単結晶基板の超精密加工

Ultra-precision Machining of Monocrystal Wafers

SiC単結晶の鏡面研削

SiCは熱的,化学的,機械的に優れた特性を持ち,主に車両用のモータ,電化製品などに用いられるインバータ内のスイッチング回路に適している.特に現在同回路で最も普及しているSi単結晶と比較すると3倍のバンドギャップ,10倍の絶縁破壊強度,3倍の飽和電子速度を持ち,これまでのインバータ回路よりも小型化,高性能化が期待される.しかしSiCは非常に硬く,ダイヤモンド,窒化ホウ素に次いで3番目の硬度を持つため,現在普及しているラッピング・ポリッシング加工ではウエハの除去率が1~1.5[mm/h]程度と非常に低い. この研究は,固定砥粒による研削技術を用いて効率的に鏡面仕上げを実現することを目的としています.左の図は,SD30000Vの極微粒ダイヤモンド砥石を使って1~2[mm/min]の速度で仕上げた3インチのSiC単結晶表面である.その粗さRa<1nmを実現している.

Siウエハ薄片化加工技術開発

携帯電話などのモバイル機器,また燃料電池,ソーラー/風力発電などの クリーンエネルギの実用を支えるパワーデバイスの高性能,高信頼性, さらに小型化のために,半導体素子に高密度実装が求められている.Siウエハを高能率に薄く,しかもダメージフリーに加工できる技術を開発している. 左の図は,本研究室で固定砥粒のみを用いて,8インチのSiウエハを薄片加工した一例である.

Chemo Mechanical Grinding(CMG)

左の図は,Siと固相反応を有するCeO2を主成分とするCMG砥石である.特定の条件(温度と圧力)下で,CeO2とSiO2の界面でCe4+からCe3+の還元反応が起こり,Siウエハの表層にあるSi=Oの共有結合がせん断され,除去することができる.

工作物と化学反応性を有するCMG砥石を使った固定砥粒加工技術である.従来のような加工変質層が生成されることなく,研削工程だけで完全表面(加工変質層およびその変質層による残留応力がない表面)創成が可能である.特にシリコンウエハや結晶化ガラスなどの機能材料の加工に効果的である. 左の図は,SD5000のダイヤモンド研削及びCMG研削したSiウエハの比較を示す.

CMG砥石の開発

これまでの加工法は,切込量を材料の亀裂発生臨界値以下に制御したいわゆる延性モード加工でクラック・フリーの表面を実現しているが,延性領域では転位の発生,成長,増殖などの原子移動集積によって塑性すべりが生ずるので,原理上は加工変質層が必ず形成される.CMGは,固定砥粒による運動転写型の研削加工でありながら,工作物と反応性のある砥粒を用いることにより,クラックだけではなく,塑性ひずみを含む加工変質層が全くない表面創成加工法である..

サブサーフェースダメージ評価

CMG加工が,工作物と砥粒との固相反応に基づいて進行するため,従来の研削加工と同じ高精度の形状創成能力を有すると同時に,クラックだけではなく,塑性ひずみを含む加工変質層が全くない表面創成が可能である. 左の図は,CMG施したSiウエハと市販のCMP加工したSiウエハの表面をRaman shift測定した結果,およびその断面をTEM観察した例である.CMP加工したSiウエハに比較しても,CMG加工したウエハは,加工品位が同等であり,サブサーフェースダメージがほとんど計測されていない.

結晶化ガラスの平面加工と非球面加工

フォトリソグラフィなどに使われるマスク用ガラスには,平面度や表面粗さだけではなく,光学特性を損なわない加工法が求められている. 本研究室で開発室CMG加工技術を6インチの結晶化ガラスに適用したところ,左の図のように平坦度,粗さともに従来のCMPより優れていることが明らかになった.また透過率は,300~1000nm波長域において,S波,P波ともに94%以上を到達した.