宝塚良元校(定時制高校)で、2006年2月から2012年3月まで、地域の人を対象とした文学講座をひらきました。
文学講座全10回(36日)の内容一覧
第1回 文学講座―小説を読むことを楽しむ―
(2006年2月18日~3月11日)
1
池谷信三郎「忠僕」(1926)
今はほとんど知られていない作家の、たぶん誰も読んだことのない短編を取り上げた。「忠僕」の三章までを読み、結末の四章を各参加者に予想してもらった。《小説の結末を予想する》という作業を通して、小説の読み方の基本を考えた。
⇒『読みきかせから始まる 絵本から『サラダ記念日』まで』(久山社)のⅡ部第一章を中心に話した。
2
川端康成「伊豆の踊子」(1925)
戦前戦後を通して六度映画化され、高校の教科書にも採用され、翻訳もされている作品。原作と映画、教科書、翻訳を比較。
3
大江健三郎「不意の唖」(1958)
大江健三郎の初期の短編。参加者からいろいろ意見を出してもらって読書会形式で。参加者が4名と、文学講座最少参加者数。2012年冬講座で再度取り上げた。
4
村上龍「フィジーのアイスクリーム」、村上春樹「蛍」
村上龍『料理小説集』(1988)からの一編と、村上春樹『ノルウェイの森』の原型「螢」(『螢・納屋を焼く・その他の短編』(1984))取り上げた。
申し込み12名
第2回 文学講座―物語の転生について―
(2007年2月16日~3月8日)
1
芥川龍之介と黒澤明
小説「藪の中」と映画「羅生門」を比較する
※「今昔物語集」を芥川がどのように換骨奪胎したか、芥川の短編を黒澤がどのように映画化したかを検討しました。
2
中島敦「山月記」
※原典である中国の「人虎伝」を紹介し、中島敦がどのように自分の小説としたかを比較検討。さらに野村萬斎演出の劇「敦」を一部上映しました。
3
三島由紀夫『金閣寺』と水上勉『金閣炎上』
※金閣寺焼失という事件から生まれた全くタイプの違う二つの小説を比較検討しました。
4
「藤沢周平と山田洋次」
※映画『たそがれ清兵衛』のもとになった三つの短編を紹介し、映画がどのように作られているかを検討しました。
申し込み18名
第3回 文学講座―小説の方法、物語の力―
(2008年2月16日~3月8日)
1
近代小説は夢をどう描いたか
夏目漱石「夢十夜」、芥川龍之介「夢」、中島敦「幸福」を中心に
2
最初の知恵の冒険
柳田國男、筒井康隆「北極王」を中心に
3
変身譚という方法
石川淳「アルプスの少女」、安部公房「棒」を中心に
4
現代の奇譚
梨木香歩「からくりからくさ」、村上春樹「バースディ・ガール」
申し込み者数 14名
小説と物語とはどう違うか
・「古い」文学ジャンルである物語と、「新しい」文学ジャンルである小説
・昔話には一定の型がある。(ウラジミール・プロップ)
・定型を守ろうとする物語と、定型を破ろうとする小説。
・物語的な「大衆小説」と、脱物語的な「純文学小説」
第一回 近代小説は夢をどう描いたか
中心に論じた作品
参考としてふれた作品
夏目漱石「夢十夜」第三夜
芥川龍之介「夢」、中島敦「幸福」、小泉八雲、
万葉集から現代までの夢を扱った作品
落語「天狗裁き」
夢の文学史
中国の場合 胡蝶の夢、邯鄲の夢など
日本の場合(万葉から江戸まで)
・万葉集 恋人が夢で会いにくる
「相思はず君はあるらしぬばたまの夢にも見えず祈(うけ)ひて寝(ぬ)れど」
「被思夢」は万葉集に多く、中国文学には絶無。古代日本人の夢の本領はこれ。
・日本書紀 神の意志を夢で知る
・夢は神仏のお告げ 今昔物語集など
・源氏物語 生霊の跋扈、運命を動かす夢
・浜松中納言物語 夢と転生
・大鏡 夢はあはせるもの(夢とき)
・曽我物語(北条政子)、宇治拾遺物語(吉備真備)夢は買い取ることのできるもの
・太平記 夢見によって荘園を与えようとするのを断った話。夢の権威を疑う。
・世阿弥「複式夢幻能」 夢に現れた霊が、時間を越えて思いを語る。
・江戸時代 夢のパロディ。夢の神秘性の否定。
日本の場合(明治以降)
・夏目漱石 「夢十夜」
・芥川龍之介 「夢」 ・内田百閒「道連」他
・宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」、「青森挽歌」
・中島敦 「幸福」 原典は「列子」
・谷崎潤一郎 「過酸化マンガン水の夢」
・島尾敏雄 「夢の中での日常」「夢屑」 夢そのものを描こうとする試み
・三島由紀夫 「豊饒の海」四部作 「浜松中納言物語」にヒントを得た
・筒井康隆 「夢の木坂分岐点」「パプリカ」 フロイト等の夢理論を
・柳美里 「ゴールド・ラッシュ」 ドストエフスキー的な夢の使用
・村上春樹 「ねじまき鳥クロニクル」「スプートニクの恋人」「海辺のカフカ」
第二回 最初の知恵の冒険
筒井康隆「北極王」
