有痛性腱板断裂とは
有痛性腱板断裂は、肩関節を動かす重要な役割を担う腱板(肩甲骨から上腕骨に付着する筋肉・腱の複合体)が部分的または完全に断裂し、痛みや機能障害を引き起こす疾患です。
中高年に多く、肩の反復使用や加齢、外傷などが主な原因とされています。
主な症状
痛み
夜間痛が特徴的で、仰向けで眠るのが困難になる場合が多い
運動制限
肩を上げる、回旋する動作が制限される
筋力低下
断裂の範囲や程度により、肩を動かす力が低下する
生活への影響
日常動作(髪を結ぶ、物を持ち上げるなど)が困難になる
一般的な治療法
《保存療法》
症状が軽度の場合や高齢者では、保存療法が第一選択となります
薬物療法
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
痛みと炎症を抑える
・ステロイド注射
肩関節内または滑液包内に投与して一時的に炎症を軽減
理学療法
・温熱療法
肩関節の血流を改善し、痛みを緩和する
・運動療法
周辺筋肉を強化し、断裂した腱板の負担を軽減する、特に肩甲骨周囲の筋力強化が重要
装具療法
肩を安静に保つための装具(スリングなど)を使用することがある
《手術療法》
断裂が広範囲で保存療法が無効の場合、手術が適応となります
腱板修復術
関節鏡視下または開放手術で、断裂した腱板を骨に縫合して修復
肩関節置換術
高度な腱板断裂が進行している場合、人工肩関節の置換術が選択されることもある
血管内治療(カテーテル治療)
血管内治療は、有痛性腱板断裂に伴う炎症を抑え、痛みを軽減する近年大注目の治療法です。
痛みのカテーテル治療により断裂部位やその周囲の炎症新生血管を減らして正常血流を改善し、組織の修復や炎症性メディエーターの抑制を図ります。
部分断裂している腱板は繋がることはありませんが、痛みが減り日常生活が楽になることが期待されます。
保存療法で効果が不十分な場合や、手術に消極的の場合に選択肢となります。
※外来で問診・診察し、エコーで炎症血管や腱板損傷を確認します
※場合によってはMRI検査が必要なこともあります
経過と予後
・軽度の部分断裂では保存療法により多くが症状改善しますが、完全断裂では症状の進行を防ぐため早期の適切な治療が重要です。
・血管内治療や手術を併用することで、痛みの軽減や肩の機能改善が期待できます。
参考文献
日本整形外科学会. 腱板断裂診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020.
Yoo JC, et al. “Rotator cuff tears: Current concepts and controversies.” Clin Orthop Surg. 2020;12(4):457-464.
Burkhart SS, et al. “The outcome of arthroscopic rotator cuff repair: Sustained improvement in function and pain relief at 5 years.” J Bone Joint Surg Am. 2019;91(5):1126-1136.
American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Rotator Cuff Injuries: Clinical Practice Guideline. 2021.