2017年度秋冬学期「金融数理の基礎」

投稿日: Feb 07, 2018 3:19:39 PM

2017年度秋冬学期「金融数理の基礎」の授業に対するコメントへの回答です。

(文章の表現などは、原文の意図を損なわない程度に適宜編集しています。一人の方の回答でも、内容によって分けたりもしています。)

赤い部分が受講者の回答に対する中川のコメントです。

設問【この授業について、良かったところ、悪かったところ,授業を履修して新しく身についたことなどを具体的に説明してください。その他、特筆すべきことがありましたら、ご記入ください。】

・個人的に勉強時間が確保できなかったのが、とても濃厚な授業でした。

・講義内容・資料・課題などのフォローアップの適格さ、迅速さにおいて他の授業を圧倒する充実度であった。

・内容は難解だったが、非常に熱意ある講義で、授業には満足した。

・すごい授業だなと思いました。どうやったらあんなにわかりやすく説明できるのだろうかと、可能であれば参考にしたいと思いました。

・条件付期待値を具体例を通して、理解することができました。

・受講した全ての講義の中で最も、毎回の講義や試験等に対するフォローアップが迅速かつきめ細かくて素晴らしかったです。

・演習問題をほぼ毎回配布していただいたため、勉強しやすかった。

・授業は非常に分かり易く、内容をよく理解できました。ただ、ゆっくり考えれば分かるというレベルまでしか到達できなかった(すなわち試験の出来は今ひとつだった)のは残念です。

・ファイナンスの専門的な教科書では冒頭の1ページで説明されてしまうような基本的内容を、時間をかけてきちんと学ぶことができるという点が、この授業の素晴らしい点だと思います。本格的な専門書への架け橋として、とても有意義な授業でした。

・講義内容は受講生のバックグラウンドにある程度依存するため、私には少々難しかったですが、中川先生からは受講生にわかりやすく伝えようとする意図が感じられ、講義は良い内容でした。

・論文やレジュメ等に出てくる数学的記述の意味をよく理解できていなかったため、この授業を受けたことで今後論文等を読むうえで正確な理解が出来るようになった。また、リスク中立確率について、これまで別の授業で頻出していたが根本的な意味が理解出来ていなかったがようやく理解することが出来た。

ポジティブな評価をいただいてありがとうございます。昨年度まで90分×14回で構成していたものを105分×12回で構成しなおしたので、昨年度に比べて余裕をもって教えられた部分と少し端折らざるを得ない部分とムラができてしまった感はあります。来年度以降もより良い授業ができるよう努めたいと思います。

・可能であればコンピュテーショナルファイナンスや金融数理と履修時期を入れ替えてもらえれば、履修の効率が良く、より理解が深まったと考える。

・授業内容には関係ありませんが、この授業は春学期にある方が望ましいと思います。

・計量系の科目が後期に集中しているように感じられる。この科目は特段数学的予備知識を必要としないから、1年の春夏学期でやる方が望ましいのではないかと思った。

・出来れば、前期に受講したい授業である。

・この授業は、後期に開催するのではなく、前期に基礎科目として開催した方が、ファイナンス理論等の他の科目にスムーズに入れるのではないかと思います。

例年カリキュラム評価の方でも同様の意見をもらっていますが、実際のところ「金融数理の基礎」は秋冬学期(M1の後半)の開講が続いています。

もちろん年度単位での全体での時間割編成の制約条件が傍目よりも実はきついという事情もありますが、ICS-FSコースはそもそも「ビジネススクール」という側面があるということも理由の一つです。

個人的には、いわゆる計量系の学生には「金融数理の基礎」の中で扱う内容はもちろん「論理を大事にするという数学的な思考形態」をできるだけ早い段階で身につけてほしいとは思います。しかしながら、実務に直接役に立つ内容を扱っているか、というと必ずしもそうではありません。ほとんどが日中仕事をされている方に対して、2年間という短い期間で教育効果を上げるためには、基礎から積み上げていくカリキュラムが必ずしも最適解というわけでもないと思います。

