ドケルバン病とは?
ドケルバン病(De Quervain’s Tenosynovitis)は、親指を動かす腱(長母指外転筋と短母指伸筋)が通る腱鞘に炎症が生じ、痛みや腫れを引き起こす疾患です。
親指の酷使や手首の使いすぎが主な原因とされ、子育て中の母親、デスクワーク、スポーツ愛好者に多くみられます。
日本整形外科学会HPより転載
主な症状
痛み
・親指の付け根から手首にかけての鋭い痛み
・親指を使った動作や手首を捻る動作で痛みが悪化
腫れ
・腱鞘部の腫れや圧痛
動きの制限
・親指の動作がぎこちなくなり、握力が低下することもある
日本整形外科学会HPより転載
フィンケルシュタインテスト変法
ドケルバン病の可能性があるか確認するためのテスト
親指を内側に入れて握りこぶしを作り、小指側に手首を曲げる
原因
腱鞘の摩擦
長母指外転筋と短母指伸筋が腱鞘を通る際に摩擦が生じ、炎症を引き起こす
反復動作
スマートフォン操作、育児(抱っこ)、家事(洗濯物を絞る動作)など
女性ホルモンの影響
妊娠・出産後や更年期に多くみられ、ホルモンの影響が関与している可能性がある
一般的な治療法
《保存療法》
多くのケースで保存療法が第一選択となります
安静
・親指と手首を安静に保つ
・サポーターやスプリントを使用して患部の動きを制限
薬物療法
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
痛みと炎症を抑える
・ステロイド注射
腱鞘内に注入し、局所の炎症を効果的に軽減
理学療法
・超音波療法や温熱療法で血流を改善
・ストレッチや筋力強化で再発予防
《手術療法》
保存療法や血管内治療で改善が見られない場合、手術が適応されます
腱鞘切開術
・腱鞘を切開し、腱の摩擦を軽減
・局所麻酔で行える簡便な手術で、再発率は低い
自分でできる対処法
生活習慣の見直し
手首に負担をかけないよう作業を分散させる
セルフケア
親指の付け根を軽くマッサージし、温める
ストレッチ
フィンケルシュタインテストと逆の方向に親指を伸ばすストレッチを行う
血管内治療(動注治療)
5分で終える動注治療は、長引く腱鞘の炎症や血流障害を改善する治療です。
動注療法により患部の炎症を減らし、治癒を促進します。
※外来で問診・診察し、エコーで腱鞘の腫れと異常血流を確認します
※動注治療は複数回する方が多いです
エコーで動脈を確認しながら
薬剤を注入する(上部の黒い楕円が動脈)
治療の効果
⚫︎痛みの緩和と生活の質の向上が期待される
⚫︎ 効果の実感には1~2ヶ月が必要で、持続性は数年以上にわたることが多い
⚫︎ 副作用はほぼなく、繰り返し治療が可能
治療のリスク
① 穿刺部の内出血(約4%)
② 薬剤による蕁麻疹などのアレルギー反応(約2%)
③ 治療部位の一時的な疼痛の増加(約5%)
※いずれも数日から数週間で消退
動注治療の費用:22,000〜44,000円(税込)
これらの治療はオクノクリニックの奥野先生によって2014年に開発されたものです。
当院はオクノクリニック(https://okuno-y-clinic.com/)とライセンス契約を結び動注治療を行なっております。
経過と予後
・軽度の症例では、保存療法により数週間~数か月で改善することが多い
・動注治療や手術を行うと短期間での症状軽減が期待でき、再発率も低い
参考文献
日本整形外科学会. 手指腱鞘炎診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020.
Moore JS, et al. “De Quervain’s Tenosynovitis: Stenosing tenosynovitis of the first dorsal compartment.” J Hand Surg Am. 2019;44(8):676-684.
American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Hand and Wrist Disorders: Clinical Practice Guideline. 2021.
宮本晋一郎. 「腱鞘炎の診断と治療」. 日本整形外科雑誌. 2018;92(3):121-130.