熱海ダイダイのブランド復興に向けた特色ある果実生産法の検討

研究背景と目的

 熱海市は、かつてダイダイの生産量日本一を誇った一大産地です。しかし、近年は正月飾りにおける需要の低迷によって販売価格が低下し、栽培を取りやめる農家も増えています。熱海市商工会議所と新規就農者が立ち上げたCitry companyは、数年前からダイダイ産地復興のため、新たな加工品の開発に力を入れていますが、品質を安定化するためには、特色ある品質の果実を、作業性の良い圃場で生産する必要があります。本研究では台木による果実品質の差異に着目し、農家自らが苗木を生産し、古木の更新を行うための挿し木繁殖法の開発を行うとともに、熱海の特色あるダイダイ果実を用いて様々な加工品を開発する可能性について検討を行っています。

研究内容:木の特性が果実品質に与える影響の調査

 熱海のダイダイ畑には多様な性質を持つ実生樹(種子から育つ木)があります。老朽化した木は市販の苗による植え替えが進みますが、市販の苗はカラタチを台木とする接ぎ木苗のみ。果実品質を調査したところ、実生樹とカラタチ台樹の果実が異なる品質を持つことが明らかになりました。

 そこで、木の種類による果実品質の違いをより詳細に調査すると同時に、その原因となる各木の特性を調査しています。さらに、熱海ダイダイを利用するパティシエの方々の意見を聞きながら実生樹の中からより優れた品質の探索も行う予定です。

研究内容:挿し木によるダイダイ苗木生産法の開発

 熱海に残る実生樹の優れた特性を次世代に残すため、また苗の自給による改植時の経済的負担の解消および収穫困難なダイダイ農家が熱海ダイダイ生産に携わる場の確立のため、母樹の遺伝子をそのまま引き継ぐ挿し木による育苗法を開発しています。

 挿し木樹は現在の実生樹で問題となっている樹高と棘が大きさも解消する可能性もあり、熱海特有のダイダイ生産体制の確立と栽培から加工まで含まれたブランド化を目指しています。

 現在は、挿し木に用いる枝や挿し木を養生する環境について、ダイダイにより適した条件を明らかにするために大学圃場で実験を行っています。2023年5月には、共同研究先であるCitry companyのダイダイ圃場にて第1本目の挿し木苗の植え付けを行いました。

今後の展望

 研究内容の論文出版を進めて熱海ダイダイの優れた点の裏付けを行うと共に、熱海のダイダイ圃場にある各実生樹の品質特性を明らかにし、品質データマップ作製とオリジナルダイダイ株のブランド化を進める。また、現地における苗床の設置と挿し木苗の増産を目指す。

協同研究

静岡県熱海市 Citry company(農家)

熱海市商工会議所 

パティシエ、香料メーカーなどの加工者