高脂血症治療薬
病態
高脂結症とは血液中のコレステロールT-Cho、中性脂肪:TGが異常に高い状態を指す。
HDL(HDL-C)善玉コレステロールが低い場合も 含まれる。
高脂血症は動脈硬化を進行させやすく虚血性心疾患や、脳卒中などCAD:coronary artery diseaseの原因となる T-Choは動脈硬化のリスク要因の第一番目に挙げられる。
動脈硬化は血液中のコレステロールT-Choや中性脂肪TGが異常に上昇する高脂血症によって引き起こされる。
体内にある脂肪がそのリスク要因の第一番目に挙げられるが、その脂肪はコレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類に分けられる。
なかでも中性脂肪は皮下脂肪の主成分である 。食物から吸収された糖質、脂質はエネルギーとして消費されるが消費されなかった分は肝臓において全て中性脂肪の形で脂肪組織に蓄えられる 。
中性脂肪は、ブドウ糖が血液に不足した時にエネルギー源として使用されるが、蓄積が過剰になると肝臓に脂肪がたまり脂肪肝や肥満を引き起こす 。
肥満の状態では脂肪組織から血液中にも中性脂肪が放出され、中性脂肪をコレステロールで包み込んだVLDL(超低比重リぽ蛋白)の増加につながりLDLとともに粥状の血管内皮への付着物となって動脈硬化のるリスクを高める 。
総コレステロールは動脈硬化の指標となる 。しかし総コレステロールが高くても心筋梗塞や動脈硬化といった症状を程さず、きれいな血管を保ちつこともある 。コレステロールは全体量だけが問題となるのではなく、その内訳が重要である 。
コレステロールは脂肪の仲間であり リポ蛋白という形で血液中に存在する このリポ蛋白には低比重リポ蛋白:LDLと高比重リポ蛋白HDLが存在する 。
しかしこれらは血液内で全く反対の動きをすることが分かっておりLDLは肝臓から末梢への組織へのコレステロールを運び出す働きがあるのに対し HDLは血管壁に沈着したコレステロールを取り除き肝臓に運ぶ働きがある 。
コレステロール全てが危険因子となるわけではなく HDLは動脈硬化を起こしにくくするという正反対の働きを持つ 。
HDL値はむしろ低い方が高脂血症のリスクは高く25mg/dl以下で脂質に起因する。
各疾患の危険領域に入り その正常値の目安は40ml/dl~60ml/dlとされている
高脂質血症に関連する各標準検査値
正常値
総コレステロール(T-Cho)Total Cholesterol 130~220mg/dl
HDLコレステロール High Density Lipoprotein 40~69mg/dl
中性脂肪(TG) Trigryceride 30~150mg/dl
脂質異常症の診断基準
高LDL-C血症 LDL-C≧140mg/dL
低HDL-C血症 HDL-C<40mg/dL
高TG血症 TG≧150mg/dL
治療薬
高脂血症治療薬は血清コレステロールやTGトリグリセライド:Trigrycerideを低下させる薬である。 罹患患者数の多さから薬剤の種類は多数あるが、選択においては、TC:Total Cholesterol、LDL:Low Density LipoproteinとTGを低下させ、HDLを上昇させることを目的とする薬剤と考えてよい。
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害酵素)
肝臓においてコレステロールはアセチルCoA(アセチル補酵素A)が数段階の過程を経て生成されるが その過程におけるHMGCoA還元酵素である2NADPH2を阻害する薬剤がスタチン系と呼ばれるものである。
結果肝細内のコレステロールは減少する。 恒常性維持のため血中のLDLコレステロールは肝臓内に取り込まれ結果血中のLDLコレステロールは減少する。 その他レムナント(VLDLやキロミクロンよりトリグリセリンが失われた残余体)抑制効果も持ち合わせている。
スタチン系薬剤の種類と特徴
薬剤名 性質 腎排泄(%) 半減期(時間) チトクロムP450 薬物相互作用 作用
プラバスタチン 水溶性 60 1.8 - 少ない
シンバスタチン 脂溶性 13 2 CYP3A4
フルバスタチン 脂溶性 6 0.9 CYP2C9
アトルバスタチン 脂溶性 2 13~16 CYP3A4 強力
ピタバスタチン 脂溶性 <2 10 CYP2C9 少ない 強力
