第8回 マルティン・ブーバー、非類型的思考の行方

Post date: Jul 24, 2018 6:48:58 AM

開催日:2015年6月20~21日(土・日)

場所:同志社大学(今出川校地)烏丸キャンパス志高館 SK112教室

■ 大会プログラム

【第1日】 6 月20 日(土)

9:30 開会のあいさつ 伊藤玄吾(同志社大学/第8回学術大会実行委員長)

9:35 研究発表①「第四マカベア書の殉教物語における哲学的しかけ」

発表者:加藤哲平(ヒブル・ユニオン・カレッジ博士課程)

司会:新免貢(宮城学院女子大学)

10:15 研究発表②「シリア教父に見る「ユダヤ性」――その境界と自己認識」

発表者:大澤耕史(日本学術振興会特別研究員PD/東京大学)

司会:武藤慎一(大東文化大学)

11:10 研究発表③「ナフマニデスと『セフェル・イェツィラー』」

発表者:志田雅宏(東京大学大学院博士課程単位取得)

司会:高木久夫(明治学院大学)

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12:00 公開セミナー Two Bubers, Solomon and Martin. Authorizations of Jewish Texts:

From Re-contextualizing to a New Addressing.

講師:Avidov Lipsker (Bar-Ilan University)

司会:Teppei Kato (Hebrew Union College, Cincinnati)

13:50 企画趣旨「マルティン・ブーバー、非類型的思考の行方――没後50 周年を記念して」

小野文生(同志社大学/第8回学術大会シンポジウム企画者)

14:10 公開記念シンポジウム 1 「生きる思想としてのブーバー」

提題(1):「私が出合ったマルチン・ブーバーとその周辺の人々」

手島佑郎(ギルボア研究所)

提題(2):「バルト「神の名」論 と 親鸞「本願名号」論

――「宗教の真実」の差異性と応答性、ブーバー「根元語」思索を介しての一考察」

高田信良(龍谷大学)

提題(3):「ブーバーと私――ブーバーの聖書解釈を通して」

勝村弘也(元神戸松蔭女子学院大学)

司会:手島勲矢(日本学術会議連携会員)+小野文生(同志社大学)

【第2日】 6 月21 日(日)

9:00 研究発表④「F・ローゼンツヴァイクにおけるユダヤ性(Judentum)の〈復元〉と翻訳の課題について

――『イェフダ・ハレヴィ』のまえがきの検討を中心に」

発表者:田中直美(お茶の水女子大学大学院博士後期課程)

司会:三ツ木道夫(同志社大学)

9:40 研究発表⑤「レヴィナスのブーバー批判再読――「第三者」概念をめぐって」

発表者:松葉類(京都大学大学院博士後期課程)

司会:渡名喜庸哲(慶応義塾大学)

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10:40 公開記念シンポジウム 2 「20世紀ドイツ・ユダヤ思想の磁場としてのブーバー」

提題(1):「パウル・ツェランとマルティン・ブーバー――「それはしばしば絶望的な対話です」」

細見和之(大阪府立大学)

提題(2):「ブーバー、レヴィナスと「ユートピア的社会主義」」

合田正人(明治大学)

提題(3):「ブーバー、根源の脱構築と両極性の思想――「宗教的アナーキズム」への註解」

小野文生(同志社大学)

司会:藤岡俊博(滋賀大学)

14:30 公開セッション 1 :「ブーバー、そのヘブライ語テクストを光源として」

研究発表①「マルティン・ブーバーの聖書解釈――ヘブライ語聖書との対話」

発表者:阿部望(獨協大学)

研究発表②「マルティン・ブーバーの現代性――その「神権政治」と「聖性」理解の現代的意義」

発表者:平岡光太郎(同志社大学嘱託講師)

司会:赤尾光春(大阪大学)

16:15 公開セッション 2:「ブーバー、その対話的思考の文脈と可能性を問う」

研究発表③「ブーバーとパトモス・サークル――対話的思考をめぐって」

発表者:村岡晋一(中央大学)

