くだもの縁結び 第1巻 第5号 ~久野脇の聞き書き~
「さいらくっておいしいだよな」より
語り手 藤田 正好 藤田 やす子
~カキのリレー~
正好 九月ごろから食べれる早生のカキもあっただよ。ちっさいカキでね。どの家にもは無かったね。今は無くなっちゃったけど、自分らが子供の時分ね、前の家にはあってね、採ってはもらっちゃ食べてただよ。甘ガキ。甘かっただよ。次郎と比べてどっちってことはなかっただけが、時期が早いもんでね。そのカキを食べて、今度は「次郎柿」、それから「さいらく」っていう順序だっけよ。「さいらく」こう細長いじゃんね。次郎柿はお供え餅みたいな感じ。でもそのカキは型が小さくてちょっと丸みがかっててね。「粉が吹く」つって言ってね、もう九月の中頃からカキの中の果肉に茶色い点々がちょっとずつ着いてくる。そうすると「粉が吹いた!」「食べごろになった!」って言って採って食べるだよ。今はちょっともう無くなってるような感じだね。
「百五十年のユズとともに」より
語り手 坂下 正男 坂下 よし子
~三津間で一番古いユズ~
正男 裏にユズの木が二本あって、大きさは子供の時分からほとんど変わってないな。ユズは別に何の目的があるとかはないと思う。ただ昔は何年か、ユズ採りの専門の人がユズのある家を探して来て、一本いくらとかって自分で採っていくらか金を置いてった時代があるだけんね。そうだな…三十年か四十年くらい経ってるかな?その頃まではユズを買いに来た人がいただいな何軒かの家を採って周って歩いただいな。街の衆らだよな。あの来は登ってきれいに採れるだけ全部採って、お金を置いて、それでまた次の家へ行ってまた採ってくっていう。この村で子供の頃からユズがあるの知ってるのは二軒しかないもんで、ここが一番古いと思うよ、多分。ユズって最近の木は接ぎ穂でやったのが多い。だもんですぐ実が成るけんが本物の香りがしないって言うな。絶対しない!この庭のやつは二本とも実生んで香りが全然違う。強い。一本は百五十年ぐらいは経ってる。ひとりでにはい出たじゃないかな?