ロスバスタチン 水溶性 10 20 - 少ない 強力
陰イオン交換樹脂
溶液中のイオンを別の種類のイオンに交換する働きを持つ合成樹脂 。
例
1)HR + Na+ ⇔ NaR + H+(陽オン交換)
2)ROH + Cl- ⇔ ROH + OH-(陰イオン交換)
以上の反応式にあるように2)でのROHはCl‐イオンによってROHという別の物質に変化(異化)している。
この反応におけるOH‐を含む樹脂が陰イオン交換樹脂である。このイオン交換樹脂の特性を利用してコレステロールを異化してしまう。
その結果肝臓内での腸管内で再吸収される胆汁酸中のコレステロール、特に(LDL-C)は減少し恒常性の維持のため、幹細胞は減少したLDL値を元の値に近づけるため血中からLDL-Cを取り込もうとする。
その結果血液中のLDL-Cは減少する。
スタチン系のLDL-C疾患リスク低減への寄与はこうした過程を経る。
つまり腸管内で胆汁酸(胆道系疾患治療薬の項参照)小腸での胆汁酸の再吸収を抑制し便への排泄を促進しコレステロールから胆汁酸への異化を促進する。 その結果、肝細胞内でのコレステロールは減少しLDLコレステロールの血中から肝内への取り込みの亢進が起こるCAD(冠動脈系疾患)に対する薬物の効果を明らかにした薬剤でもある。
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
小腸でのコレステロール吸収をブロックする。
プロブコール
LDL受容体を介さず効果を発現する 。そのため先天性のLDL受容体欠損の場合でも効果がある 。またLDLの胆汁酸への異化促進作用を持つ。
フィブラート系
リポ蛋白リパーゼ、肝性トリグリセライドリパーゼ活性を高めカイロミクロン、VLDL、IDLの異化を促進する。
肝臓での脂肪合成を抑制する 脂肪酸酸化亢進によってトリグリセライドの合成を抑制する 軽度のHMG-CoA還元阻害作用、胆汁への排泄促進作用がある。
ニコチン酸系
肝臓でのVLDL合成抑制、リポ蛋白リパーゼを介したVLDL、TGの水解を促進、それらの値を減少させる またHDLを上昇させる効果がある。
EPA製剤
魚類などに含まれる成分を含んでいる 。肝臓におけるVLDL合成抑制、TG低下作用をもつ 。血小板凝集抑制作用を持ち、血栓由来の各種疾患へ効果もある。
PCSK9阻害薬
家族性高コレステロール血症 HMG CoA還元酵素阻害薬で効果不十分な場合
MTP阻害薬
その他
薬剤の成分名、商品名
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害酵素)
プラバスタチンナトリウム :メバロチン
シンバスタチン :リポバス
フルバスタチンナトリウム :ローコール
アトルバスタチンナトリウム水和物 :リピトール、アトルバスタチン「VTRS」
ピバスタチンカルシウム水和物 :リバロ、ピタバスタチンカルシウム「KOG」
ロバスタチンカルシウム :クレストール、ロスバスタチン「DSEP」、ロスバスタチン
PCSK9阻害薬
エボロクマブ:レバーサ
インクリンランナトリウム:レクビオ
MTP阻害薬
ロミタビドメシル酸塩:ジャクスタビッド
レジン(陰イオン交換樹脂)
コレスチラミン:クエストラン
コレスチミド:コレバイン
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
エゼチミブ:ガチーア、エゼミチブ「DSEP」
プロブコール
プロブコール:シンレスタール、ロレルコ
フィブラート系
ベザフィブラート:ベザトールSR
フェノフィブラート:リピディル、トライコア
クロフィブラート : クリノフィブラート「ツルハラ」
ニコチン酸系
トコフェロールニコチン酸エステル :ユベラN ニセリトロール:ベリシッド
ニコモール:コレキサミン
多価不飽和脂肪酸
イコサペント酸エチル(EPA):エパデール、エパデールS、エパデールEM
オメガー3脂肪酸エチル:ロトリガ、オメガー3脂肪酸エステル「武田テバ」
配合剤
エゼミチブ・アトルバスタチンカルシウム水和物:アトーゼット
エゼミチブ・ロスバスタチンカルシウム配合:ロスーゼット
エゼミチブ・ピタバスタチンカルシウム水和物:リバゼブ
その他
ガンマオリザノール :ハイゼット
デキストラン硫酸ナトリウム イオウ18:MDSコーワ
エラスターゼES:エラスチーム