柳田國男、寺山修司「田園に死す」
森絵都「アーモンド入りチョコレートのワルツ」
映画「全身小説家」、落語「弥次郎」
・柳田國男は子どものうそを「最初の知恵の冒険」と呼び、文学の源泉ととらえた。
・「北極王」90年ころに発表され、短編集『最後の伝令』(93年)に収められた。のち新潮文庫に。また三省堂の教科書「現代文」に掲載された。
・森絵都「彼女のアリア」(『アーモンド入りチョコレートのワルツ』所収)
・映画『全身小説家』(原一男監督)に描かれた小説家井上光晴(「地の群れ」「明日」の作者、文学伝習所。)うそつきみっちゃんの姿
・寺山修司。『空には本』はまだ現実的な歌があった。とろが歌集『田園に死す』になると、現実からはるかに離れた虚構・ウソの短歌となる。(弟はいない、母は健在)映画『田園に死す』は実験性に富んだ映画であり、寺山修司の芸術観がよく伝わってくる。その根底には、母に対する愛憎表裏一体の感情がある。
第三回 変身譚という方法
石川淳「アルプスの少女」
安部公房「棒」
ヨハンナ・スピリ「ハイジ」
戯曲「棒になった男」、カフカ「変身」
太宰治「魚服記」
・ギリシア・ローマ神話にはナルシスの水仙への話のほか変身譚がある。『変身物語』
・南米のインディオの神話には、多くの変身譚がある。(レヴィ・ストロース『神話論理』)
・日本の神話でも、ヤマトタケルは死んで白鳥に変身する。
・中国に人が虎に変身する話は「人虎伝」ほか多く伝わっている。それを原典にして換骨奪胎したのが中島敦の「山月記」。
・雨月物語(1776年刊) 上田秋成による怪異小説(菊花の契り、浅茅が宿、吉備津の釜、蛇性の淫、青頭巾など九篇)。多くは中国の小説の翻案。「夢応の鯉魚」の原典は明の白話小説『古今説海』「魚服記」。
・フランツ・カフカ(1883~1924)「変身」「審判」「城」「アメリカ」などがある。
・「魚服記」 太宰治の最初の作品集『晩年』(1936年)所収。
第四回 現代の綺譚
村上春樹「バースディ・ガール」
梨木香歩「西の魔女が死んだ」「からくりからくさ」「家守綺譚」他
まとめ
夢、嘘、変身譚、綺譚という四つは重なりながら、一つの文学の領域を形づくっている。それは写実主義、リアリズム、告白、私小説、伝記などの「事実に基づく文学の世界」とは、対照的なもの。素朴なリアリズム文学とは「現実に対する接近の仕方」が違う。夢、嘘、変身譚、綺譚というような方法的な戦略をとることで初めて見えてくるものがある。小説家は古くからある物語の力に依拠しながらも、その牽引力をいかにして脱するかというさまざまな試みをして、新しい小説を書いている。そうでなければ、小説はこれまでの物語の反復・繰り返しにすぎなくなる。
第4回 文学講座―現代児童文学の傑作を読む―
(2008年7月19日~8月2日)
1
梨木香歩『西の魔女が死んだ』を読む
2
あさのあつこ『バッテリー』を読む
3
上橋菜穂子『精霊の守り人』を読む
※NHKアニメ版も一部上映
申し込み者数 10名
『児童文学の境界へ 梨木香歩の世界』(2009、久山社)
『物語のかなた 上橋菜穂子の世界』(2010、久山社)
『人気のひみつ、魅力のありか 21世紀こども文学論』(2011、久山社)
の児童文学三部作の執筆と並行しながら話した。
第5回 文学講座―現代詩を読む―
(2009年2月7日~3月7日)
1
ことば遊びの魅力とライト・バース 16人35編を紹介
2
生活の中のことば(方言詩を含む) 14人26編を紹介
3
生まれることと死ぬことと 6人10編を紹介
4
詩は戦争をどう受けとめたか 7人8編を紹介
申し込み者数 18名
第一回 ことば遊びの魅力とライト・バース
1 「的」「位置」 新國誠一 ※コンクリート・ポエム(具体詩)
「虫くいりんご」 ラインハルト・デール
「キラキラヒカル」入沢康夫 ※アクロステック
坂本百次郎、久保道夫、斎藤みち子 ※三編ともに「いろは歌」
2 「亥短調」「漢字喜遊曲」より4編 吉野弘
3 「ことばあそびうた」より6編 谷川俊太郎
4 まど・みちおの世界 8編
5 「<毛>のモチィフによる或る展覧会のためのエスキス」、「exercise Ⅰ」、那珂太郎
6 「ごびらっふの独白」「春殖Ⅰ」「冬眠」 草野心平
7 「悪態採録控 ⑴」川崎洋
☆『詩のボクシング』ねじめ正一VS谷川俊太郎を一部上映
8 「うどん玉・バカンス・うどん」「こぶうどん」 町田康 ビデオ上映
9 「便所掃除」 濱口國雄
10「身上話」 富岡多恵子
11「演説」 斎藤庸一、「海で」 川崎洋
第二回 生活の中の詩
1 「たかが詩人」「九月の風」黒田三郎
2 「貧しい町」「その夜」石垣りん
3 「表札」「シジミ」「くらし」石垣りん 朗読ビデオ上映
4 「少年期」「佃渡しで」吉本隆明
