柳沢って誰だ(その昔、学生さんがまとめてくれた2chスレッド)

柳沢って誰だ?

1 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/10/19(木) 06:26

日本人の医者で、ノーベル賞に最も近い人だそうだが、詳細キボーン!

9 名前:MY 投稿日:2000/10/21(土) 07:59

わはははは〜。いろいろとお褒めの言葉をいただき、大変光栄です。

その張本人でございます。どうぞよろしく。m(__)m

アメリカの大学で教授になっている日本人なら、

医学生物学系だけでも結構沢山いると思いますよ。

ハワードヒューズでも、日本生まれは利根川さんと私だけだと思いますが、

日系2世なら既出のJoe TakahashiやMitzy Kurodaがいます。

13 名前:柳沢先生の友人 投稿日:2000/10/21(土) 13:43

すみません。柳沢先生にこの掲示板を教えたのはわたしです。

まさか書き込んでしまうとは思いませんでした・・・かなり責任を感じています。先生は長くアメリカに住んでいらっしゃるので

にちゃんねるや日本のネット事情についてわかってらっしゃらないと思います。

ご本人は大変素直で純粋な方なので、よろしくお願いいたします。

18 名前:MY 投稿日:2000/10/21(土) 18:11

はいはい。書き込みしてから、ひょっとしてヤバかったかなと気づきました。

13の友人氏にも注意されたし。

まぁでも、俺のアドレスなんて、半分パブリックだからいいや。見つけようと思えばすぐ見つかるし。

というわけで、本人は結構こうして暇人なのです。

暇でいられることが、アメリカの研究環境の強みとも言えるでしょう。

何でも質問してくれ。特に医学生・業界人の人!

22 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/10/21(土) 18:50

エンドセリンはSAHのときの遅発性脳血管攣縮の主因として

注目されていますが、こうした疾患への抗エンドセリン療法

の可能性についてどう考えられますか?

特異抗体が有効なのでしょうか?

23 名前:学生です 投稿日:2000/10/21(土) 19:04

卒業後は精神科もしくは脳科学の分野に進んで、

精神疾患の発現機序について研究したいと考えています。

日本を代表する学者、例えば光通信の東北大学西沢元学長や

インターロイキン6の大阪大学岸本総長などは、

「皆と違うことをやりつづけなさい。」と著書などに

書いているのですが、先生はどうお考えですか?

脳+ゲノムなら皆がとっくに始めていることで、

今からやってもスタートラインにすらたどりつかないのでは、

と思ってしまいます。すみません、くだらない質問で。

24 名前:MY 投稿日:2000/10/21(土) 19:05

>22 早速のまじめな質問、ありがとう。

くも膜下出血後の脳血管攣縮は、たしかに抗エンドセリン療法の適応として注目されるものの一つです。

いま製薬業界が追求しているのは中和抗体ではなく、エンドセリン受容体拮抗薬です。

うっ血性心不全、高血圧、肺高血圧などを適応として、現在、数社がPhase IIまで行っています。

残念なのは、SAHは心不全や高血圧と比べると患者数が圧倒的に少ないので、

いわゆるオーファン疾患になってしまっている点です。

でも、いったん別の疾患で拮抗薬が認可されれば、当然SAHへの臨床試験も行われるようになるでしょう。

少なくとも、動物のSAHモデルでは、ものすごく効きます。

27 名前:MY 投稿日:2000/10/21(土) 19:11

そうそう、日本人(日系人)のノーベル医学生理学賞候補といえば..

私などは、そんなことをmentionするのもおこがましいくらい遠いですが、

前出のJoe Takahashiさんなどは、時計遺伝子の発見ということで、マジで近未来の候補だと思います。

彼は、シカゴのNorthwestern Universityに居ます。気さくなオッチャンです。本当にいい人だよ。

28 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/10/21(土) 19:17

22です。ありがとうございます。

エンドセリンはかなり長い作用時間を持っていると聞きました。

受容体拮抗剤では、すでに放出されたエンドセリンの作用を阻害するの

は難しいのではないでしょうか?

フリーラジカル拮抗剤の、抗ショック治療研究も同じ理由で頓挫していますが。

それが有効であるならば、エンドセリンはある程度持続的に放出

されつづけて局所効果を維持していると考えられるのでしょうか?

30 名前:MY 投稿日:2000/10/21(土) 19:24

>23 いえいえ、本当にくだらない質問は、聞かなかった質問、って言うじゃないですか。

精神疾患の分子機序は、まさに来世紀の花形分野になると言ってもいいのではないでしょうか。

今からでも全然遅くないでしょう。分裂病のゲノム解析など、まだまだ緒にもついていない状態だし。

俺も最近、ちょっとしたラッキーな出来事から、ナルコレプシーの原因の発見に貢献することが出来ました。

よかったら、10月5日号のNatureにニュース記事が出ていますので、見てみて下さい。

脳科学はほんとうに面白いと思いますよ。頑張ってくれ!

34 名前:MY 投稿日:2000/10/21(土) 19:40

>28

エンドセリンの長時間作用は、受容体に長く居座ることと持続的放出との両方が絡んでいる、ということになっています。

いま臨床試験中の受容体拮抗薬は、いったん受容体に結合したエンドセリンをも追い出すことが出来るのです。

だからこそ、モデル実験でも効くのでしょう。

フリーラジカルの場合は、作用機序が化学的に不可逆で、しかもすごく速いので、その辺難しいのでしょうね。

スペルはendothelinです。ただし、他のキーワードと掛けないと数千件出てきます。

40 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/10/22(日) 01:18

東大でノックアウトマウスを先に論文発表した件なんかはどう思ってるのかね。

久利腹くんあたりは大きな顔をしているようだが。

41 名前:MY 投稿日:2000/10/22(日) 01:46

>40 おっ、詳しい人ですな?

しかし、彼とは今でも親しい友人であり仲間です。確執はぜんぜんないですね。

エンドセリンのKOに関しては、彼の方がずっと早くから着手していたし。流石ですよ。

それに彼、別に大きな顔してないと思いますよ。今回の教授就任、心からおめでとうと言いたいです。

43 名前:MY 投稿日:2000/10/22(日) 01:51

35>

う〜む、その人の場合、単に今している仕事がエキサイティングだから、帰りたくないのかも???

俺はアメリカの環境は大好きですが(だからこそここに居る)、研っm究環境と言っても話題として広うござんす。

どんな側面が聞きたいですか?

44 名前:MY 投稿日:2000/10/22(日) 01:56

42> いいや、筑波とは関係のない仲間が、たまたま。

50 名前:MY 投稿日:2000/10/22(日) 10:37

>田舎脳外科さま

留学希望ですか?(ここは求人サイトだったのか?)

いやいや、やる気のある方なら、歓迎しますですよ。

現在、うちのラボには、日本人が6名いて、そのうち半数は医学部出身者です。

51 名前:MY 投稿日:2000/10/22(日) 10:49

>文献

たしかに48にリストされてるのは、かなり古いやつばっかですねえ。

面倒なので、大学の俺の紹介ページにある論文のIntroduction等から、孫引きしてみて下さいな。

http://swnt240.swmed.edu/gradschool/webrib/yanagasa.htm

53 名前:MY 投稿日:2000/10/22(日) 11:10

>47 趣味ですかぁ。ここへの書き込み?(爆)

冗談さておき、ここんとこカメレオンに凝ってたんですが、ごく最近死んでしまったんですよね。

雌だったのだが、どうも小鳥のように卵が腹につまってしまったらしいのです。

あれは面白い動物だぁ。今度は雄にします。

63 名前:MY 投稿日:2000/10/22(日) 21:19

>55 1960年生まれでございます。

>57 まずは51のリンクあたりからどうぞ。

今ダラスは日曜の朝7時半。面白い質問、どしどししてくれ!

