太極拳の慢練!!ゆっくり動く練習法と意義!!
投稿日: Dec 17, 2018 5:49:53 AM
太極拳の練習は、ほとんどの場合、慢練で行います。つまり、ゆっくり動く練習法です。
この慢練を重視する太極拳の門派は、多くあります。
ほとんどの太極拳の門派で、このような練習をします。
有名な太極拳の門派では、楊式太極拳が有名です。
また、早く動く練習を、快練と言います。
この快練を練習する太極拳では、陳式太極拳が有名だと思います。
では、太極拳の練習において、なぜゆっくり動く、慢練を重視する門派が多いのでしょうか。
太極拳は、元々武術として発展しました。
現在では、健康法としての意味が強いですが、普通に考えれば、一般的な太極拳の、ゆっくりした動きで、戦闘が出来るとは、考えられません。
だからといって、ただの健康法になったわけでもありません。
つまり、ゆっくり動く慢練が、武術としても、健康法としても、意味があるという事です。
これには、幾つかの意味があります。
一つは、運用する筋肉です。
人間の身体には、大きく別けて、2種類の筋肉が存在します。
相性筋と緊張筋です。
相性筋は、白い色をしており、白筋や瞬発筋とも呼ばれる筋肉です。
この筋肉は、通常の運動やスポーツをする時に、主に使う筋肉です。
筋トレなどで肥大し、トレーニングを繰り返す事で、太くなります。
緊張筋は、赤い色をしており、赤筋や持続筋、抗重力筋とも呼ばれる筋肉です。
この筋肉は、主に、止まった状態の姿勢制御などに使われる筋肉です。
また、身体の内部の、内臓の位置を固定したり、内臓の働きを助けるなどの役割を持つ筋肉も、この緊張筋に属します。
最近のフィットネス分野で、よく呼ばれる体幹とは、大雑把に言えば、身体の内部の筋肉を鍛えて、安定させる事ですが、この時に鍛える筋肉の一部は、この緊張筋だと言えます。
例えば、人が、ただ止まった状態で立っている場合、筋肉は、何もしていない訳ではありません。
その姿勢を維持するために、活動しています。
この時に使われる筋肉が、緊張筋なのです。太極拳に限らず、中国の武術は、この緊張筋を活用して威力を作る事が多いと言えます。
また、日本の武術の一部も、この緊張筋を活用します。中国武術で言うなら、八極拳や形意拳などです。
日本武術では、空手などです。
例えば、これらの武術の突きは、打ち出した後、打ち出した状態で止めます。
ボクシングなどのパンチは、打った後に、すぐに引き戻します。空手や中国武術の突きが、拳を引き戻さない理由の一つとして、緊張筋を活用するからだと言えます。
二つ目の意味は、姿勢制御のためです。
太極拳を練習する際、姿勢の要求があります。
この要求は、門派によっても違いますが、一般的には、10種類あります。
これを十要、あるいは、十則と言います。
太極拳を長く練習している人は、幾つかの要求を聞いた事があるかもしれません。
虚霊頂頚や含胸抜背などの要求です。
このような要求が、10種類あるという事です。
この10種類の内容は、太極拳門派によって、微妙に違いがありますが、だいたい同じ内容だと言えます。
このような、10種類の要求を、原則守った状態を維持させながら、套路(型)を練習しなければなりません。
当たり前の話しですが、速く動いては、この10種類の要求を、守った状態を維持出来ません。
速く動けば、太極拳の動作に限らず、雑な動作となってしまいます。
また、ゆっくり動く慢練を続け、その姿勢と要求を、身体に癖付けすることが出来れば、速く動く快練をしても、理屈上は、慢練の時と同じ動作が出来るはずです。
つまり、この姿勢制御の要求を維持した状態で動くためには、ゆっくり動く慢練で、精密な練習をする必要があるという事です。
三つ目の意味としては、全身協調を行うためです。
太極拳の基本的な考えとして、全身を同時に動かす要求があります。
これは、体の一部分、例えば、指先が動いたとするならば、その動く動作に合わせて、全身が協調して動く必要があるという事です。
太極拳門派によって、考え方は色々てすが、上盤、中盤、下盤の動作を協調させる事です。
上盤とは、鳩尾(みぞおち)から上の部分を言います。
下盤とは、股関節、あるいは、下丹田から下の部分を言います。
中盤とは、上盤と下盤の間の部分です。
この3つに分類された部位、部分の動作を協調させる事です。
人間は、手先が器用に動くため、全身を協調させて動く事を、普段はなかなか行いません。
例えば、近くの物を取る時、全身を使って動く事は、まずありません。
しかし、多くの動物は、人間のように手先が器用に動きません。そのため、全身を使わざるを得ないのです。
例えば、お風呂から出た後などに、体が濡れている場合、普通の人はどうするでしょう。
もちろんタオルなどを使いますが、手先だけで、体についた水滴を拭き取ると思います。
しかし、犬のような、手先が器用でない動物はどうするでしょうか。
犬は、多くの場合、体全身を捻り、震わせて、全身についた水滴を飛ばします。
あのような身体の使い方は、人間にはなかなか真似出来ません。
犬が行う、あのような身体を、瞬間的に振り動かす事ができたなら、大きな威力を出せるでしょう。
これは、手先が器用に動かないゆえの、身体の使い方だと言えます。
人間は、手先が器用に動くように進化しましたが、ある意味では、全身の協調を行う、身体の使い方では、退化したとも言えます。
そして、人間が、犬のような、全身が効率良く、協調した動きをするためには、速く動いていては、雑な動作にしかなりません。
また、太極拳で言う、全身協調とは、前述した、上盤、中盤、下盤の動作だけを言う訳ではありません。
この、上盤、中盤、下盤の協調は、あくまでも、外形的な協調要求でしかありません。
本来、太極拳の全身協調とは、外形だけではなく、運気(気功)や呼吸、精神との協調も行います。
太極拳の初期の呼吸は、自然な呼吸で行いますが、本来、呼吸法にも練習法があり、套路(型)と一致させていきます。
このような、多くの要求を内在させて套路(型)を練習するためには、普通は、速く動く快練では、要求を満たす事は出来ません。
本来、動く事すら難しいと言えます。太極拳は、このような理由で、慢練を重視します。
高い要求を満たすためには、ゆっくり動く、慢練をせざるを得ないとも言えます。