラクト

入谷寛(京大理D1) : 量子コホモロジーとD加群

シンプレクティック多様体の量子コホモロジーとは、 多様体の中のholomorphicな球面(S2)の個数を数えることにより、 通常のコホモロジー環の積構造を変形して得られるものである。 本講演では、まず数え上げ幾何学的な意味から入り、 量子コホモロジーとD加群の関係を説明したい。 さらに出来れば、旗多様体の場合の計算を紹介し、 量子可積分系(戸田格子)との関係を見たい。


佐藤 憲太郎(神戸大M2):ストーカーとその利点

トポスとは, 層全体のなす圏の一般化であり, 次の二つの側面がある. 第一は, 空間はその上の連続函数全体により規定される, 或はその上の層全体により規 定されるという観点に基づく空間の抽象化としての側面である. 第二は, 全数 学を展開する枠組としての集合の宇宙が, 空間に沿って連続的に変化している という見方による, 必ずしも固定されてはいないものも考えるという意味での, 集合の宇宙の抽象化の側面である. Cohen が連続体仮説の独立性証明の為に導 入した, 無矛盾性の数学における最も基本的な手法の一つである強制法は, こ の意味でトポスと見なせることが知られている. 本講演では, 空間における点の概念が対応する抽象化を考える. 無矛盾性の数 学の文脈では, 既存の点の概念が使えない. 特に, 二つの代表的な既存の点の 概念, 位相空間上の点及びトポスの点(幾何学的点)では, 前者は抽象度が低す ぎ, 後者は抽象度が高すぎる. そこで上記第一の側面に対応して, 茎を定義す るものとして点の概念を素朴に抽象化し, ストーカーと名付ける. この概念が, 上記の二つの概念の中間的な抽象度を持つこと, そして Grothendieck-トポス におけるトポスの点の特徴付けに照らすと自然なクラスをなしていること, な どを説明する. 最後に, 無矛盾性の数学特有の考え方の基礎を概説し, ストーカーの概念の幾つかの応用を挙げたい.


大槻知忠(京大数理研) :結び目の Kontsevich 不変量の概説

円周 S1 の3次元球面 S3 へのうめこみを結び目といい、 自己交叉しないように変形してうつりあう結び目を isotopic という。 結び目の集合からある集合(多項式環などのよくわかった集合)への写像で isotopic な結び目に対して同じ値をとるものを不変量という。 1980年代に、量子群や Chern-Simons 場の理論と関連して、 大量の結び目不変量が発見された。 Kontsevich 不変量はそれらの中で最強の不変量である。 この講演では、Kontsevich 不変量について、 基礎的なこと(KZ 方程式や associator など)から 最新のトピック(ループ展開)まで、概要を解説する。


栗屋隆仁(九大M2) : 普遍摂動的不変量(LMO不変量)について

任意の単連結単純Lie群に対して、有理ホモロジー3球面のLMO不変量は摂動的不変量を再現するという予想(LMO予想、BGRT or Leの定理)に対して一つの証明を与える。また時間が許せばレンズ空間に対する計算例にも触れる予定である。


前野俊昭(京大理) : Schubert多項式とその仲間

Schubert多項式は旗多様体の交叉理論を記述する多項式であると同時に、 Schur多項式の拡張として対称群の表現に関する情報も含んでいる。 講演ではSchubert多項式の他、二重Schubert多項式やGrothendieck多項式等の 関係の深い多項式について紹介し、表現論と幾何での簡単な応用例に ついても述べたい。余裕があればそれらの量子化についても触れる。


加藤文元(京大理) : Rigid解析幾何学とその応用

Rigid解析幾何学とは、p-進体等の非archimedes的付値体上の「解析」幾何学 として、1961年代にTateにより始められた幾何学体系である。当初は主に数論 幾何学への応用を目指して出発したが、後の発展の中で、多くの当初は予想さ れなかった応用を見いだしてきた。現在では単に「非archimedes的幾何学」の 試みという当初の姿にとどまらない、基本的かつ巨大な幾何学理論に発展しつ つある。また、その解析空間の構成の基本的考え方(例えば「rigid的」貼り 合わせの考え方)は、例えばKontsevichによるミラーの構成への応用のアイデ アに見られる様に、代数、数論幾何にとどまらず、広く数学全般に影響を与え 得る「基本コンセプト」になっている様にも思える。本講演では、Tate以来の rigid幾何学の発展について概観し、その応用や基本的な考え方について概説 する。


吉永正彦(京大数理研D2) : 超平面配置の組合せ論とベクトル束の幾何学

ベクトル空間とその中の有限個の余次元1の部分空間の組を 超平面配置と呼びます。超平面配置が与えられると、その 組合せ論的不変量として特性多項式が決まります。A型の 超平面配置を主な例に、古典的な結果や手法、特性多項式の 幾何学的な意味、最近の問題などを紹介したいと思います。