64 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/10/22(日) 22:38

>63 いまや日本を代表するスーパースターの方がこんな場所にいらっしゃって感動してます。

ということで、私も質問。

先生のラボのあるYビルのエレベータの扉の色は?

同じフロアにノーベル賞の方がいらっしゃると思いますが、その方のお名前は?

68 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/10/22(日) 22:53

柳沢先生

アメリカでポスドクをしている者です。医者ですが研究職で生きていこうと考えています。

米国での研究生活は快適ですが、英語のリスニングが今一つです。

柳沢先生の場合は、何か特別な教材をお使いだったでしょうか?

サイエンスと直接関係ない質問で申し訳ありません。

76 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 00:14

困った困った。本当に偽物が登場しました。見てもおわかりの通り、70と74は明らかに偽物です。

しかし他は全部本物です。今時間がないので、詐称検証についてはまた後ほど書きます。

今週末からISIの授賞式に行くというのは本当です。

79 名前:柳沢大先生へ 投稿日:2000/10/23(月) 01:23

39 名前:36 投稿日:2000/10/18(水) 18:51

ノーベル医学生理学賞は、医学・生物学の分野で教科書を塗り替える

ような基礎的な仕事をした人に与えられる。ラスカー賞受賞者の6割が

ノーベル医学生理学賞を受賞すると言われており、ラスカー賞受賞者は

ノーベル賞の有力候補。今回のカンデルもだいぶ前にラスカー賞を受賞

しており、候補には挙がっていたが、なかなかノーベル賞を取らなかっ

たので、もう無理だといわれていた矢先に受賞した。日本人では昨年

増井というおっさん(ノンエムディー)がとっており、この人が現在

日本人のノーベル医学生理学賞の最有力候補。ちなみに、ラスカー賞に

は基礎部門と臨床部門があり、臨床部門での受賞者は、ノーベル賞には

縁が無い。ヘリコバクターピロリの人もラスカー賞を受賞したが、

臨床部門なのでノーベル賞はとらないだろう。それから、ラスカー賞の

選考委員長がゴールドシュタインで、ノーベル賞の選考委員は毎回組織

されて厳密に固定されていないが、事実上、ゴールドシュタインが最高

実力者と言われており、ゴールドシュタインに気に入られるかどうかが

ノーベル賞受賞に大きく響いてくる。柳沢氏はゴールドシュタインの

愛弟子で、相当気に入られており、それらを含めても、日本人の医者で

は柳沢氏が最短距離と考えられる。

↑のような意見がありますが、どうでしょうか?

期待したいのですが。

93 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 07:28

いやはや、さすが2ch、トラフィックが凄いですなぁ。数時間仕事してる間に収拾つかなくなってるではないか。ではまず、詐称問題から...

ここに来てる人間のインテリジェンスを持ってすればすぐ判ると思うが、この掲示板の中だけで俺が「彼」であることを証明するのは絶対に不可能なのです。最初からそれは判っていたので、あえて実メールアドレスを公開したのです。

まずは、51で紹介した、大学の俺の紹介ページへ行ってみてください。そこには、俺のここでのメールアドレスがそのまま出ています。さらに、そこにリストしてある最近の論文(例えば1999年Cell paper)を引いて、corresponding addressを見てみてください。そこにも、俺のこのメールアドレスが出ています。つまり、このアドレスは、「彼」が日常業務で使っているアドレスであることは疑いようがないでしょう。

あとは簡単。このアドレスにメールして、「彼」から、確かにここに書いたよー、っていう返事が貰えれば疑問は解消するわけです。または、AOL Instant Messengerを使って、「彼」がログオンしているときにIMを送ってやって下さいな。ついでに、紹介ページにはオフィスの電話番号まで出ていますから、「彼」に電話してみたらどうですか?

実際に、メールないしはIMして来た方が、今のところ二人おられます。二人とも納得されたようです。

...と、ここまで書いてきた所で、64の方に一言。そのやり方は、あまり利口ではありませんね。まず第一に、上述の通り、そんなことをいくら訊いたところで、俺が「彼」である証明は得られないのです。現実に、偽者が70で全て正解を出しているじゃあないですか。第二に、そんなローカルなことを聞いたら、貴方がウチの大学(UT Southwestern)の人間か、以前ウチの大学に居たことのある人間だって判ってしまうじゃないですか。つまり、俺は貴方を個人的に知っている可能性が大いにあるのです。もし俺が本物の「彼」だったら、ひょっとしたら気まずい事になってしまうとは考えなかったですか?

以上。詐称問題に関しては、もうこれ以上は書きませんので悪しからず。

94 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/10/23(月) 07:51

アメリカでサバイバルするために、一番重要な事はなんですか?

プレゼンテーションの技術を身につける事ですか?

グラント申請のためのライティングの技術ですか?

勿論、両方とも重要だと思いますが。

現在、アメリカでポスドクしています。

96 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 08:13

>68 英語の問題ですね..

正式な英会話のレッスンというのは(中高大学の授業以外)俺は受けたことがないし、自己学習用の教材というのも使ったためしがありません。

俺の場合、ラッキーだったのは、高校の時、生意気なフュージョンのバンド(ああ、懐かしい用語だぁ)を組んでいて、そのバンドを通じてアメリカ人の留学生(たしか、上智のベース弾き)と仲良くなれたことです。あと、大学3〜4年生の時、当時筑波の医学に外国人講師として来ていた英国人の生化学者が、全くのボランティアというか彼の趣味で、「英語で何でも語り合おう」みたいな課外セッションを週数回夕方やってくれて、それに参加したことですね。

そんなこんなで、使っているうちに使えるようになった英語でした。でも、本当に英語が進歩したと自分で思えるのは、やはりアメリカにPIとして来てからですね。なにせ、最初にやらなきゃならなかったのが、秘書と技官の採用面接ですから。

あまり役に立たない回答で申し訳ない。やはり何と言っても、折角アメリカに居るのだからアメリカ人と(ラボの中でも外でも)喋りまくるというのが一番なのでは?

98 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 09:06

>72 とうとう出ましたね、この質問。

まずご質問の後半に対する結論からいいます。アメリカでPI(研究室主宰者)になるには、良い雑誌に論文を載せるだけではダメです。少しキツイ物言いになりますが、思いつく条件を挙げると:

1.論文に述べた実験を計画・遂行したのみならず、根本的なアイデアが本人のものであること。有名なボスの下で彼(彼女)のアイデアに従って論文の主著者になっただけでは、何報あろうがダメです。

2.そのことを人に十分に納得させられるだけのプレゼンテーション能力。英語力は最重要。

3.それを高く正当に評価してくれる目上の人間(サポーター)の存在。もちろんパワフルな人ほど良い。

4.何といっても、同じ機関にとどまらず、米国中を廻ってでも自分を売り込むアグレッシブさと「背水の陣」の精神。日本の出身教室なんかを「安全弁」と思っているようではダメです。

で、ちょっと長くなりますが、少し自分史を復習してみようと思います。

俺の場合は、やはりラッキーな出来事の連続だったと思います。1990年にエンドセリンB受容体のクローニングを発表しました(筑波の4年後輩で、現同大助教授の桜井君の仕事です)。それが、京大中西研のエンドセリンA受容体の論文と一緒にNatureに載り、その号に英国のDr. Sir John Vane(アスピリン作用機序とプロスタサイクリンの発見でノーベル賞)がNews and Viewsを書いたのです。そのNews and Views記事が一風変わっていて、当時筑波の講師になりたてだった俺の個人史にずいぶんと触れたものでした。その論文が出る直前に開かれた「国際エンドセリン会議」の時、John Vaneに誘われて二人で一緒に喰った昼食が、実はそれ用の取材だったことは後から気付きました。