5 「妹へおくる手紙」「博学と無学」「鼻のある結論」山之口獏
6 「会話」「生活の柄」「弾を浴びた島」山之口獏
NHKの「獏さんを知っていますか」という番組の一部を紹介。
7 「イヌノフグリ」片岡文雄
8 「びっと」小松弘愛、「うち 知ってんねん」島田陽子
9 「わだすの大学」吉田啄子、「美しい或る未亡人像」山本和夫
10 「新年の声」天野忠、「夕映えのころ」宇多良子
11 「冬のボーナス」林かよ、「春」坂本遼
12 「いち の へや」東淵修 朗読ビデオ上映
13 「にい の へや」東淵修 朗読ビデオ上映
第三回 生まれることと死ぬことと
1 「I was born」吉野弘
作者自身の朗読と、作品解説を紹介。
2 参考資料、「父」「奈々子に」吉野弘
3 「永訣の朝」宮澤賢治、
4~6 「青森挽歌」宮澤賢治
☆「青森挽歌」は二百五十四行の長編詩。妹の死の一年後に書かれた。この詩の解釈については難解な部分が多いのですが、細かな部分はともかく大きな流れがどうなっているかをまずつかむことが必要。宮澤賢治の詩の特徴でもある、カッコ、二重カッコ、字下げなどが何故生じているか。
7 「ブラザー軒」菅原克己、「はつ鮎」中勘助
「ブラザー軒」菅原克己をフォーク歌手の高田渡が唄っているので、そのCDを紹介。
8 「花の名」茨木のり子
9 「父の死」谷川俊太郎
10 「夜のラジオ」谷川俊太郎
第四回 詩は戦争をどう受けとめたか
1 「死んだ男」鮎川信夫
2 「わたしが一番きれいだったとき」茨木のり子
3 「理髪店にて」長谷川龍生、「碑銘」原 民喜
「崖」石垣りん、「豆腐」井上俊夫
4~7 「鎮魂歌」那珂太郎
8~9 「ハイ、班長殿、ヨカッタデアリマス!」井上俊夫
10 参考資料・朝日新聞08・12・12・惜別 井上俊夫
第6回 文学講座―国語教科書の文学作品を読む―
(2009年7月18日~8月1日)
1
菊池寛「形」、芥川龍之介「鼻」
2
横光利一「蠅」、太宰治「水仙」
3
黒井千次「子供のいる駅」、川上弘美「神様」、村上春樹「レキシントンの幽霊」
申し込み者数 28名
第一回 菊池寛・芥川龍之介
Ⅰ 高校国語教科書はどんな文学作品を載せてきたか
・阿武泉氏の資料を使いながら昭和23年から現在までを概観する
・1997(平成9)年と2009(平成21)年を比較する
Ⅱ 菊池寛と芥川龍之介
Ⅲ 菊池寛「形」
Ⅳ 芥川龍之介「鼻」(1916・大正5)
特徴 ①今昔・宇治拾遺を換骨奪胎、王朝を近代的な視線で描く
②知的な文体
・分析的文体(理由は二つある、とか)
・英文翻訳調(~するにはあまりにも~)
・古語、漢語、外国語をまぜたペダンティズム(衒学的な文体)
・斬新な表現(鏡の中にある内供の顔は~)
③心理分析の鮮やかさ
・自尊心、他人の目 ・傍観者の利己主義
④ユーモア
⑤典型的な「起承転結」
第二回 横光利一・太宰治
Ⅰ 横光利一と太宰治
Ⅱ 横光利一「蠅」
☆「私は何よりも芸術の象徴性を重んじ……(略)……構図の象徴性に美があると信じていた」
十章から成る短編
・構成の特徴(モンタージュ的な構成)
☆交わされる会話がずれていることの意味を考える
☆事件(事故)に対する非人情な眼。蠅の眼から見れば「人間の悲劇」も意味がない。人間中心的な世界の見方を一旦カッコに入れてみる、という書き方。
☆蠅と人間たちの対比
・蠅……蜘蛛の網から逃れて、命を取り戻した。……落ちる馬車から飛び立つ。
・人間たち……それぞれのドラマを抱えながら馬車に乗り合わせ……落下して死ぬ。
Ⅲ 太宰治「水仙」
☆太宰治は、意外なくらい先行の作品をもとにして作品を作り出している。例「魚服記」、「走れメロス」、「惜別」(魯迅の「藤野先生」をもとに)など。「水仙」もその一つ。但し、先行する作品に対する語りなおし・再話ではなく、解釈・変奏として。
☆J・ジュネットの『パランプセスト』にいう所のイポテクスト(先行する作品)とイペルテクスト(派生した作品)
☆「水仙」の特徴の一つは同じ事柄が何度も色合いを変えて語られていくことだ。
⑴「忠直卿行状記」に対する思い・疑念
・家来はわざと負けていたのではなくて、本当に殿様にかなわなかったのではないか……自分の力が信じられぬ天才の不幸
⑵草田家との関係
「お互い親しく交際している」「出入りを許されている」「交際をお願いしている」
⑶正月に草田家で受けた大恥辱/草田氏から静子夫人の実家の破産を聞く。異様な冷厳が理解できた。/婦人の手紙「気ままな酔いかた、本当の生き方、虚飾も世辞もなく、ひとり誇りを高く」
☆太宰治の文体の特徴
⑴「夫人は、――ああ、こんな身の上の説明をするよりも、僕は数年前の、或る日のささやかな事件を描写しよう。そのほうが早道である。」
……自分の語り方に対する自意識の表れ。読者の感想を先取りしている(読者が退屈するのを察知して)