まず最初に「ファイナンス理論の授業」でファイナンスの世界を一通り概観してもらい、また「コンピュテーショナルファイナンス」の授業を通じてクオンツ実務に直結する計算機を用いた計算手法を体感してもらうことで、単なる計算ツールとしてではなく、実は背後にある「数学の論理性」そのものの重要性に気づいた方が「金融数理の基礎」を通じて、その一端に触れるという流れがビジネススクールという場ではむしろ良いのではないか、とも考えています。

ビジネスではプライオリティを判断する能力は極めて重要なわけですが、最初の1年間を振り返ったときに、この授業が最初に行われるべきだったと実感できるということが、逆説的ですがむしろビジネススクールのカリキュラムとして成功している感じもします。苦しいexcuseでしょうか?

ただ、例年よりこの意見が多いので、カリキュラムの会議でも俎上に載せたいと思います。

・板書を写すということは、大変ではありますが、そのほうが頭に残るのは確かだと思います。

・講義が手書きで行われ、頭に入ってきやすかった。

・個人的には、板書で手を動かすよりも、その間頭を動かして理解を深めた方がよいと感じました。

・授業は非常に丁寧であり熱意も感じたが、板書の量が多いため配布資料を活用する等したほうが双方の負荷が少なく、また、講義内容の理解がより深まると思う。

板書に関しても賛否両面の意見が例年寄せられます。春夏学期の「ファイナンシャル・リスク・マネジメント」の授業に対するコメントでのコメントと重複している部分が多いですが、板書を採用する理由を述べておきます。

・数学の修得のためには、自分で手を動かして理解する作業は必要不可欠。分かりやすく書かれている(ように見える)テキストを読めば理解できるというものでもないと考える。授業は今更ながらそのことを意識させる場としても位置づけている。

・「メモをとらない仕事術」というのも一部で流行っているようだが、実際のビジネスにおいても相手の話を聞きながら要点をメモしていく技術というのは必要なスキル(仕事では整理された板書ではなく、ホワイトボードの走り書きや会話をメモするというより難しいスキルが求められるわけですが)ではないか?

板書を頼りに授業の内容をメモするという作業は、そうしたスキルの一番初歩的なトレーニングある意味である。板書をメモするときには、少なからず論理的に内容を頭の中で整理・検討しながら行っているはずで、その意味では板書をメモする行為は純粋な数学的な「演習」ともいえる。

もちろん授業時間を効果的に用いるという点での、スライドや資料の利用法については研究していきたいと考えています。

・第4講義室のホワイトボードの端の方が見づらかった。

中央部の席に座っていただければ…というところはありますが、(ホワイトボードの大きさという点では魅力はあるが)板書型の授業に向いた教室レイアウトではないことは否めませんので、次年度は考えたいと思います。

とはいえ、教室割当の問題も制約があって難しいところです。

・恐らく、本講義で学んだことは、ファイナンスにおいて必要な数学のごくごく基礎的な部分だったのだと思います。数理ファイナンス全体の「山」がどれくらい大きくて、本講義の内容が何合目あたりにあるのか、(人によって異なるとは思いますが)どのレベルまで行き着くことが必要なのか、折に触れて明示しながら「道案内」していただけたら、より良かったと思います(デリバティブのプライシングの部分では、そうしていただいていたので、非常に良かったです)。

授業をするうえでの重要なご指摘だと思います。ある程度は口頭では語ったり、資料に記述したつもりですが、より記憶に残る形で数理ファイナンスの全体像と道程についても説明できるようにしたいと思います。

とはいえ、数理ファイナンス研究の全体を富士山登山に例えるなら「金融数理の基礎」の位置づけは、五合目に向かうバスの切符を買った、といい感じではないでしょうか?(ただし、私は富士山登山の経験はありません…)