その記事が、今いるデパートメントのヘッドであるDrs. Joe GoldsteinとMike Brown(LDL受容体でノーベル賞)の眼にとまり、マドリッドで彼らの主催する小さな研究会で発表する機会を与えられました。そこでの発表の次の日に、ディナーの時に丁度Joe Goldsteinの隣に座ることになり、いろいろ話をしたのです。当時、俺の筑波でのボスは現国立循環器病センター研究所長の眞崎知生元京大教授でした。彼のおおらかな指導のもと、俺は日本で決してunhappyではありませんでしたが、やはり本当にfinancially independentになって独り立ちするには、日本ではまだ何年も時間がかかりそうでした。その辺の事情を話し、もしチャンスがあればアメリカで仕事をしたい旨Goldsteinに言いました。実際、俺は当時アメリカで職を探し始めており、ハーバードのMGHやGenentech社からもオファーは来ていたのです。すると、Joeは、「お前ならHHMI Investigatorにしてやるから、ダラスに来い」と、いとも簡単に言いました。最初は半信半疑でしたが、実際1週間後にJoeから手紙が来て、いろいろあって結局ダラスへの就職が決まったのです。最初からAssociate Professor & HHMI Associate Investigatorという、破格のオフ?ーでした。決まった時、すでに眞崎教授には京都に一緒について行く旨約束してあったので、京都経由でのダラス行きとなりました。京都には結局8ヶ月ほどしか居ませんでしたが。

折角書いたこの文章、どこかにセーブして置こうっと。(^^) ではでは...

100 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 09:22

>79

自分で言うのもなんですが、79のアナリシスは、てんで甘いですね。いくらJoe Goldsteinに気に入られたからって、それでノーベル賞が取れるわけないじゃあないですか。「教科書を塗り替える」仕事、つまり医学生物学全体に影響するようなパラダイム・シフトを起こすような仕事は、なかなか出来るものではないのです。俺の仕事など、これまでのノーベル賞の範疇にとっくにカバーされていますよ。エンドセリンは、数年前のFurchgottらの内皮由来弛緩因子とNOのストーリーからの延長ですし、オレキシンの話も、それこそ今年の対象である"slow (nonclassical) neurotransmitter"の範疇であると言い切れます。世の中そんなに甘くないよ。

102 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 09:32

>83

アメリカの医学部(medical school)の出身者で、基礎へ(特に直接)進む学生は、日本以上に少ないです。しかし、アメリカの主要医学部にはM.D./Ph.D.コース(いわゆるMSTP = medical scientist training program)があり、最優秀中の最優秀の学生が入学してきます。現在アメリカで活躍しているM.D.基礎医学者のかなりが、MSTP graduatesです。うちの大学にも、年間平均15人ほどのMSTP studentsがおり、俺のラボでも2人がthesis workをしています。彼らは本当に優秀です。期待したいと思うし、メンターとしての重大な責任も感じています。

105 名前:72 投稿日:2000/10/23(月) 09:50

Goldsteinとの出会いはそこから始まるのですね!

まさに運命の出会いですね!

先生の個人史をお伺いして、本当の実力者とは、

「自分で運を引き込む才能がある人」だとつくづく感じました。

アメリカ上陸から、94年の恐るべき3連ちゃんのCellで「ここにYanagisawaあり」、

の最初のゴングがなるまで、果たして順風満帆だったのでしょうか?

私は第2幕をお伺いしたかったのです。というには、アメリカ人ですら、実力があっても、

ポスドクからここに至るまで大変な努力を要すると聞いたからです。

最初からPIですから就労ピザ(H-1B ?)で、グリーンが取れなくても、NIHグラントはすぐに

取れたのでしょうか?もしグラントが取れなかったなら研究室を軌道に乗せるまで、大変だったように思うのですが?

どのようなご苦労があったのでしょうか?

また教室運営での苦労談などお聞かせ願えればうれしいです。

お仕事でお忙しいところ、いろいろ興味深いことに答えていただきありがとうございました。私もこの上の文章を貴重なものとしてセーブしておきます。

ノーベル賞まで突っ走ってください。

もっとも先生にとってはノーベル賞など一つの通過点に過ぎないでしょうが!

114 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 10:38

>105 う〜む、そう来るのではないかと思いました...(^^;;

ダラスに来て最初の2年半(91年終盤〜94年春頃)は、自分でも本当に心配になりましたよ。ラボの物理的セットアップは何とか終え、幾つかのambitiousなプロジェクトに着手したものの、何だか、いつまで経ってもincubation periodから抜け出せない感じでした。しかしまぁ、種をまいて、自分の勘を信じてじーっと我慢して、気長にやって居ればそのうち花は開くものです。94年に、エンドセリン変換酵素の同定と、エンドセリンB受容体およびエンドセリン3遺伝子のノックアウトといった、それまでのincubationが一気に孵化したのです。勇気をだして、ゼロ状態の研究室に最初から馳せ参じてくれた2人の優秀な日本人M.D.ポスドク(現神戸大の江本さん・現京大の細田さん)の弛まぬ努力の成果でした。

初期の苦労で一番キツかったのは、とにかく最初にリクルートした一代目(?)の技官・ポスドク(上記日本人2人以外)・大学院生が、ほとんど皆ことごとくダメ人間だったことです。要するに、アメリカで自分自身のトレーニング経験がなく、人材システムや人間関係の全く異なる日本から来た俺には、当地で良い人材を見分ける眼がぜんぜん無かったのですね。HHMIのルールでは、一度雇うとなかなかクビに出来ないので、彼らに去ってもらうには、ほんとうに時間とエネルギーを費やしました。

ビザは最初からH−1でしたから、NIH等のグラント申請権は問題なかったのですが、実際には全然申請しませんでした。つまり、HHMIからの研究費に完全に頼ってきたのです。お陰様で、HHMIのアポイントメントも、昨年2回目のレビュー・更新を無事終えました。今から考えると、最初からHHMI Investigatorとしてスタート出来たことが、本当に大きかったと思います。

134 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 11:58

ごめんなさい、126へのレスが、何故かカイロプラクティックの方へ行ってしまいました。

そちらを参照あれ。

528 名前: 本物のMY 投稿日: 2000/10/23(月) 11:54

>126 あ、これ良い質問!

もちろん、個々のPIのスタイルによって「良いポスドク」の条件はいろいろ違うと思います。だから、これはあくまでも俺自身の基準です。ハードワーキングとか、勉強家(文献に通じている)とか、実験センスがいいとか、当然の事を別として一つだけ挙げれば、やっぱり、「PIを放っておかない」じゃないかなぁ。PIは(少なくとも俺は)寂しがりやです。毎日のように、うるさいくらいに、あーだこーだと議論を吹っかけてくるタイプが俺は好きですねぇ。あと、PIが何か大事なことをsuggestionしたとき、黙って何となく無視されてしまうタイプは、そのうち逆にPIに無視されるようになります。反対意見があるならあったで、ハッキリ言って欲しいですね。

140 名前:72 ・105 投稿日:2000/10/23(月) 12:18

>Joeは、「お前ならHHMI Investigatorにしてやるから、

ダラスに来い」と、いとも簡単に言いました。

いやはや、すごいとしかいいようがないですね。

あの利根川さんですら、HHMI取得まで、長い助走が必要だったのに、

アメリカに上陸してすぐに取れてしまうところは、たんなるラッキーだけではないと思います。

トロント大学の増井さんとお話したとき、イエールに留学される前は日本では

(甲南大学)、悲しいことに科研費が全くもらえず、おまけに付属校の実習に

まで駆り出されて研究の時間などなかった、アメリカにきてようやく研究でき

るようになり、あの国へ帰るくらいならば、こちらで歯を食いしばって研究を

した方がずっと報われると言う一念でやってきた、と伺いました。

日本で30代で独立できるなんてよほどの例外がなければほとんどあり得ません。

仮に独立しても、グラントが取れず、干からびてしまうという話を聞いたことがあります。

日本では筑波大学の白川先生がノーベル賞を受賞されてわきかえっていますが、

日本を舞台にしたサイエンスの分野での受賞は、湯川(正確にはコロンビア大学)、朝永、福井、白川先生ですが、湯川、朝永、福井先生のお仕事は40年代後半から60年代での仕事で、実にこの30年間の実績ではノーベル賞は白川先生しかいないのです。しかも湯川、朝永、福井先生のお仕事は実験科学ではなく、理論物理、理論化学で研究費がなくとも、コンセプト一つで紙と鉛筆で到達できた領域です。日米をまたいで、研究を続けてこられた経験から、日本のサイエンスのあり方に関してお伺いしたいです。

研究費も飛躍的に増額し、研究環境はアメリカに比べてそれほど見劣りがすることはなくなりましたが、それにも関わらず、未だにノーベル賞クラスのパラダイムシフトに繋がるような草分け的な仕事は日本では少ないと思いますが、これは日本の研究システムや人材登用のどのようなところに問題があるとお考えですか?