⑵自嘲的な調子(自分で自分を悪く言う)
・ひがみ無根性の強い男。/やり切れない悪徳である。/僕自身が、だらしなかったからである。/最後の一句に、僕は浮かれてしまったのだ。/白状するが、僕はそのころ、いい気になっていた。/ふやけた気持ちでいた時、/色気たっぷりの返事を書いて、/話にならない。みじめなものである。……
⑶信念の吐露(心の中のことば)
「僕には、信じている一事があるのだ。誰かれに、わかってもらわなくともいいのだ。いやなら来るな。」
⑷他者の口を借りた自己称賛
「これが本当の生き方だ。虚飾も世辞もなく、そうしてひとり誇りを高くして生きている。こんな生き方が、いいなあと思いました。」
第三回 黒井千次・川上弘美・村上春樹
Ⅰ 黒井千次「子供のいる駅」
・この小説はいわゆる「ショートショート」。
・4/5ぐらいは、きわめてリアルな小説だ。少年の眼に駅が異質な空間と映っているのがよくわかる。問題は急転直下、ラストに向かう超現実的な展開だ。
・この小説のポイント
⑴語りの二つの位置について
☆冒頭部分は「大人の位置・大人の眼の高さ」でこの小説の行方を予告し、語り手の評価も示している。
《はじめての一人旅というものは、まだ幼い心と体にどれほどの緊張と期待と夢を背負わせるものであることか。……(略)……そして、その旅で、小さな出来事や奇妙な冒険に出会ったからといって、その子供が不幸であったと決めることは誰にも許されない。》
・それ以降はテルの眼の高さ・テルの視線によりそう位置から書いている
⑵キップをなくしたテルの行動について
⑶この小説の寓意性について
Ⅱ 川上弘美「神様」
☆『神様』は、くま、不思議な生き物、死んだ叔父、河童、壺に棲む霊、小学生
雪の間だけの恋人、人魚など不思議な存在、ちょっと風変わりな人物との交流の
物語である。民話、伝承の世界と地続きであるかの如き物語。その全体から漂っ
てくるのは、「異種交流」の不思議さと「愛情の希求」の切実さ。
Ⅲ 村上春樹「レキシントンの幽霊」
二つのバージョンがある。
a「群像」1996年10月号掲載(ショート・バージョン)…教科書採用
b単行本収録(ロング・バージョン)…講座で配布しているのはこちら。
⑴ショートバージョンとロングバージョンを比較する
⑵この小説は「音」の小説だ。幽霊も「音」としてのみ感知される。
⑶父の眠り、僕(ケイシー)の眠り
⑷この小説は二つのパートに分かれる。この二つの関係は?
前半はレキシントンのケイシーの家で経験した真夜中のパーティ(幽霊たちの)
後半は老けこんだケイシーの告白。「母の死、父の深い眠り」。「父の死、ケイシーの深い眠り。」
現実の夜(世界)
現実の世界
(むなしい仮初めの世界)
幽霊たちのパーティの夜(世界)
※犬がいない
※音楽と笑い声(音だけ)
※音楽室は神殿か聖遺物安置所
眠りの世界
(ほんとうの世界)
※二つの世界の往還。別の世界に紛れ込んだ僕。「音」に導かれて。
※ジャズレコードのコレクション。レコードとは「記録」でもある。
第7回 文学講座―続 国語教科書の文学作品を読む―
(2010年2月13日~3月6日)
1
木下順二「夕鶴」
2
森鴎外「舞姫」
3
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
4
夏目漱石「こころ」
申し込み者数 31名
☆どの回もまず最初に、その作品、作者の教科書の中での位置、作品と「私」の出会いなどを話した。
第一回 木下順二「夕鶴」
木下順二は元になった昔話をどう劇化したか。次の点に即して比較。
⑴子供たちの存在の意味、⑵惣ど、運ずという二人の意義
⑶何故、布を織ったのか。⑷何故、男はのぞいたのか。
⑸見られた女房はどうしたか。
《読みの方法》
①とにかく自分の読んだときの印象・感想を手がかりに考えていく
②昔話「鶴の恩返し」と比較する
③作者自身のリライト・絵本『夕鶴』と比較する
④作者木下順二のことばをヒントに考える。『劇的とは』
⑤ほかの作品との関係で考える
・異類婚という物語の型、磁場。
・作者の考える「劇的」との関係
・『子午線の祀り』一部上映
第二回 森鴎外「舞姫」
・昔作った、「舞姫」の授業書(9枚)を使って、その概略をたどってみる。
・「舞姫」はどのように論じられてきたか
⑴石橋忍月との「舞姫」論争
⑵森林太郎の欧州留学とドイツ女性エリーゼの問題
⑶前田愛の「舞姫」論、「BERLIN 1888」(『都市空間のなかの文学』(1982年、筑摩書房)に収録)
⑷斎藤美奈子の『妊娠小説』(1994年、筑摩書房、のちちくま文庫)
⑸西成彦まさひこの『世界文学のなかの『舞姫』』(2009年、みすず書房)
