<いつも「患者さま第一」に考える>
どのようなときにも、どのような行為についても、医療の場においては、常に患者の利益が最優先して考えられ、そのために万全の配慮がはらわれなければならない。そのような配慮に「抜け」ができたときに、発生している医療事故が少なくない。大部分の医療事故は、患者に対する優しい心があれば防ぐことができるとも言われている
<あたりまえのことをきちんとする>
あたりまえのことをきちんとするだけで、多くの事故を防ぐことができる。下記の基本的なことを守るだけでも、事故は確実に減る。ある程度経験を積んだ後、惰性で漫然と医療行為を行ったり、気軽に危険な行為をこなしたり、自分の技術を過信したりするような、馴れによるミスも起こりやすいので注意する
・ 処方せんの判読、調剤録や薬歴、報告書などに、誤字や読みにくい字を書かない
・ 誤りの生じやすい事項については、ふだんからその防止を心がける (mLとmgの混同や書き誤り、倍散での力価と全量の取り違い、類似した名前の誤記や読み違えなど、日頃から気をつけ、対策を工夫しておく)
・ 氏名の取り違い・コンピュータ入力ミスなどがないよう、繰り返し確認する
・ 患者や業務の引き継ぎは、忙しくてもあせらず慎重に行う
・ 受付や調剤室などでの引き継ぎは、最もミスの起きやすい場面の1つである (さらに、このミスは初歩的であるにもかかわらず、しばしば重大な事故につながりやすい)
・ 薬剤師は調剤業務に支障をきたさないように、早めに指示を出し、指示の変更は文書と口頭の両方で確実に伝達する
・ 危険が伴う処理や調剤については、関係者の間で繰り返し確認してから開始
<患者の情報は繰り返し確認する>
患者の情報が不足していたり、伝達されなかったばかりに発生した事故は非常に多い。次のような事項については、繰り返し、また調剤や服薬指導を行う都度に確認する
・ 本人または家族の確認
・ 服用している薬
・ アレルギー歴
・ 基礎疾患の有無
・ 患者の年齢・症状・コンプライアンスにおいて、行おうとする服薬指導や薬剤に問題ないか
・ 患者の理解度の有無
・ 新規薬剤の服薬後における副作用等の発現の確認
・ 投薬などが、その患者でまちがいないか、直前に再確認
< 自分の行為は、その度にチェックする>
よく知っていることでも、どんなに何回も経験したことでも、初心を忘れず、その内容・方法・注意すべき点について確認し直す
・ 自分の医学(薬学)知識や調剤技術
・ 薬剤の適応・禁忌・通常量・用法・用量・注意点など
・ 新しい情報・知識はつねに吸収しておく
・ 消毒や感染防止など、基本手順を繰り返し確認
・ 転倒・転落などの安全確保についての基本事項
<多くの人の目でチェックする>
調剤鑑査のときに行われるような、複数の人間で確認することは、とても大切である。ほかの人の助言に耳を傾けることも重要である
・ 疑問や自信のないことは、必ず先輩薬剤師や管理者に相談する
・ 年下の薬剤師や後輩薬剤師にも助言を求め、虚心に耳を傾ける
・ 日頃から、後輩の助言を素直に聞いて、自分を磨いていないと難しいことである
・ どのような内容でも、患者の言葉にはきちんと耳を傾ける。患者の希望や不満の言葉の中には、事故を防止するための貴重なヒントが含まれていることも多く、また、そのように考えて傾聴すべきである
<患者と信頼関係をつくる>
患者と医療従事者との間に良好な信頼関係があることは、事故防止にきわめて有益である
・ 患者が、どのような希望でも不満でも率直に言える関係を形成する。医療者の論理や常識にとらわれずに、人間的な共感をもって傾聴することは、事故防止のきっかけとなることが多い
・ 患者と家族のプライドとプライバシーを尊重する
・ 治療上、患者に事実を伝えられない場合は、かならず家族に了承を得る
・ 患者には十分な説明をして医薬品情報を提供、医薬品の適正使用継続まで十分に話し合う。…この過程はインフォームドコンセントとしても重要であり、同時に、医療者にも治療上の問題点や危険などを(十分時間をかけて)再認識できるという利点もある
・ 患者・家族に十分に納得してもらった上での同意を得、必要に応じ書面にて同意の記録を残す
<医療行為は全てきちんと記録する>
調剤の記録がきちんとしていることは、事故防止に役立つのみでなく、万一の事故発生時にも、適切な対応をとる上で非常に貴重な情報を与えてくれるので大変重要である
以下のことを明瞭に記載しておく
・ 調剤を進める上での薬剤師の思考過程、実際の調剤の経過・問題点
・ 服薬指導を行う上での薬剤師の思考過程、実際の服薬指導の経過・問題点
・ 調剤や薬物治療に伴う危険・問題点・副作用
・ 患者・家族への説明内容、それに対する反応や要望
・ 時間とともに変化する身体所見は、経時的に状態観察と判断を記録
・ 説明書・同意書が必要な薬品や指導は必ず調剤録・薬歴に要点を記録
<身体精神不調時に注意する>
医療事故が起きる1つの大きな要因は、医療従事者の肉体的精神的状況にある。心身の疲労や不穏は事故の原因となることが多い
・ 体調や精神状態が不調なとき・心配事があるとき、時間に余裕のないときには、ふだんより慎重に知識・技術・問題点を確認する。不安があるならば、適切な人に交代してもらう
・ 上司や同僚は心身の状況に配慮して、問題がある場合、速やかに適切な援助をする
<人間関係のよい職場環境づくりに全員がこころがける>
“人間関係の悪い職場は、事故の温床である” ということを熟知し、役割分担をしている各職種が対等かつ自由に話し合える、明るい職場を作るように一人一人が努力する