またどのように変革すれば日本も英米に負けないサイエンス立国として浮上できると考えられますか?

215 名前:柳沢先生の友人投稿日:2000/10/23(月) 17:59

>>135

本当にそうですね。ものすごく責任を感じています。

>>166

柳沢先生は中高は男子校出身です。

このような事実はありません。

>>192

柳沢先生にこちらを教えたのは土曜日です。

それまでは2ちゃんの存在はご存知ありませんでした。

全然フォローになってないと思いますが、

予想されてた展開とはいえ、先生は大変このスレッドを楽しまれていたので

このような形になったのは残念です。

ただ2ちゃんならではなので仕方ないのでしょうね。

先生のことは心配はしてませんが、本当に素直で天然な方なので

煽りに真摯にレスしてしまうでのはないかと危惧してます。

でも2chていうのは、落ちこぼれ厨房が存在することを前提にしてないとだめなんでしょうね。

彼らの反応は、ひとつの現象であって、観察対象として見るくらいでないとね。

まあでもDr.M.Y.は呆れてもう来ないでしょうよ。

241 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/23(月) 23:25

おやおや、ちょっと見ぬうちに随分「煽られて」(というのですね、日本のネットでは)おりますね。なんだか、俺はもう二度と戻ってこないんじゃなかって皆さん心配していらっしゃるようです。ご心配なく、この手の輩どもの所作は全く気になりませんので。Irrelevantでintelligenceのかけらもない煽りがたとえ100項目続こうとも、その中から真面目な質問を見いだすのはyeast two-hybrid screenよりよほど簡単でございます。(爆)

ただ、さすがに俺も(いちおう多忙な!)業務の合間に書いているので、週日はそうは時間が取れないだけです。昨日までは土日だったので、沢山書けたのです。真面目な質問には、時間のあるときに必ずレスしますので、どうぞ続けてご質問下さい。

あ、そうそう、俺の尊敬する研究者(PIにしろポスドクにしろ)の条件:「良い質問が出来ること!」

ではでは、続きはまた時間のあるときに..

265 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/24(火) 05:29

>116 研究費の日米比較

(投稿番号をhyperlinkするには、どうすれば良いのか誰か教えて!)

俺のラボへのHHMIからの研究費は、HHMIポスドク5人、技官4人、秘書、俺自身の人件費込みで、約$1M/年です。その他のソース全部入れても、$1.4〜1.5M/年でしょう。ラボ全体では今20人を超えていますから、決してすごく裕福なわけではありません。特にマウスの仕事をしていると、飼育費の高さに涙がちょちょぎれます(アメリカでは飼育費はどこでもユーザー負担です)。今の日本の比較的大きなラボに来ているお金は、用品物価の差(200〜250円/$ですか?)を考えても、完全にアメリカのレベルに追いついていると思います。

ただし日本の問題は、億円台の予算を取っているラボの層が非常に薄いことですね。その一方で、一部のラボにはPIあたり数10億円という膨大な予算が行っています。うちの大学のGoldstein/Brown研だって、年間$数Mのレベルですよ。これはあくまで私見ですが、一人のPIのもとに30億円奮発するよりは、30歳そこそこ程度の最優秀の人を30人厳選して、それぞれ1億円ずつ配ったほうが、素晴らしい仕事の出る確率と量は全体では高いと思います。

例えば、医学部を卒業してそのまま基礎の院へ行って数年間ポスドク(あるいは助手?)をやったとして30〜32歳くらい。最初に数年間臨床をやっていたとしても35歳くらい。優秀な人間なら、だいたいこの時点でscientificに独り立ち出来るようになるはずです。日本の今のシステムでは、そういった人たちが、まともな規模の(つまり年間1億円規模の)ラボを持つことがまだまだ難しいのではないでしょうか。

このような事を正しく実行するためには、お金を出す官庁の役人が、官僚制度生え抜きの「素人」集団ではダメです。Big name bossたちによる評価シンジケートに完全に依存ぜざるを得ない今の状況ではダメで、自らCell, Nature, Scienceなどの原著論文を毎日読むような、本当の「プロ官僚」を官庁が外部から引き抜いて、冷静に、政治的あるいはリニエージ・バイアスのない研究費分配が出来るようにならないと、若い研究者で突出する人がなかなか出てこないと思います。

あと、特に大きな大学の医局から来た日本人のMDポスドクに共通して言えるのが、日本のボスに対する異常なまでの忠誠心です(失礼を承知であえて言います)。自分がそのボスの後を継いで教授になれる確率は競争人数からいっても極めて低いのに、どうしてあんなに「出身講座」に拘るのでしょうかね。そういう、若い人のある意味でのambitionの欠如も、日本の大きな問題だと思います。

もう一点付け加えるとすれば、日本の女性研究者(PIレベル)の極端な少なさです。今の状態では、優秀な人口の半分が完全に埋もれてしまっているわけで、日本とアメリカの人口比は1:2ではなく1:4と考えてよいと思います。日本の研究者人口が上へ行くほど層が薄いのは、当然とも言えるのです。

266 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/24(火) 05:35

>140 う〜む、この人はどうやら玄人さん(マスコミ人)ですかね?

言いたいことは一杯ありますが、取り敢えず上記265あたりを読んでいただいて、またご質問下さい。

268 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/24(火) 05:48

>242 形成外科の方の質問..

エンドセリン受容体拮抗薬の皮膚微少血管拡張作用は、正常人での実験もpublishされていると思います。

植皮術後回復や創傷治癒における拮抗薬の作用など興味は尽きないですが、まだまだこらからの領域なのではないでしょうか。

拮抗薬が一つでも臨床治験を通れば、そういった研究が爆発的に進むと思われます。

現在開発中の拮抗薬は、数年以内には認可され始めると期待されています。

269 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/24(火) 05:59

>247 クソ真面目なレスばかりでもつまらないので..

