投稿日: Sep 24, 2019 11:11:8 AM
太極拳は、ゆっくり動作を行うイメージが強いと思います。これは、太極拳のスピードの概念が一般的なものと異なっているためです。
これは、太極拳に限った事ではなく、中国武術や日本武術全般で言える事だと言えます。
スポーツや一般人のスピードの概念は、ボクシングなどの概念が代表的です。
つまり、動作の起こりから終わりまでの時間の短さを言います。
例えば、パンチや突きでいうならば、腕の振りの速さです。
しかし、太極拳などの武術や伝統的な武術では、このような事を速いと言うとは限りません。
例えば、アフリカのある民族では、投げ槍の名人を、私達現代人の考えとは違った意味でとらえます。
現代人の一般的な概念の投げ槍の名人とは、槍を遠くに投げられる人か、的に正確に当てられる人の事をイメージすると思います。
しかし、そのアフリカの民族で言う、投げ槍の名人とは、いかに獲物に気付かれないように近づく事ができるかを言います。
つまり、言葉の受け取る概念自体が異なっているという事です。
これは、太極拳のスピードに対する概念にも言えます。太極拳におけるスピードの速さとは、相手との動作スピードの差をいかに小さくするかを言います。
太極拳の練習法に、推手と呼ばれる、相手の身体の一部と自分の身体の一部を接触させた状態で動作を行う、重要な練習法があります。
この練習法を、本当の意味で経験した事のある人ならば、理解しやすいと思いますが、相手の推してくるスピードより少し速く動く事です。
解りやすく数値化して説明するならば、例えば、相手のスピードが10だとするならば、自分は10.1のスピードで動きます。
仮に自分も10のスピードであるならば、力はぶつかってしまいます。
9などの相手より遅いスピードであるならば、なおさらです。
また、相手のスピードが10である場合、自分が11などの速いスピードで動けば、相手との接触点は離れてしまいます。
また、前述したように、太極拳では、相手とのスピードの差が小さい方が速いと言います。
上記の例えでいうならば、相手が10のスピードの場合、自分は10.1のスピードより、10.01のスピードの方が速いと言えます。
これは、後者の方が相手とのスピードの差が小さいためです。そして、このような事を太極拳では、速いと言います。
このような速さを得るためには、聴勁と呼ばれる、相手との接触点から伝わる力の方向や動作を感じる能力が必要となります。
これは、極めて精密な技術だと言えます。また、このような、相手を感じる能力は、自分自身の内部の感覚がある程度、感じられてはじめて機能します。
当たり前の話しですが、自分自身の事が理解できていないのに、相手の事が感じられるわけがありません。
この、自分自身を知る練習が、套路(型)の練習です。
このように、太極拳のスピードの概念を理解するためには、極めて精密な自身の理解とコントロールが必要であり、それによって相手のスピードを感じ、自身のスピードを決定できます。
太極拳の動作が、第三者から見た場合、ゆっくりした動きなのは、相手との接触した状態を想定しているためです。
ゆっくりした動きの練習だからこそ、自身を見つめ、相手のスピードに対応し、コントロール出来る技術が生まれると言えます。