研究発表④「『我と汝』の周辺――ユダヤ学の転換期におけるマルティン・ブーバー」

発表者:向井直己(京都大学)

司会:丸山空大(日本学術振興会特別研究員PD/一橋大学)

17:45 閉会の挨拶 勝村弘也(元神戸松蔭女子学院大学/京都ユダヤ思想学会会長)

芦名定道(京都大学/『京都ユダヤ思想』編集委員長)

【大会企画趣旨】

2015年6月13日、ブーバー没後50周年を迎える。「対話哲学」の提唱者として知られるブーバーは、宗教学、哲学、聖書学、人間学、社会思想、教育学などの領野で、主に『我と汝』の哲学を中心に実存思想の流行時期に受容された。流行を追う学術界の常として、実存主義の退潮と軌を一にして次第に忘れられていったという不運があったとはいえ、聖書やハスィディズムなど宗教学・哲学・ユダヤ学の領域ではもちろんのこと、教育学、心理学や精神療法といった実践学、シオニズム研究や社会主義思想など政治思想の領野、ドイツ思想史やヨーロッパ・ユダヤ史の領域で、いまなお独自の可能性をもった思想家として静かに光を放ち続けている。

たとえば、2000年以降、ドイツとイスラエルの共同事業として(現在はハインリヒ・ハイネ大学を中心として)新版の著作集が刊行中であり、アーカイヴのみで閲覧可能であった未公刊のテクストも収録され、あるいは詳細な註解や解説が付されるなど、ブーバー研究の新しい環境が整いつつある。ドイツでブーバー学会が設立されて以降、研究者のネットワークが次第に形成されつつあることに加え、ブーバーがユダヤ学関連講義を担当したフランクフルト大学ではブーバー記念ユダヤ学講座が発足し、活発な研究を続けている。また、イスラエルではしばしばブーバーはその影響力を「消され」過小評価されてきたといえようが、2012年、イスラエル・アカデミーで「マルティン・ブーバー賞」が創設され、その第1回受賞者にハーバーマスが選ばれる、といったことも可能な時代になってきた。没後50周年を記念する2015年には、ここ京都のみならず、ドイツ、アメリカ、イスラエルで記念シンポジウムが開催される。世界的な視野で見れば、ブーバー復興の機運が高まっているといえよう。

かつて同志社大学と京都大学の研究者たちが中心となって編集・翻訳・刊行した日本語版のブーバー著作集(みすず書房)は、日本のユダヤ学研究史に残された大きな功績であり、そのことはまた、ユダヤ思想の名を冠した本学会が京都で設立されるうえで決して無視しえないできごとだったとさえいえる。むろん、その功績の一方で、まさしくそれらの輝かしい業績が独特の思想的「磁場」を形成し、日本のブーバー研究やユダヤ学にある種の「偏り」や「限界」を生み出してきたという側面が無いとはいえないのかもしれない。そのような「功罪」の多面的な評価を含め、われわれのブーバー受容の多様な文脈はもちろん、何よりもまずブーバー自身の向き合った現実の多様な文脈を丁寧に掘り起こしてゆく必要があるだろう。

その晩年、かつてブーバーを記念した論集が編まれたとき、応答のなかでブーバー自身、「およそ自分を知りうる限り、わたしは自分を非類型的人間と呼びたい」と規定した。思想の評価が概して類型化に終わることが多いことを考えれば、われわれ自身への戒めとしても読まねばならないだろうが、何よりもまずこのことばは、ブーバー自身が自己の思想を規定した象徴的なことばとして受け取っておく必要があるだろう。大会テーマを「マルティン・ブーバー、非類型的思考の行方」とした所以はここにある。ブーバーという要約不可能な複数の顔を持つ思想家が、没後50年の今日、いかなる可能性と限界とをわれわれに指示してくれるのかを考え、互いに議論し合いたい。そのことは、たんにブーバーを「再発見」する作業にとどまらず、今日の世界にあってユダヤ思想に向き合おうとするわれわれの足元を照らす作業ともなるはずである。

文責:小野文生(同志社大学/第8回学術大会シンポジウム企画者)