異性にふられたこと?もちろんありますよー。一番痛かったのは、まだ若かりし高校卒業直後。そのとき付き合っていたのは、知っている方も多いと思いますが櫻蔭高校の同い年の子でした。たしか中3の時からの長いつきあいでした。彼女は、俺が「東京の大学」に行くものとばかり思っていたらしく、筑波に行くことになったとたんに、あっさり切られました。(涙)しかも事もあろうに、彼女は即、東大理学部の俺の高校の一つ先輩に乗り換えたのです(彼女自身はお茶へ行った)。

エロビデオに関しては、「俺は正常かつ健康な男です」とだけ行っておきましょう。(^^ゞ

273 名前:本物のMY 投稿日:2000/10/24(火) 06:35

>>117 Howard Hugh Medical Instituteについて。

ひとことで言ってしまえば、「世界最大の私立の非営利基礎医学研究財団」です。年間予算は、現在$1B近いという、尋常な額ではありません。全米の主要な生命科学系キャンパスに、約350のラボが間借りする形で散在しています。研究費は、莫大な永久基金をもとに、株の運用で作り出しています。Wallstreatから敏腕な株屋をリクルートして、内部運用(超低オーバーヘッド)しているのが特徴です。

詳しくはhttp://www.hhmi.org/へどうぞ。

329 名前:MY 投稿日:2000/10/24(火) 14:02

>>298 6番染色体さま

こういう反論、大歓迎です。

ただし、俺の見解でどこが間違っている(あるいは無知)と思うのか言ってくれないと、話の進めようがありませんが。

330 名前:N.U 投稿日:2000/10/24(火) 14:04

前の方で書かれていますが、プロの仕事をどう評価するかというのはなかなか難しい問題ですね。

たとえば、白川さんの導電性ポリマーの仕事は、もともと、有機半導体、超伝導の流れで、でてきたもので、ある意味では八〇年代初めに終わっていた研究です。今更再評価されるとはと、専門家にはノーベル賞受賞にとまどいがあるのではないでしょうか。

ノーベル賞をあまり持ち上げすぎるのもなんだとは思いますが、その後の影響は大きいので、無視はできないのですけれど……

たしかに、毎日、ネーチャーやサイエンスを読んで、プロの意見をきっちり取材してという本物ジャーナリストがいないといけないと思います。ガンバらなくっちゃ!

333 名前:MY 投稿日:2000/10/24(火) 14:09

>>300 反論です。

いやいや、拮抗薬が臨床認可された暁には、(初期の適応が何であろうと)爆発的に臨床研究が進むと思っていますよ。論文にならないというのも不正確で、エンドセリン拮抗薬を用いた仕事は、Medlineで数100報ではきかないとおもいます。すでにヒトでの仕事も、New Eng. J. Med.やLancetといった一流誌にいっぱい出ていますよ。俺自身は分子遺伝屋なので、自分自身の仕事には拮抗薬は道具程度にしか使いませんけど、拮抗薬というものは(とくに一旦臨床認可されたら)決して馬鹿に出来ないのです。

340 名前:MY 投稿日:2000/10/24(火) 14:15

>>304 白川先生について

大変残念ながら、学部(筑波では学系という)も違うし、全く存じ上げませんでした。是非いつかお知り合いになりたいものです。

江崎前学長とは、個人的にも面識があります。

341 名前:MY 投稿日:2000/10/24(火) 14:23

>>311 論文について

自分的には、論文の中でストーリーを展開することはある程度大事だと思います。第一、ストーリーの無い論文は、いい雑誌にはなかなか通らないし。基本的に、データーとその直接解釈においては、過ちを犯すことは絶対に避けなければなりません。しかし、discussionでのspeculativeなストーリー作りでは間違ってもよいのです。大胆にやったらいいんじゃないでしょうか。俺の1988年のエンドセリン発見の論文でも、データでは間違いを冒していませんが、Discussionでは大ポカをやっています(興味があったら読んで探してみて下さい)。

Resultsは慎重に、Discussionは(refereeの批判をくらわない範囲で)大胆に。

351 名前:N.U 投稿日:2000/10/24(火) 14:44

あははははは

そうですね、ストーリーのない研究は、ジャーナリストとしても大変に紹介しにくいものです。

自分の仕事を位置付けと共に、素人に説明できない研究者は少なくないですね。

その点、柳沢さんは、大学院時代から歯切れが良かったと思います。

354 名前:MY 投稿日:2000/10/24(火) 14:57

>>343

自己弁護のために言っておきますが、いわゆるカリスマ性の高いタイプのPIではないと自分では思っています(良いか悪いかは別として)。うちにいたことのある日本人に聞けば皆そういうでしょう。日本の医学部(特に一部の臨床系)には、ものすごいカリスマ教授がたっくさん居るじゃないですか。

それから、2chへは「乗り込んで」来たわけではなく、これほどのアングラ劇場とはつゆ知らず、ついついカキコ始めてしまっただけです。(爆)

356 名前:N.U 投稿日:2000/10/24(火) 15:07

裏だから我々には、興味があるということもありますね。ただしこれにのめり込むと、表に適応できなくなるという欠点があります。

日本の臨床医学のカリスマ性はもんだいですなー。

357 名前:染色体6番薬学博士二世研究者@NIH@next UCSF@年末プロポーズ 投稿日:2000/10/24(火) 15:07

>>333

エンドセリンアンタゴニストって特異的か?

ライガンド自身が小さなペプチドなので、レセプターの認識部位

も数個のペプチドだろう。他の機能の異なるレセプターをブロック

してる可能性もある・・

そもそもエンドセリンの機能ドメインって決定されてるのか?

>>341

俺は論文のdiscussion は読まないよ。たしかにその論文の弱点とか

次の目標を文章にして浮き上がらせるという点ではいいけど、うだうだ

書く暇があったら新しい実験をやってそのデータを加えてもっと上の

ジャーナルに投稿する・・

実際大家と呼ばれる人のdiscussion でも、そこに書いてあることが

外れていることが多いし、「将来の目標」も放置されてることが多い。

よく出来た論文ってのはアブストと図表だけ追えば、充分にストーリーは

わかるからね。サイエンスはストーリーだという点では、MYと同じ意見かも

しれない。

>>265

金も確かに研究を進める上での大きな要素(エールリッヒのdrei G の一つ)

だけど、金でブレイクスルー出来るんだったら誰も苦労しないって。

日本の特別推進だのCOE だのとんでもない金つぎ込んでも、ノーベル賞が

出てないしこれからも出そうもない。ノーベル賞だけがブレイクスルーの証と

いうわけじゃないけど、ゼニつぎ込んで病気も直せませんでした、国際的にも

評価されませんでしたじゃ、今の日本ならさらし首もんだよ。俺たちの税金を

無駄にしやがってとか暴動が起きるよ。ブレイクスルーは一人の頭脳から

生まれるもんで決して金や組織から生まれるもんではないと考えてるけどね・・

マサキ、エバシの両氏あたりの仕事っぷりを追ってるとますますその感を強く

するし、ボンビーなこっちとしては「よし、俺だって!」と何度もエンカレッジ

されたけどね。

380 名前:MY投稿日:2000/10/24(火) 16:11

>>357 議論が熱くなってきましたなぁ。こういうの好きだぞ。

>アンタゴニストについて。

んー、もう少しGPCRの一般的なことについて勉強しておいたほうが良いかも。現代の製薬業界が臨床開発にまでもって行くようなGPCR拮抗薬は、尋常な特異性ではありませんぞ。ターゲットGPCRに対するaffinityはsubnanomolarからpicomolarレベルで、その他多数のnegative control targets(100種以上のパネルが使われるのが普通)ではsupra-micromolarまで検証されているのが当たり前です。Signal transduction等の業界で、「特異的」などといわれるprotein-protein interactionなどよりずっと特異的だと思って下さい。つまり、通常のdominant negativeの方法論なんかよりはずっと特異性が高いと思って間違いないです。たしかに、GPCR ligandのmimotopeは普通せいぜいアミノ酸側鎖数個分ていどですが、だからこそ、orally activeな小分子で、かつhighly specificな拮抗薬が作れるんです。あ、それから、endothelin - endothelin receptorsの機能ドメイン解析、ないしはstructure-activity解析の論文数は、100報や200報では済まないです(しかも皆、非常にまともな論文)。Industry research / drug researchを侮ってはいけない。

...と、ここまでは薬理の出としての弁護ですが、一方でアンタゴニストを使った仕事に限界があるのも、百も承知。多くの場合、in vivo geneticsの切れのよさには勝てません。

