ハムストリング付着部炎とは
ハムストリング付着部炎は、ハムストリング(太ももの裏側に位置する筋肉群)の骨への付着部に炎症が生じる疾患です。
特に骨盤の坐骨結節(ハムストリングが骨盤に付着する部位)で発生することが多く、ランナーやジャンプ動作が多いスポーツ選手、長時間座る生活習慣を持つ人に発症しやすい傾向があります。
主な症状
痛み
・坐骨結節付近に鈍い痛みや圧痛を感じる
・長時間の座位や、走る・ジャンプする動作で痛みが悪化
可動域制限
・太ももの伸展や股関節の屈曲で痛みが強くなる
生活への影響
・座位からの立ち上がり、歩行動作などが困難になる場合がある
原因
反復的なストレス
ランニングや跳躍、突然のストップ動作など、ハムストリングの繰り返しの過伸展や収縮による負担が付着部に集中
筋力と柔軟性の不均衡
太ももの筋肉(特にハムストリングと大腿四頭筋)のバランスが崩れることで付着部に過剰なストレスがかかる
過度な座位姿勢
長時間座る生活習慣が坐骨結節に負荷をかけ、炎症を引き起こす
一般的な治療法
《保存療法》
ほとんどの症例では保存療法が第一選択となります
安静
・痛みを悪化させる動作やスポーツを中止し、患部の負担を軽減
薬物療法
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
痛みと炎症を抑える
・必要に応じて鎮痛外用剤や湿布を併用
理学療法
・ストレッチ
ハムストリングの柔軟性を高める
・筋力トレーニング
大腿四頭筋や骨盤周囲筋とのバランスを整える
・温熱療法
患部を温めることで血流を改善し、治癒を促進
《注射療法》
局所麻酔薬+ステロイド注射
炎症を短期間で抑制し、痛みを軽減
PRP(多血小板血漿)療法
自己の血液を採取して治癒を促進する因子を注入する再生医療の一種
《手術療法》
保存療法や注射療法で効果が得られない重症例では手術が検討されます
炎症組織の除去
慢性化した炎症部位や瘢痕組織を取り除く
付着部の修復
ハムストリングと坐骨結節の付着を再構築する
自分でできる対処法
ハムストリングのストレッチ
太ももの裏を伸ばすストレッチを1日2~3回実施
姿勢の改善
骨盤を安定させる正しい座り方を意識する
運動習慣の見直し
無理のない範囲でランニングやトレーニングを行い、負荷を調整
血管内治療(カテーテル治療)
保存療法で十分な改善が得られない場合、カテーテル治療が選択肢となります。
ハムストリング付着部の炎症を抑えることで疼痛を緩和します。
※外来で問診・診察・エコー検査を行います
※術前にMRI検査が必要な場合もあります
経過と予後
・軽度の症例では、保存療法を中心に3~6か月で症状が改善することが多い
・血管内治療やPRP療法などの新しい治療法を適切に選択することで、治療期間の短縮と再発予防が期待されます
・放置すると慢性化し、生活の質(QOL)の低下やスポーツ復帰の遅れを招くことがあるため、早期診断と治療が重要です
参考文献
日本整形外科学会. ハムストリング障害診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020.
Krych AJ, et al. “Hamstring injuries in athletes: Current trends in diagnosis and treatment.” Sports Med Arthrosc Rev. 2021;29(3):147-155.
Cohen SB, et al. “Platelet-rich plasma for treatment of chronic proximal hamstring tendinopathy.” Orthop J Sports Med. 2020;8(9):2325967120950504.
American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Hamstring Injuries: Clinical Practice Guideline. 2022.