ビタミン製剤
病態
ビタミンとは生物の生存・生育に必要な栄養素のうち炭水化物、タンパク質、脂質、ミネラル以外の栄養素を指し、大きく分けて脂溶性のものと水溶性のものがある 。定式化された食事による長期の被経口摂取がビタミン欠乏の要因となる 。
ビタミンAの欠乏は夜盲症や、角膜乾燥症の原因となるが、日常的な非摂取に対しては魚の肝油,レバー,卵黄,バター,そしてクリームからの摂取が対策として有効である 。
ビタミンAの欠乏症は年齢に反比例するので小児、若年においての摂取には留意するべきである 。
初期症状としては視覚障害という形で現れる 。体内の大部分のビタミンAは,肝臓にレチニルパルミチン酸塩として貯蔵されている。
ビタミンDはD2、D3の形で存在し、D3は皮膚において紫外線の働きによってD3の前駆体である7-デヒドロコレステロールから光化学的に合成される。
光学的活性化によって生成されたD3は肝臓に移行し水酸化されさらに25(OH)D3へと変換される 。
そして腸肝循環をめぐり最終的に腎臓で水酸化を受け1,25(OH)2D3(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール,カルシトリオールビタミンDホルモン)となる。D3は主に小腸においてCaの吸収に関与している。そのため以下の表に示したようにD3の欠乏によって骨障害である骨軟化症やくる病などを引き起こす 。欠乏症への対策としては上述したような理由から、太陽光を十分に浴びることビタミンDを含む魚の肝油や卵黄を摂取に留意する事が大切である。
また小児においてCa不足に陥った場合、母乳よりも栄養強化されたミルクの方がはるかにCa補充に寄与する。
ビタミンEの欠乏症による疾患は種によって広く異なる 。ビタミンKについては血液凝固系でも述べたとおり(止血薬の項参照)肝臓でのプロトロンビン、第Ⅷ因子、Ⅸ因子、Ⅹ因子の生成に有効であり止血に大きく寄与するビタミンである。
他、止血薬の項では述べていなかったが、プロテインC、プロテインS、プロテインZにも関与する。
新生児ではビタミンK栄養はリスクを伴う理由としてはビタミンKの胎盤透過性が悪い(脂質の透過性の悪さに起因する)こと、新生児においては止血薬の項で述べた様なプロトロンビン合成までの過程が十分に確立されていないこと 、母乳には実際には栄養補強された牛乳などと比較してビタミンKが少ないこと
そして 新生児の腸は生後数日間は無菌である 。腸内細菌との関わりがその理由である。
しかし、成人におけるK欠乏は稀でありビタミンKが動植物に多く含まれており日常の食生活で十分摂取できるためである。
また過剰に摂取することによってもそれに起因する症状が発現する(以下の表) 水溶性ビタミンの特徴として酵素反応の補酵素として働く、対し脂溶性ビタミンは細胞の分化増殖などに働く。
ビタミンB1の主な働きは炭水化物の代謝でありまたグルコース代謝の際の補酵素としても関与している 経口摂取に起因する原発性の欠乏は洗わなくていいお米など。
高度に精製されたお米などの長期摂取が原因と考えられる 。というのも米の穀皮の部分にB1は含まれているからである。
また病変に伴う2次性の原因として、甲状腺機能亢進症,妊娠,授乳,発熱などによる需要の増加 長期の下痢などによる吸収不良 および重篤な肝疾患が考えられる 。
欠乏によって以下の表に示した通り脚気などの下肢の神経障害が起こる 。
ビタミンB2の欠乏は経口摂取ではミルクや他の動物性製品の経口摂取の不足による。
炭水化物の代謝で多くの酸化還元反応にとって必須な補酵素として作用している。
欠乏症として最もよくみられる徴候は、口角粘膜が蒼白になってふやけてくること(口角炎)と口唇表面の朱色化(口角症)である。
その他眼、皮膚、生殖器の障害を来す2次的原因としては慢性的な下痢,肝疾患などの病変が挙げられる。
ビタミンB6はピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンから成る 。
多くの反応における補酵素として作用する。
そのため,血液、CNS、および皮膚の代謝において重要である 。
また赤血球生成にとって重要である 生活上周囲の食物にビタミンB6が含まれているた原発的な原因による欠乏はまれである。
それにもかかわらず,幼児におけるけいれんの原因とし偶然にB6が破壊されることがある。2次正欠乏症は吸収不良経、避妊薬の使用、薬物による不活性化、過剰消費、およびビタミン自身の代謝活性の上昇によって起こる。