>discussionについて。

同感。俺も人の論文のdiscussionは、まず読みません。よほど近いものでない限り。でも、「うだうだ書く暇があったら新しい実験をやってそのデータを加えてもっと上のジャーナルに投稿する」という言い切りは、じつに時と場合によりけりです。あなたが次のcareer stageに進んだ段階で、それだけでは少々naiveだったと気付かされるでしょう。

>金について。

金でブレイクスルー出来るんだったら誰も苦労しない、というのは100%同感。しかし残念ながら現在の生命科学では、あるレベルの研究費はブレイクスルーのための必須条件になってしまっていると思います。江橋節郎先生(俺は彼の孫弟子)のスタイルが通用した時代は、悲しいけれど、とうに過ぎ去っています。いくら銭つぎ込んでもダメなものはダメ、であることは確かだが、現代では、ある一定のfundがないところからは、ブレイクスルーの出現はほぼ絶望的でしょう。ブレイクスルーが一人の頭脳(そう、数人ですらない!)から生まれるものだっていうのも100%同感だけれど、そのアイデアをexecute出来るだけのfundは必須です。今の日本のシステムでは、若い研究者にそのチャンスが与えられてないんじゃないの、と言いたかったのです。自分は貧乏だ、貧乏だって研究は出来るんだ、とヘンな諦めをしないで、必要十分な金の来る立場に自分を置きつづける努力・能力も、研究者としての資質のうちだと思う。

江橋先生といえば、彼の筋肉におけるintracellular messageとしてのカルシウムの発見は、真にノーベル賞に値するとおもいます。カルモジュリンの柿内(spell?)先生が亡くなられたのが非常に残念ですよね。でも、今年あたりのスタイルを踏襲して、そのうちBerrigeあたりと一緒に貰えるといいんだが..

ところであなた、aquaporinのことやってる人?

445 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 00:55

>>381

エンドセリン受容体の免疫組織染色は、少なくとも我々は成功したためしがありません。単にウデが悪いだけかも知れませんが。エンドセリン受容体の免疫組織を用いた一部のpublicationの信憑性は、大いに疑うべきものがあります。とにかく、抗エンドセリン受容体抗体で染めに使える物はあまり見あたらない、というのが私の観察です。もっとも、ここ数年は探してすらいないので、新製品がどこかから出ているかも知れませんが。お役に立てなくて御免。

449 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 01:11

>>382 自己紹介ありがとう。

やはりどういう人と話しているのか判らないのは時につらいものがありますな。で、現在KOマウスを作っておられるようですが、それだと、普通1年ではとてもとてもプロジェクトを完遂できないのでは?その仕事が終わる前にUCSFに移ってしまわれるのですか?おそらくいろいろな事情があるのでしょうが、何かそれだけ聞いていると、一寸もったいないようにも見えます。特にそれが自分の論文になりそうにないのなら..一つのラボに1年というのは、いかにも短いと思いますが、いかがでしょう。

それから、貧乏だと自分で言っておられる、と申し上げたのは、もちろん個人的な経済状況のことではなく、研究費のことを指していると解釈しましたが。気に障ったのなら御免。

最後に、クリスチャンとのこと。奇遇ですが、俺もそうです(どうだ、皆さんこれは知らなかっただろ)。どうぞよろしく!

458 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 04:06

>>451 NIH →UCSF

う〜む。自分で給料持ってきているのに、ですか。それは一寸ひどいですねぇ。まぁ、特に東洋人のポスドクには良くある話、といえばそれまでなのかも知れませんが。お察し申し上げます。しかし、そこから先のKOプロジェクトを「横取り」する人は一体どういう御仁なんでしょうね。どうやってボスを丸め込んだ(?)のでしょう。

459 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 05:05

>>448

「ブレイクスルーは一人の頭脳(そう、数人ですらない!)から生まれる」と言いましたが、それは俺のラボから出る仕事のアイデアが全て俺自身によるものだ、などという不遜なことを意味しているのではありません。誤解があるといけないので念のため。例えば、99年に発表した、オレキシン欠損がナルコレプシーを起こすという発見は、論文の第一著者であるアメリカ人M.D.ポスドク(Rick Chemelli)の独創的なアイデアに端を発しています。彼はその後、うちの大学の小児科のtenure-track assistant professorになり、10% clinical duty / 90% researchの保護のもと、俺のラボで精力的にオレキシングループを牛耳り、semi-independentな仕事を続けています。いま申請中のNIH RO1が通れば、彼も晴れて完全な「PI]になって行くのです。それでも共同研究は続けたいですし、続けるでしょうが。

前に>>98で言ったように、論文のストーリーの根幹をなすアイデアを自分で出せる人は、アメリカでは必ずやがてPIへの道を進めるのです。

いままで、明らかに自分より優れた所のある「部下」に出合ったことは数回あります。前出の桜井君(現筑波大学助教授)とは、90年にエンドセリンB受容体の同定(Nature)、98年にorphan GPCRリガンドとしてのオレキシンの発見(Cell)、という二つの大きな仕事を一緒にする機会がありましたが、彼の実験センスやアイデアへの鼻の良さは、時に本当に敵わないなと思わせられます。また、上記のRick Chemelliも、彼のobservationの精緻さは、俺が自分で実験していた頃のことを思い出すと恥ずかしくなるくらいのものがあります。彼の「物を見る眼」が無かったら、ナルコレプシーの仕事は絶対に出なかったでしょう。

科学者には、よく言われるように個々色々な「タイプ」があります(例えば、有名な『成功する科学者』参照)。一人一人、長所と欠点がありますから、ある特定の事項に関して明らかに自分より優れている人をsuperviseする立場になっても、俺としてはdefensiveになったりしないし、なる必要もないのです。彼らに与えることの出来そうなもの(経験に基づく判断・哲学など、有形・無形を含めて)を出来るだけ伝授するのが、PIとしての責務ではないでしょうか。その上で、お互の能力を補い合えるような関係が築ければ、最高ですよね。

460 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 05:31

>>432 日本の(大学院)教育について

言いたい意見はたくさんありますが、敢えて一つに絞るとすると、「日本の生命科学系大学院は、教育システムとしては有名無実である」となります。俺自身の過去も含めて、日本の大学院生は、将来PIとしてやって行くためのサバイバル技術を正式に教わる機会がほとんどない、と言えると思います。まぁ、優秀な学生は、所詮放っておいても自然に自分でサバイバルを修得して行くものですが、そういう恵まれた少数の背後に、きちんとトレーニングされないで野放し状態になっている平均的学生が沢山いる、というのが現実ではないでしょうか。

アメリカの大学院生は、実によく勉強します(強制的にさせられます)。まず最初の1年〜1年半は、フルタイムで授業・レポート・テスト・抄読会の連続ですし、2年目の夏頃に「Qualifying Exam」といって、フルサイズのグラント申請とそのoral defenseの練習のようなことをやらされます。つまり、ラボでの自分の実験だけでなく、幅広いknowledge baseの取得とともに、口頭・文書によるformal presentationの訓練を徹底的に受けるのです。このようなトレーニングが、後にポスドクを終えPIにならんというときに大いに物を言います。それに比べ、日本の平均的大学院生は、ただラボでの実験を遂行し、自分に与えられたプロジェクトを確実にこなせば100点満点と思っている人がほとんどだし、教官の側も、その認識に完全に寄り掛かっていて、大学院生は実質的に実験手技のトレーニングしか受けていない、というのが実状だと思います。PI予備軍ではなく技官としての訓練です。

そういう教育しか受けて来なかった人が、やがて教授になり、ボスとしての「既得権」(学生を実験の手足としてコキ使うことも含め)を得るわけですから、このシステムがなかなか変化しないのは残念ながら当たり前です。この辺にも、日本の研究者の「層の薄さ」の原因があるのではないでしょうか。

461 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 05:34

>>451

ひとこと言い忘れました。ストレスが溜まった時のビールは、やはりギネス・ドラフト(例のピンポン玉入り缶)でしょう!是非おためしを。値段も、ほとんど変わりません。

465 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 06:33

>>452

それもあると思いますが、やはり何と言っても、「多くのGPCRは何故かとてもpoor antigenである」という多くの方が同意する大原則がここでも働いてしまっているのでしょうね。

467 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 06:45

>>462 ストレス解消法

ひとつは、眠りこけることですね。俺には、必要とあらば10数時間にわたる惰眠を一気に貪る能力があるのです。

気分の波は結構大きい方なので(外には必ずしも出さないが)時に苦しくなります。自分では、完全に躁鬱気質だと思います。

今は、研究そのものはうまく歩んでいます(つもりです)が、ちとラボ内の人間関係の調停ストレスが溜まっておりまして、ここへのカキコも良い気分転換になっていますから、ご安心下さい。こうして、普段文章にしたりしない自分の意見を書いてみるというのも時にはいいもんですな。

もう、寝てんじゃないの?