※西成彦は、伊藤清蔵(札幌農学校からドイツ留学)の生涯、湯浅克衛『カンナニ』(1935年)、アッ=タイーブ・サーレフ(スーダン出身のアラビア語作家)の『北へ遷めぐりゆく時』(1966年)、多和田葉子の『旅をする裸の眼』(2004年)などを紹介し、いくつかの補助線を引くことで「舞姫」の姿をあぶりだしている。可能性としてのもう一人の太田豊太郎。
・加藤剛主演の劇も紹介。
第三回 宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
・未完成のテキスト「銀河鉄道の夜」
「銀河鉄道の夜」は1922年ごろから書きだされ、1933年の死の直前まで何度も推敲されて未完成のまま残されたテキストである。
①初期形 第一次稿(海豚から)
②初期形 第二次稿(ジョバンニの切符から)
③初期形 第三次稿(ケンタウル祭から)……1924年大正13年ころまでに
④最終形……1931年昭和6年ころまでに成稿
※現在、この四つのバージョンは全文、鎌田東二の『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」精読』(岩波現代文庫、2001年)で読むことができる。
※四つのバージョンのエピソードの違いについては、村瀬学の『『銀河鉄道の夜』とは何か』(大和書房、1989年)作成の表を利用させてもらう。
・初期形と最終形はどこが違うのか
・変わらぬ部分はどこなのか
・何故十年かけても完成しなかったのだろうか
・アニメ版「銀河鉄道の夜」(1985年)監督杉井ギサブロー、脚本別役実、音楽細野晴臣、原案ますむらひろし
・別役実の『銀河鉄道の夜』解釈について
⑴「夏の文学教室」での話
ドラマツルギーとして「銀河鉄道の夜」を見れば、という話の立て方が新鮮だった。「ジョバンニ・カンパネルラ・ザネリ」の関係を論じる。
⑵『ジョバンニの父への旅』(1988年、三一書房)
⑶『イーハトーボゆき軽便鉄道』(1990年、リプロポート)
第四回 夏目漱石「こころ」
・漱石の伝記を紹介。『文豪・夏目漱石-そのこころとまなざし』(江戸東京博物館・東北大学編、朝日新聞社、2007年)が参考になる。
・漱石の小説で繰り返される男女の三角関係
・方法に自覚的な作家 漱石
・二人の「私」、入れ子構造の一人称小説
・『こころ』論の氾濫
・高橋留美子『めぞん一刻』
『こころ』をめぐって
・小説としての特徴、肉付けの薄い抽象的な小説である。(描写が少ない。理屈っぽい小説)
・女性観が古い。対等な存在として見ていないのではないか。それでいて「純白なままに」という風に考える。女性の魅力のなさ。……遺作となった『明暗』は違う。
・「私(先生)」をどうとらえるか。
大江健三郎の最新作『水死』に「こころ」が登場する
2009年12月に出版された『水死』。
・大江健三郎には「こころ」の二つのことばに対するこだわりがある。
①「「記憶して下さい、」「記憶して下さい。私は斯んな風にして生きて来たのです。」
②先生が自殺の理由としてあげる「明治の精神に殉死する」。
第8回 文学講座―事件と文学の関係―
(2010年7月17日~7月31日)
1
問題の所在と全体図/大岡昇平の文学精神
「俘虜記」「堺港攘夷始末」
2
東電OL事件/グリコ・森永事件
佐野眞一『東電OL殺人事件』、、高村薫『レディ・ジョーカー』
3
少年A・酒鬼薔薇聖斗事件
柳美里『ゴールドラッシュ』
申し込み者数 24名
第一回 問題の所在と全体図/大岡昇平の文学精神
・神戸児童連続殺傷事件に対する柳美里の発言について
小説が生まれる二つの道筋
「小説から小説を作る」
・後藤明生の小説論
「なぜ小説を書くのか?それは小説を読んだからである。これが私の小説論の第一原理です。」(『小説の快楽』1998)
・「物語の増殖」「物語の転生」という問題にもつながる。
「現実から小説を作る」
・現実との接点を持った小説
・私小説……日本の近代小説の大きな流れはここにあった。田山花袋『蒲団』、島崎藤村『新生』、志賀直哉『和解』、など
・モデル小説……三島由紀夫『青の時代』(1950、「光クラブ」の山崎晃嗣をモデルに)『宴のあと』(1960東京都知事候補、有田八郎、日本初のプライバシー裁判)、柳美里『石に泳ぐ魚』(1994)出版差し止めの裁判に。
・伝記小説……瀬戸内晴美『田村俊子』(1961)『美は乱調にあり』(1966、大杉栄、伊藤野枝)『かの子繚乱』(1979、岡本かの子)、田辺聖子『千すじの黒髪……わが愛の与謝野晶子』(1972)『花衣ぬぐやまつわる……わが愛の杉田久女』(1987)
・歴史小説……司馬遼太郎、山岡荘八など
・ノンフィクション・ノベル……トルーマン・カポーティ『冷血』佐木隆三『復讐するは我にあり』
・事件小説……作者自身が直接関わったわけではないが、ほぼ同時代に起こり、大きな社会的関心を引き起こした事件を創作の核に据えて書かれた作品。