欠乏症は幼児にけいれん、成人に貧血(通常は正球性だが,ときに小赤球性)を起こす。
パントテン酸パントテン酸は、食品に幅広く含まれていビタミンで多くの酵素反応として機能する補酵素の重要な成分である 。
欠乏症状が引き起こす症状としては倦怠感(だるさ)、腹部不快、触覚異常による灼熱足とされている 。
ビタミンCはコラーゲン合成に必須であり、結合組織,などの形成に役立っている。またビタミンCは鉄の吸収を促進する 。
欠乏症は壊血病・メルレル・バロウ病などである。
薬剤
以下の薬剤があるが経口の総合ビタミンという形で各種ビタミン欠乏に対して予防的に処方されることも少なくない。
経口総合ビタミン剤(パンビタンとワッサーV)がカバーできるビタミン(含有量)別の目安は以下の通り。
商品名 パンビタン ワッサーV
社名 武田 サンド
ビタミンA 2500 IU
ビタミンB1 1mg 3mg
ビタミンB2 1.5mg 3mg
ビタミンB6 1mg 5mg
ビタミンB12 1μg 1μg
ビタミンC 37.5mg 200mg
ビタミンD2 200IU
ビタミンE 1.1mg
パントテン酸 5mg 30mg
ニコチン酸アミド 10mg 30mg
葉酸 0.5mg
*「IU」 はInternational unitと呼ばれる国際単位( mgへの変換には注意)。
各ビタミンの代表薬
ビタミンA・レチノイド
ビタミンB1・B1誘導体
ビタミンB2
ニコチン酸
パントテン酸
ビタミンB6
ビタミンB12
葉酸
混合ビタミンB群
B1,6,12混合
ビタミンC
ビタミンE
ビタミンK
ビタミンH
カルニチン
総合ビタミン剤
ビタミンの欠乏症と過剰症
欠乏症と 過剰症
脂溶性ビタミン ビタミンA 夜盲症・角膜乾燥症 脱毛・皮膚剥脱
ビタミンD 骨軟化症・くる病 高Ca血症・口渇・多尿・意識混濁
ビタミンE 溶血性貧血・乳児皮膚硬化症・歩行障害・網膜症
ビタミンK 出血傾向・新生児メレナ 新生児溶血性貧血・核黄疸
水溶性ビタミン ビタミンB1 多発性神経炎・脚気・ウェルニッケ脳症
ビタミンB2 口角炎・口唇炎・舌炎・皮膚炎・眼症状・
ビタミンB6 低色素性小救性貧血・多発性神経炎・口角炎・舌炎・脂漏性皮膚炎
ナイアシン ペラグラ 皮膚の紅潮
パントテン酸 きわめてまれ・皮膚炎など
ビタミンB12 悪性貧血
ビタミンC 壊血病・メルレル・バロウ病
葉酸 巨赤芽球性貧血
薬剤 ビタミンA・レチノイド
レチノールパルミチン酸エステル:チョコラA
ビタミンB1・B1誘導体 プロスルチアミン:アリナミン フルスルチアミン塩酸塩:アリナミンF ビスベンチアミン:ベストン
セトチアミン塩酸塩水和物:ジセタミン
セトチアミンジスルフィド:チアミンジスルフィド「ツルハラ」、バイオゲン
チアミン塩化物塩酸塩:メタボリン、チアミン塩化物塩酸塩「フソー」
ビタミンB2
リボフラビンリン酸エステルナトリウム:ビスラーゼ、ホスフラン
リボフラビン酪酸エステル:ハイボン
ニコチン酸
ニコチン酸アミド:ニコチン酸アミド「ゾンネ」
パントテン酸(B5)
パントテン酸カルシウム配合:デルパント
パンテノール:パントール
パンテチン:パントシン、パンテチン
ビタミンB6
ピリドキシン塩酸塩:ビタミンB6、ピリドキシン塩酸塩「日医工」
ピリドキサールリン酸エステル水和物:ピドキサール
ビタミンB12
ヒドロキソコバラミン酢酸塩:フレスミンS
シアノコバラミン:シアノコバラミン
メコバラミン:メチコバール、メコバラミン
コバマミド:ハイコバール
葉酸
葉酸:フォリアミン
混合ビタミンB群
B1、B6、B12混合:ビタメジン
B1、B2、B6、B12混合:ノイロビタン、ビタノイリン、ビタダン
B2、B6混合:ビフロキシン
B1、B2、C混合:サブビタン、プレビタS
B1、B2、B6、ニコチン酸アミド、パンテノール、C配合:シーパラ
アスコルビン酸:ビタシミン、ハイシー、アスコルビン酸、ビタミンC「フソー」、シナール、クリストファン
ビタミンE
トコフェロール酢酸エステル:ユベラ、トコフェロール酢酸エステル
ビタミンK:フィトナジオン:カチーフN、ケーワン
メナテトレノン:ケイツー、ケイツーN
ビタミンH
ビオチン:ビオチン
カルニチン
レボカルニチン塩化物:レボカルニチン塩化物「日医工」
レボカルニチン:エルカルニチンFF
総合ビタミン製剤
調剤用パンビタン
高カロリー輸液用総合ビタミン製剤
ダイメジン・マルチ
マルタミン
ビタジェクト
オーツカMV