554 名前:MY投稿日:2000/10/25(水) 21:11

>>469 Teaching duties

ウチの大学(UT Southwestern)は、graduate-only campus(medical schoolとgraduate schoolのみ)ですので、undergraduate studentとの接触は、インターン(いわゆるsummer student intern)としてラボに廻ってくる学生以外、全くありません。

現在、俺はmedical schoolのクラスは一切教えていません(見返りがほとんどゼロなので、断りました)。Graduate school(Ph.D.コースおよびMSTPのPh.D. phase)では、現在年間7〜8コマのクラスを受け持っています。その他に、毎週1回、Integrative Biology Graduate Programというコースの論文抄読会を受け持っております。教官の数が学生数の数倍以上ですから、教官ひとり当たりの負担は、この程度です。その他に、qualifying examの審査や、博士論文審査はしょっちゅうやらされます。

大学院の授業のやり方は、これまでいろいろ自分なりに試行錯誤してきましたが、結局、一番学生のウケが良くて、自分自身も楽なやり方は、徹底的に「学生参加型」のクラスにすることだと気づきました。例えば「G蛋白供役受容体」に関する2時間のコマがあったとすると、最初の40分間くらい、GPCRに関する基礎知識を「講義」するのですが、それも、出来るだけ学生に質問を廻す(一人一人順番にどんどん廻す)形で、学生が自分たちで自分たちに講義しているような形にしてしまうのです。で、コマの残りは、GPCRについて予め選んでおいた最近の良い雑誌に出た論文を、3〜4報、抄読会形式で発表させます。学生をサブグループに分けて、ひとグループ1報担当させるのです。俺は、ゆっくりと腰掛けて彼らの議論を聞いているだけです(うひひひ)。もちろん、実際にはかなり口を挟みますが。

結局の所、このような学生参加型授業のほうが、学生の評価も高い、というのが教官皆さんの一致した意見です(そうです。アメリカの大学院は、学生が教官を逆評価する機会があるのだ)。

よく言われる、「medical school では『知識』を教えなくてはいけないが、graduate schoolでは、『ストーリー』を教えろ!」というのは、本当であると実感しています。

英語に関しては、この業界には外国人PIも学生もウヨウヨいるわけで、訛のある英語には皆さん非常に寛容です。Fluencyは大切ですが。英語そのものに関して学生に苦情を言われたことはありません。むしろ、お陰様でとても明快なクラスであったという評価をもらうことが多いです。俺自身も、アメリカに来てから(日本以外の)訛のある英語を聞き取る能力が増しました。今では、その人の訛から大体お国を言い当てることが出来るまでになりました。

570 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 01:46

>>480 HHMI Investigatorの「所属」

人によって、HHMIを所属の最初に持ってくる人と、後に持ってくる人が居ますよ。俺はたいてい最初に持ってきていますが、この順序には特別にルールはないはずです。

ただ、HHMIが単にその人のgranting sourceではなく「所属」になることには、れっきとした理由があります。つまり、たとえばNIHとNIH grantをもらっているPIの関係とは異なり、HHMIとそのInvestigatorは、真に雇用関係にあるのです。俺の給料は全額HHMIから出ており、他のソースから給料を補充することは税法上できません。ちょっとした、裏話でした。

577 名前:MY 投稿日:2000/10/26(木) 02:27

>>485 論文引用件数

良いこと言われますね、まったくその通りだと思います。評価基準としての引用件数の最大の欠点は、数字がその分野の人口をダイレクトに反映してしまう事です。俺の1988論文の引用件数が多いのも、心血管系の生物学、はたまたペプチド性ファクター一般に携わる人の数がすごく多いからです。雑誌のインパクト・ファクターについても、同様の批判が出来ると思います。ISIなどでは、この"population effect"を修正したいろいろな適量的基準を作ろうとしているみたいですが、なかなか難しいらしいですね。

アメリカの大学でPIをリクルートする際には、論文総数とか、インパクト・ファクター総数や平均値とか、そんな数字そのものは、ほとんど評価基準になりません。まぁたしかに、最低限度の論文総数や、トップ雑誌に最低1,2報は出している、とかの「足切り」基準はクリアしていないと始まらないかも知れませんが。ほんとうの業績評価は、数字ではなかなか表すことの出来ない、その人のストーリー性とか発見のインパクトとかに基づいてなされるのです。

大学の序列についても、同じ意見ですね。Harvardだから手放しで一番なのではなく、Harvardの何先生に教わりたいとか、Stanfordのこのdepartmentは最高とか、そういう物言いになりますよね。俺自身も、UT Southwesternの、Pharmacology (Gilman) + Molecular Genetics (Brown&Goldstein) のフロアは、全米でも最高だと思っていますよ。

582 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 03:21

>>564 >>571 YK君の友人へ

あの、水を差すようですが、アドバイスって一体何をすれば?彼女の見つけ方とか結婚までの持って行き方なんて、んなもん知るかよっ。ここのいっぱいある「どうすれば医者と結婚できますか?」的なスレッドを熟読してはいかがでしょうか。金髪女性を是非ともモノにしたいと存じます、って言われても..それって本末転倒なのでは? YK君だって、たまたま俺のラボで出合って惚れた女が金髪碧眼の女医さんだったわけで。

ちなみに、この女医さん(元うちのM.D.ポスドク)も、無事ウチの大学で小児科のassistant professorになり、しかも初めて出したNIH RO1が、一発で何と7パーセンタイルの高得点を獲得しfundされました。I am proud of her!

さてと、YK君の論文を仕上げなくては...(^^ゞ

583 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 03:30

>>582

あ、ちなみにこのYK君っていうのは、東大医学部を卒業して、半年だけ内科研修やって医局にも入らず、院にも行かず、いきなり俺のラボにM.D.ポスドクとして来てしまったという大変オモロイ奴です。今ほぼアクセプトされつつある論文の他に、結構でっかい仕事を2つほど完成させつつあります。金髪碧眼の女医さんとの結婚では、最初反対していたご両親を、勘当をも恐れず、かつ粘り勝ちで説得した奴です。I am pround of him, too!