大岡昇平の文学精神
Ⅰ 『俘虜記』について
・「私がもし小説を作る気ならば、次のように書くことができる。~」
・「しかし事実に照らすとこの叙述には一つの障害がある。~」
・「しかし、私は自分の物語があまりにも小説的になるのを懼れる。」
Ⅱ 『蒼き狼』論争について
Ⅲ 森鴎外の「堺事件」(1914・大正3)に対する批判
・『堺港攘夷始末』1989……大岡昇平最後の小説
Ⅳ 小松川事件について
第二回 東電OL殺人事件/グリコ・森永事件
☆ある事件を「ノンフィクション作品」化したり、その事件を題材にして「小説」化したりすることの意義は何か。
⑴事件に関する事実を広く拾い集めて、事件そのものの再現をめざす。
⑵事件を素材にして、自分の詩を歌い上げていく。
⑶事件の核心部にある問題を小説として展開していく。
東電OL殺人事件
・映画『ミスター・グッバーを探して』(1978、ダイアン・キートン主演)
・ダブル・フェイス(久間十義、2000)・グロテスク(桐野夏生、2003)
・東電OL殺人事件(佐野眞一、2000)
二つのテーマ
①殺されたOLの内面を探る
②犯人は本当にゴビンダ・プラサド・マイナリ(ネパール人)なのか。
その方法の問題点
①この事件を坂口安吾の「堕落論」という枠組みで切り取ろうとする点
②「怪談じみた暗合」という叙述方法の陥穽。どこまでも繰り返される「暗合」と「一瞬の幻」。悪しき文学かぶれの典型。安易な文学性の頻出。
グリコ・森永事件と『レディ・ジョーカー』
・事件の概要について
・梁石日と高村薫の対談『快楽と救済』(1998、NHK出版)
『レディ・ジョーカー』を分析する
⑴構成
⑵「各世界」の書き込み
⑶犯行グループ五人の人物像……それぞれの抱え込む閉塞感、犯罪を楽しむ。
⑷現実の事件から、現実の事件へ
・1984年に起きた事件をもとにして、小説では1995年の事件に設定し直している。
・グリコ森永事件(かい人21面相)との類似
⑸浮かび上がってくるものは何か。
・主人公たちは巨大な組織の中で自分の人生や仕事に空しさを感じ、自分のアイデンティティを見失っていく。
⑹映画(2004年、監督平山秀幸、出演渡哲也、長塚京三ほか)と比較する
⑺文庫化する際の改稿
第三回 少年A・酒鬼薔薇聖斗事件
・事件の概要
・少年A・酒鬼薔薇聖斗事件関連の書物
・「懲役13年」について
・小浜逸郎のコメント、柳美里のコメント
・吉本隆明『少年』(徳間書店、1999)
・『「少年A」この子を生んで……』
・村上龍の反応
・新聞連載中の小説『イン・ザ・ミソスープ』
・『寂しい国の殺人』
・桜井亜美『14』の二重のモノローグ性
柳美里『ゴールドラッシュ』について
1 事件が柳美里に与えた衝撃
2 『ゴールドラッシュ』の登場人物とあらすじ
3 作者が「自己」を仮託した三人の登場人物による対話
置き去りにされた子どもたちの家族再生への希求
5小説として見たときの特徴
⑴呼称をめぐって
⑵劇作家柳美里
⑶ドストエフスキーの『罪と罰』との照応
⑷事件が小説の真ん中に…小林秀雄の「金閣寺」評
⑸私小説家柳美里
・事件(現実)/ドストエフスキー(文学的伝統)/自分の体験(内面の吐露)
・『水辺のゆりかご』(1997)と『ファミリー・シークレット』(2010)
第9回 文学講座―短編を読む―
(2011年7月9日~7月23日)
1
宮沢賢治「注文の多い料理店」、井伏鱒二「山椒魚」 ―童話あるいは寓話―
2
佐多稲子「水」、木下順二「女工哀史」 ―貧しき人々を描くー
3
椎名誠「散髪」、山田詠美「海の方の子」 ―子どもをとらえる眼―
申し込み者数 27名
第一回 宮沢賢治「注文の多い料理店」と井伏鱒二「山椒魚」
―童話あるいは寓話という方法―
「注文の多い料理店」について
・二人の紳士の人物像について
・扉に書かれた文字……「二人の理解」と「本当の意味・書いた側の意図」がずれていることがおもしろい。その典型例がタイトルの「注文の多い料理店」。読者はこのずれにいつ気づくだろうか。
・豊富なオノマトペ(擬音語・擬態語)……宮沢賢治の特徴の一つ
・言葉づかいの微妙な奇妙さ
「決してご遠慮はありません」……何故こんな表現に
・ことばの二重性
「すぐたべられます。」「おなかにおはいりください。」
・作品全体の構成を考えてみる。
・枠取りとしての同一表現
「風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。」
・「生き物を殺す」という観点から全体を見渡してみる。
※菜食主義者となった宮沢賢治
・最後の一文について
「山椒魚」について
⑴文体的な特徴
①いかにも「翻訳調」
