26.『詭弁について』

人には、三つの大きな本能があると述べてきた。

「生存本能」「種存本能」「存在本能」である。

「存在本能」とは、他の二つの本能をサポートするものであるが、

それが引き起こす欲求が、他の二つの本能を脅かす場合もある。

「存在本能」が引き起こす欲求には、

「承認欲求」「自尊心」「自己顕示欲」などがある。

これらは自己を正当化する。

そして、その自己正当化がうまくいかないと、

他人の不当化を行うのである。

そして、言語による強引な対応、

「詭弁」を生むのである。

そして詭弁者の多くは、自分が詭弁を用いていることに気づいていない。

そしてその詭弁の中に、いくつかの真実を含んでいるため、

多くの者が、その詭弁に騙されるのである。



詭弁は三つの方法をとって、議論を成り立たなくさせる。

(A)相手を混乱させる。

(B)相手を錯覚させる。

(C)相手を委縮させる。

(D)相手を無視する。

20.『自己について』において、

自己を正当化し、他者を不当化する方法を述べたが、

詭弁について改めて、上の分類に従ってまとめ、

「白を黒と言いくるめる」を例にとって、それらを挙げ列挙しよう。


(A)相手を混乱させる

①意味不明、または意味難解で、相手を錯乱する。

「白と黒とは陽と陰、相対して同じものである」

②横着、大雑把にて、問題を縮小化する。

「白や黒の色の違いなど、どうでもいいことだ」

③極論に走り、微小なこと、ありえにくいことを大きな問題にする。

「白と言えども多くの色がある、その分別が必要だ」

’ ④へりくだりや自己否定、自虐で、相手の言う問題を縮小化する。

「バカでも判るように、簡単に言ってほしい」

⑤理由を言わず、または臭わせるだけで、批難や結論だけを言う。

「どう考えても、これは黒である、常識だ」


(B)相手を錯覚させる

⑥嘘や誤魔化しで、強引に理屈をこじつける。

「白は光を反射しているだけで、本来は黒である」

’ ⑦意味のない「こだわり」を押し付ける。

「白より黒のほうが価値がある」

⑧流行りの言葉や慣用の言い回しで、社会的に正しいと思わせる。

「忖度しなければ、これは黒である」

⑨言葉の曖昧さから、その意味を自分の都合のいいように、恣意(しい)的に用いる。

「白とは空白であり、それは暗黒である」

⑩データや情報を、自分の都合のいいように、恣意(しい)的に用いる。

「白も黒も問わない人が多数を占める」

⑪相手の理解不足を匂わせ、相手を責める。

「この程度のことが判らないのか」


(C)相手を委縮させる

⑫権威や権力を利用して、疑問を挟ませない、有無を言わせない。

「学識者の通説である」

⑬自分の功績や立場を利用して、優越的にものを言う。

「リーダーとして断言する」

⑭軽蔑の用語や罵倒で、相手を不快、感情的にする。

「精神に異常がある」

⑮横柄、脅し、恫喝にて、相手を威嚇する。

「だから黒だと言っているだろう」

⑯相手の過ちをあげつらい、劣等意識をもたせる。

「黄色を白という者に正しい判断は出来ない」

⑰仲間を集めて多勢とし、相手を孤立化する。

「皆が黒だと言っている」

⑱不可能や完璧なことを要求して、相手の言い分の証明を求める。

「これが絶対に白だと証明してみよ」

⑲相手を褒め、持ち上げることで、否定しにくくする。

「聡明なあなたなら判るはずだ」


(D)相手を無視する

⑳相手の意見や質問を頭から無視する。

「とにかく、これは黒だと決まっている」

㉑論理や道理自体を否定する。

「理屈では判り得ない」

㉒常識論や観念論で、相手を否定する。

「常識があるとは思えない」

㉓開き直り、またはふてくさった態度で、相手を拒否する。

「もう説明する気にもならない」

㉔相手の言い分を「へりくつ」や「言葉遊び」にしてしまう。

「白だ黒だと言うことに意味はない」


上に挙げた例などによって、人は自分を正当化するために、

真実を曲げる「詭弁」を行う。

そして論者が、それが詭弁ではないかと問うても、

詭弁者は、さらに詭弁で答える。

そして論者は結論にたどり着けない、詭弁の蟻地獄にはまるのである。

論者は空しい問いかけを続けるだけである。


人が正しく議論するためには、

互いに「知性の整合性」を持っていなければならない。

人は誤って「詭弁」を使うこともある。

しかしその者に「知性の整合性」があれば、

「詭弁」という批判を受け入れ、自分の過ちに気づくであろう。

議論には、「論理」が必要である。

「論理」は、社会の秩序を築くものである。

しかし「論理」は、すべて仮説である。

誤った論理もあれば、過小や肥大化した論理もある。

それを判断するのが、「知性の整合性」である。

「知性の整合性」は、その「論理」に矛盾がないかを探る。

自分の知識や経験、思考に基づく「知性」による判断である。

その「論理」のもつ「違和感」や「不合理性」「矛盾」を感じて、

それを明確にしようとする意識である。

「知性の整合性」にも、個人差や曖昧さもある。

ゆえにその「論理」が「真実」であると決めるときは、慎重さが必要であるが、

「論理矛盾」を感じたときは、その「論理」が「虚偽」であると、

強い疑いを持って扱う。

それが「知性の整合性」である。

詭弁者は「知性の整合性」など持たない。

ゆえに彼とは、正しい議論は無理である。

詭弁者は、自己の正当化のために、全てを歪める。

真実や真理を必要とせず、それらを受け入れようとしない。

存在本能の欲求は満たされ、幸福感を感じるかも知れないが、

真の幸福にはたどり着けない。

真実を知ろうとしなければ、人生に無駄が多い。

やがて自滅していくのである。

論者は、それを待つしか方法がない。

ルールを無視する相手には勝てないのが、道理である。


(2021.4.3)