SIRVAとは
SIRVA (Shoulder Injury Related to Vaccine Administration) は、ワクチン接種後に肩関節や周囲の軟部組織に痛みや運動障害が生じる状態を指します。
本来、ワクチンは三角筋内に投与されるべきですが、誤って関節包や腱、滑液包などの深部組織に注射されることで炎症が生じることが主な原因とされています。
SIRVAは適切な手技で予防可能な一方で、症状が出た場合には早期の対応が重要です。
症状
・ワクチン接種後数時間から数日以内に始まる肩関節の痛み
・肩の可動域制限(肩を挙上したり回旋する動作が困難)
・夜間痛や安静時の痛み
・腱板損傷、滑液包炎、肩関節炎などが二次的に発生することもあります
主な原因
注射部位の誤り
肩の三角筋ではなく、関節包や滑液包などに注射される
注射針の挿入深度
過度に深い挿入や浅すぎる挿入が問題となる場合がある
患者の体型
筋肉量の少ない人では、正しい部位に注射することが難しい場合がある
一般的な治療法
SIRVAの治療は、痛みの管理と肩関節の機能回復を目指します。
薬物療法
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
炎症と痛みの軽減に使用
・局所ステロイド注射
肩の滑液包炎や腱炎が原因の場合、ステロイド注射が炎症を抑える
理学療法
・肩関節のリハビリテーション
可動域を広げるためのストレッチやエクササイズを推奨
・温熱療法
筋肉の緊張を緩和し、血流を改善
神経ブロック
症状が重度の場合、痛みを軽減するために使用されることがある
手術療法
保存的治療で症状が改善しない場合、肩の滑液包や腱板の修復手術が検討される
血管内治療(カテーテル治療)
ワクチン接種後の慢性的な肩の痛みは炎症新生血管に関連しているため保存的治療で改善しない場合が多く、カテーテル治療により炎症血管を減らすことは有効な治療方法です。
※外来で問診・診察を行い、エコーで炎症血管を確認します
※場合によってはMRI検査が必要なこともあります
治療経過
適切な治療を行うことで、多くの患者が数週間から数か月以内に症状の改善を経験します。
ただし症状が慢性化した場合、リハビリや、さらなる介入が必要になることがあります。
SIRVAを防ぐためには、ワクチン接種時の手技が極めて重要です。
予防
・ワクチン接種部位を適切に選ぶ(三角筋の中央部)
・患者の体型に応じた針の選択
・ワクチン接種の前に解剖学的ランドマークを確認する
参考文献
Cook IF. Best vaccination techniques to prevent shoulder injury related to vaccine administration (SIRVA). Hum Vaccin Immunother. 2021;17(7):2062-2067. doi:10.1080/21645515.2021.1908051.
Atanasoff S, Ryan T, Lightfoot R, et al. Shoulder injury related to vaccine administration (SIRVA). Vaccine. 2010;28(51):8049-8052. doi:10.1016/j.vaccine.2010.10.005.
日本整形外科学会. 肩関節疾患診療ガイドライン. 日本整形外科学会, 2021.