「……それはまる二年の間に彼の体が発育した証拠にこそはなったが、彼を狼狽させかつ悲しませるには十分であった。」
②硬い漢語の使用
……狼狽、失策、先途、遁走、緩慢、莫迦、悲嘆にくれる、一叢、失笑、瘋癲病者、効験、鞭撻、など
⑵「主人公・山椒魚」とは別の「語り手」の存在
《「いよいよ出られないというのならば、俺にも相当な考えがあるんだ」
しかし彼に何一つとしてうまい考えがある道理はなかったのである。》
☆この語り手が、直接読者にむかって語りかけてくる。
《諸君は、発狂した山椒魚を見たことはないであろうが、この山椒魚に幾らかその傾向がなかったとき誰がいえよう。諸君は、この山椒魚を張頌してはいけない。……》
☆そしてこの語り手の読者への語りかけは、この山椒魚の話を「一般論」へと開いている。(寓話性の露呈)
《いかなる瘋癲病者も、自分の幽閉されている部屋から解放してもらいたいと絶えず願っているではないか。最も人間嫌いな囚人でさえも、これと同じことを欲しているではないか。》
⑶全体の構成
⑷人物像の特徴……傲慢な山椒魚
第二回 木下順二「女工哀史」と佐多稲子「水」
―貧しき人々を描く―
「女工哀史」について
・一九五四年六月一一日、ラジオ東京から「物語女性史」の一つとして、山本安英の朗読で放送された。
⑴全体は六つの節よりなる。
⑵三人の女工の人物像をおさえる。
☆短い短編の中に、典型化した三人の女工を配し、その対比・対立によって「女工哀史」の問題を描く。ある断面で、歴史を切る。
⑶ドラマの主軸(推進力)として「あたいの話をわかってもらわなけりゃいけない」という思い。
☆「堀内トシの話を、横山キミはわかるだろうか」という問題。三人の女工のありうべき会話は、物語の枠の外で、読者の想像力によって開始される。短編小説はもともと全体を描きつくすことをめざさないけれど、ある方向性は示すことはできる。
☆ドラマの核心としての「動き・力をはらんだ静止」……参考『ぜんぶ馬の話』(1984)
⑷キミの意識(⑤節)と語り手の眼(⑥節)
⑸サイレンの象徴性
①女工を仕事に追いたてる、②薄桃色の幸福を破る
③寄宿舎をゆすぶる、④暁方のサイレン
小説を読むための重要な概念
⑴作中人物と語り手
例えば「女工哀史」の場合、⑤節は作中人物横山キミの意識に即して描かれているが、⑥節では語り手の眼で横山キミが相対化される。(⑤「ふとんだって、ちゃんと一人に一枚くださって」←⑥「薄よごれたせんべいぶとんの中で」)
⑵ストーリーとプロット
・ストーリー……小説世界の時間軸に即して物語の内容を整理したもの。
・プロット……小説の語り手の語る順序に従って、物語を追いかけたもの。
(つまり「小説」そのものになる)
「水」について
・1962年発表。
⑴この小説の現在時では、
⑵しかし、その間に時間は自在にさかのぼり、幾代とその家族(とりわけ母親)のことが、幾層にも重ね塗りされるように描かれ、読者の前に明らかになっていく。その語り口は自然でしかも巧みだ。つまり、語り手の語りによって、我々読者の中に幾代という一人の若い女の子が、(喜怒哀楽を持った)厚みのある人間として、次第に浮き上がってくる。
⑷イメージの変化
幾代の母に対する思い、涙の意味も変化していき、読者の目には幾代自身も変化していくのが見えてくる。ここには、イメージの鮮やかな変化がある。それを支えるイメージの核として「水」があり、「春の陽」がある。
第三回 椎名誠「散髪」と山田詠美「海の方の子」
-子どもをとらえる眼―
「散髪」について
「散髪」は『続 岳物語』の「ヨコチンの謎」という章の前三分の一にあたり、高校一年用国語教科書に載りました。
☆「散髪」は、岳の様子・感情と「私」の行動・感情が「連動して変化していく」ことが丁寧にたどられている。
☆前半、親子ともに感情が激しく波立って、緊張感が高まっているが、後半から静かにおちついていく。その転換点で「私もすこし黙り」とあるように、「黙る」ことがこの短編の鍵になっている。
☆岳が「黙っている」ことの意味が前半と後半では違う。前半の沈黙や動こうとしないことは、明らかに《抵抗》あるいは《反抗》である。後半の沈黙は父親からの問いかけを考えている沈黙であり、この沈黙を通して彼は少しずつ少しずつ自分の思いを言葉にしていく。「岳はまたしばらく黙りこみ、それから喋りながら、自分の言うことを、ひとつずつたしかめていく、というかんじで」話すのだ。
「海の方の子」について
『晩年の子供』(1991)に収録。あとがきを参照のこと。
☆回想の視点の二重性
・基本的には九歳の少女の視点で語っているが、時として現在の大人の眼(評価)が
加えられることがある。このことを冒頭の一文が示唆している。
《私は、こまっしゃくれていました。今でこそ、そんなふうに顔を赤らめながら、小さな頃の自分を表現することが出来るのですが、その頃の私には、そんなことは、思いもよらないことでした。》
