高温高速液滴の偏平挙動の分子動力学解析

背 景

溶射を代表とする高温高速液滴の堆積を利用した皮膜形成法は広く利用されている.形成された皮膜の密着性や残留応力,その他の物性を把握するには,その素過程である液滴の偏平挙動を知ることが重要である.しかし,いまだに液滴の偏平を満足に推定できる理論は見つかっていない.その理由として,衝突・偏平過程では,形状変化が急峻なため理論的な取り扱いが難しく,また,数~数十μm程度の液滴の数μ秒における挙動を実験的に検証することが困難なためである.

目 的

・ 従来の連続体モデルと異なり,急峻な物理変化に柔軟に対応できる原子モデルを用いて,高温高速液滴の偏平過程を解明する

・ 偏平・堆積後の液滴の状態の予測

分子動力学解析の概要

  液滴・基材双方をアルミニウム単結晶とする.原子間相互作用の記述にはモースポテンシャルを用いる.基材は原子レベルで完全な表面を持っているものとする.ここでは,液滴温度1500K(基材は室温),液滴の衝突速度2500m/s,直径12.4nmの場合を検討してみる.

得られた成果

・ 偏平率の変化過程や衝突→偏平→凝固といった一連のプロセスにおける結晶状態の把握がある程度できるようになった(動画).

現在の状況

・ 衝突パラメータによる影響を検討中

参考論文

(1) 清水 淳, 大村悦二, 小林圭史, 清島祥一, 江田 弘: 高温高速液滴による皮膜形成素過程の分子動力学解析(液滴の偏平過程と原子挙動), 日本機械学会論文集(C編), 71, 701 (2005.1) pp.298-303

(2) Jun Shimizu, Etsuji Ohmura, Yoshifumi Kobayashi, Shoichi Kiyoshima, Hiroshi Eda: Molecular Dynamics Analysis of Elementary Process of Coating by a High-Temperature, High-Speed Droplet (Flattening Process and Atomic Behavior of a Droplet), JSME International Journal C, 49, 2 (2006.6) pp.505-511

(3) Jun Shimizu, Etsuji Ohmura, Yoshifumi Kobayashi, Shoichi Kiyoshima, Hiroshi Eda: Molecular Dynamics Simulation of Flattening Process of a High-Temperature, High-Speed Droplet - Influence of Impact Parameters, Journal of Thermal Spray Technology, 16, 5-6 (2007.12) pp.722-728