子供を描いた小説は、しばしば「子供の変化」の瞬間をとらえる。それは、その変化をどういうことばでとらえるか、という問題を伴う。(「反抗」か「自立」か)
「海の方の子」は、まず優等生の自己認識・世界認識を子供自身の意識に即して明らかにしている。そしてその認識が覆される様を鮮やかに描いている。哲夫に対する認識は一変し、ことばも意味を逆転させていく。(ガラス玉、海の方の子など)
第10回 文学講座ファイナル―文学のさまざまな愉しみ―
(2012年2月18日~3月10日)
1
絵本を読む
2
児童文学作家岩瀬成子を語る
3
大江健三郎「不意の唖」を読む
4
文学を読むとはどういう行為か
申し込み者数 57名
第一回 絵本を楽しむ、絵本を読む
Ⅰ 絵本を楽しむ
・どんな絵本を知っていますか
Ⅱ 絵本を読む
・「絵本の文法」を考える
・絵本は、基本的には、「ことば+絵」でできている。
a ことばの線条性(時間)
b 絵の現示性(空間)
「ことば+絵」の作り手は誰か
Ⅲ 四人の絵本作家
⑴モーリス・センダック
⑵ジョン・バーニンガム
⑶きたむらさとし(1956年~)
⑷長谷川集平(1955年~)
・『小さなよっつの雪だるま』2011年
☆落合恵美子 「家族の世紀」を超えて
Ⅳ 好きな絵本、ひとつだけあげるとしたら
・『こんとあき』林明子
☆読むというのは、自分の内部で、何かと何かをつなぐこと。(あるいは作品という場を借りて、何かと何かをつなぐこと)……第四回に続く。
第二回 児童文学作家岩瀬成子を語る
Ⅰ 岩瀬成子との出会い
・いわゆる「物語」としての形が崩れている
・現実を「物語」の枠で切り取るのでなく、現実のおさまりの悪さをリアルに描く。
・岩瀬成子の小説では、「アンチ・クライマックス」が多く、単純なカタルシスはない。「怒りの空転」
・児童文学が描きがちな「大人像」とは違う不安定な大人が描かれる。「子ども・大人」の関係が、予定調和的なものではない。
Ⅱ 岩瀬成子の青春、作家としてのあゆみついて
・『二十歳だった頃』2002、晶文社……自伝的なエッセイ
・児童文学者としての出発、批判の渦の中で
・反抗的な若者、いわゆる非行。
・「タブーの崩壊」……児童文学がタブーとしてきた性、死、離婚、など。
・わかりやすさに反して
Ⅲ 論じたかった、岩瀬成子の作品三つ
⑴額の中の街 1984
⑵あたしをさがして 1987
⑶ステゴザウルス 1994
Ⅳ 岩瀬成子2010 (『人気のひみつ、魅力のありか』第三章)
・『オール・マイ・ラヴィング』 集英社、2010
・『まつりちゃん』 理論社、2010
☆岩瀬成子さんからの手紙
Ⅴ 「岩瀬成子/味戸ケイコ」の絵本を読む
・『夜くる鳥 THE MAGICAL WORLD OF NIGHT BIRD』
・『月夜の誕生日』 ・『だれかないてる』
第三回 大江健三郎「不意の唖」を読む
Ⅰ 大江健三郎の初期の作品
Ⅱ 作品を分析する
⑴「小説の語り(ナレーション)」の問題……小説をどの位置から語るか(小説の視点)。
⑵結局、通訳の靴はどうなったのか
⑶何故、部落長は死んだのか(事件をどうとらえるか)
⑷何故、通訳殺しは無言の中で行われたのか
⑸通訳殺しの特徴とその意味
⑹翌日、村人たちが外国兵に全く反応を示さないのは何故か。
・「しゃべれない」(無力さ)から「しゃべらない」(意志的な抵抗)へ
⑺コミュニケーションという主題
敗戦後まもない占領下の日本/近代以前の村落共同体
外国兵への通訳(翻訳)/以心伝心
⑻父親の死、母親からの離脱……少年期の終り
Ⅲ テキストをつなぐ
⑴現実の事件とつなぐ
⑵授業の経験とつなぐ
⑶他の作品とつなぐ
⑷大江健三郎の他の作品とつなぐ
第四回 文学を読むとはどういう行為か (最終回・総集編)
Ⅰ 文学理論の諸相
⑴内田義彦(1913~1989、経済学者)
「話をきく話」(『学問への散策』、岩波書店)
⑵加藤周一(1919~2008、評論家)
「文学の擁護―狭義の文学概念から広義の文学概念へー」
(1976初出)(『加藤周一著作集1』 平凡社に収録)
☆テクスト(テキスト)の語源は「織物(テクスチャア)」。
(作品とテクストでは考え方の前提が違う。作品は作者が強く意識される。)
⑶ミハイル・バフチン(1895~1975、文芸理論家、言語哲学者)
⑷丸山圭三郎(1933~1993、言語哲学者。ソシュール研究で有名)
『文化のフェティシズム』(勁草書房)
※「読み」のディコンストラクション(脱構築、解体構築)
⑸ロバート・スコールズ(米の文学研究者)
『読みのプロトコル』(岩波書店)
Ⅱ 読むこと、書くこと、語ること
―「児童文学論三部作」を書きながら考えたことー
Ⅲ 文学講座のあゆみをふりかえる
(別紙資料参照)