585 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 04:07

551>> 給料のこと、別に不躾な質問とは思いませんよ。

HHMIの給料は、原則としてhost institutionでその人がもらうべき給料と同じです。しかし、fringe benefits packageが大学のものより圧倒的に良いので、実質的には同格のnon-HHMI PIよりも数割高い給料になっていると思います。そうですね、やはり日本の(国立)大学の同格教官と比べたら、アメリカの大学のPIは2倍以上はもらっていると思います。実際、多くのばあい、ポスドクからPIになると、給料が一気に2〜3倍跳ね上がります。日本で、科技庁グラントなどで高給ポスドクをしていて、大学教官になると給料が実際に減ることがあるのとは随分違います。

定期昇給はウチの大学は原則としてありません。しかし、きちんとやっていればメリット昇給が来ますので、俺の場合はだいたい今まで毎年、5〜10%程度ずつ上がってきました。歩合給(例えば、論文一報いくらとか?)のようなものは、一切ありません。退職金はもちろんあります。Pre-taxのfringe benefit moneyから、自動積み立てし、自分の好みのマーケットに投資するようになっており、年々増えて行きます。副収入としては、もちろんセミナー・講演などの謝金の他に、製薬会社のコンサルタント料や、パテントが売れた時のロイヤリティーなどがあります。(最近までの?)日本のどこかの医局の教授たちみたいに、部下の仲人料で儲ける、なんてのは一切あり得ません。所得税は、州や地域によっても総額が違ってきますが、日本よりはやや高いかも知れませんね。最近の日本のことを知りませんので、正確には判りません。

47 名前: MY 投稿日: 2000/10/26(木) 02:23

>>499

必要以上に懐疑的になることはありませんが、正直いって、in situ hybによるサポート無しのGPCR immunohisto(エンドセリンに限らず)は、信じないことにしています。

大学院教育については、少なくともその「不安」を自覚している人は大丈夫です。

649 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 15:14

>>603 日本vsアメリカ?

俺はアメリカの環境が好きで敢えてそれを選んできた人間ですから、俺の書き方はどうしてもアメリカびいきになりますよ。あくまでも、そういうバイアスのかかった意見としてお読み下さい。おっしゃるように(日本からアメリカへの)「頭脳流出」っていうコンセプト自体、俺は嫌いだし、これからは時代錯誤になってゆくんじゃないでしょうか。オリンピックじゃあるまいし、科学者が仕事を地球上のどこでやったって、構わないと思うのですが。俺は何処にいようと、たとえアメリカ市民権を取ろうと、中身は最期まで日本人なわけだし..

日本の方が良いところ:何と言っても、食い物です(爆) あー、旨いラーメンが喰いたいっ!

651 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 15:30

>>614 留学先で伴侶を見つける..

それは失礼いたしました。お詫びに、一言だけ「アドバイス」らしきものを..

アメリカ人女医と結婚したYK君ですが、やはり、彼は日本人男としては例外的にanti-chauvinisticですよ。アメリカに居ると、(俺自身も人のこと言えませんが)日本の男共がいかにchauvinisticであるかが、嫌というほど見えてきます。国際的感覚(死語か?)を身につけたいなら、ニッポン男児は、その辺から自分を変えてゆくべきなのでしょうね。

662 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 16:20

>>653 >>655

Chauvinisticという言葉ですが、確かにこの両方の語義があります。でも、アメリカでこのようなコンテクストで使ったら、「男尊女卑」の意味にしかなりません。念のため..

664 名前:MY投稿日:2000/10/26(木) 17:25

>>486 臨床医の基礎研究、いわゆるphysician-scientistについて。

これは、日本でもアメリカでも、別の意味で実に根深い問題だと思います。

まず、日本での現状については、>>265でもちらっと私見を書かせていただきました。全くチャネラーさんのおっしゃる通りで、日本の臨床医(ないしは臨床の医局に属する人々)で基礎研究を目指す人たちにありがちな最大の問題点は、『不必要で時に卑屈とも思えるほどのボス(主任教授)への忠誠心』だと思っています。もちろん、彼らの忠誠心に完全に寄りかかっている教授の方にも根本的問題があるのでしょうが、それを言い出すとキリがないので、ここではあくまでも若い先生方の側からの問題として捉えましょう。最初からそれほど真剣にM.D.研究者としてやって行く意志はなく、ただ「博士号」が取りたいために一時期研究をする方も多いと思いますが、そういう人はそれでいいのです(ただし、そうでない、基礎研究に本気なM.D.までがそういう方々のためにPh.D.の人たちから煙たがられたりするのは可哀想ですが)。

しかし、真剣に臨床医&基礎研究者になりたいと欲している若いM.D.の方々には、この、医局への忠誠という「まやかしの安全弁」に惑わされない勇気とambitionを是非とも持っていただきたい、というのが俺の心底からの希望です。アメリカに来て9年、これまで、こちらの研究室で本当に素晴らしい仕事を成し遂げていながら、日本に帰った途端に、「医局の意向・ルール・年功序列配慮・留学お礼奉公」等々によって、まともな基礎研究の全く続けられない立場に追い込まれてしまう人をイヤというほど見てきました。彼(彼女)らに、客観的に見て研究の才能があまりなさそうなのなら、気にしませんよ。でも、彼らの多くが、実に素晴らしい研究成果を挙げて来た人たちなのです。[幸い、俺自身のラボから日本に帰って行かれた先生方々は、今のところ全員、きちんとした研究が続けられる(時間的にもプロテクトされた)立場に戻られています。本当に幸いな事で、本人および関係者全員に心から感謝です。]

俺に言わせれば、やはりこの「医局への忠誠心」は、その人のambitionの不足の顕れでしかないのです。医局・白い巨塔にべったり奉公していれば、いつか必ず教授になれるわけではないのでしょう?どうして、そういったバックアップと逃げ場を全て自分から外して、自分を解放して、背水の陣の精神をもって、基礎研究なら基礎研究が好きな自分に100%賭けてみることが出来ないのでしょう。もしそれで本当にダメなら、その時はその時でいいじゃあないですか。M.D.なんだから、いざとなればいくらでもツブシは効きますよ。思い切って医局を離れて、成功すれば大いにハッピー。たとい成功しなくたって、自分の信念に従って一生懸命やったのだという自覚がもてるのなら、アンハッピーになるわけないと思いますよ。

転じてアメリカでは...こちらは、人事システムについても徹底的に個人主義の社会ですから、このような「一生をかけたボスへの忠誠心」のような現象は起こり得ません。しかし、physician-scientist、特に、真に臨床的な基礎研究を目指す者は、こちらでも色々な問題に直面します。それを書き始めるとキリがないので、今回はひとつだけ文献を引用して失礼します。うちのChairmenが書いたエッセイで、彼らいろいろ良いこと言ってますので、是非、時間のある時に読んでみてください。

Goldstein, J.L., Brown, M.S. The clinical investigator: bewitched, bothered, and bewildered -- but still beloved (editorial). J. Clin. Invest. 99:2803-2812, 1997.

672 名前:TS(MY先生の弟子のひとり)投稿日:2000/10/26(木) 18:29

MY先生がいらっしゃるとはびっくりです。すごいもりあがりですね。

全部読むのが一苦労です。

論文の方もよろしくお願いしますm(._.)m

674 名前:TS投稿日:2000/10/26(木) 18:50

しかし、ここにはあまりに下品な書き込みが多いことにもビックリです( ゜_゜;)

678 名前:TS投稿日:2000/10/26(木) 19:36

>676

何が二番煎じなのかわからないし、なにが笑えるのかもわかりませんね。

きょう、ここを見ただけだから、よく勝手がわかりません。

僕にはMY先生のような力はありませんし、弟子でもいいです。

「元弟子」「後輩」でも、いいです。

いまでは、曲がりなりにも半分独立できましたので。

14-3-3を研究してる方ですか?

いろいろ教えてください。

いいデータでてますか?

693 名前:MY投稿日:2000/10/27(金) 01:09

>>659 免疫染色

申し上げたのは、あくまでもGPCR(膜7回受容体)に関して、です。GPCRの免疫染色は、伝統的に、タグ無しでは非常にトリッキーなことが多いからです。その他の抗原に関しては、判断はもうケース・バイ・ケースでしょう。例えば、免疫染色を行って、既に確立されている組織分布あるいは細胞内分布が再現性よく得られた場合は、まず善しとしてよいのでは?でも、これまでに言われていなかった、以外な場所に発現していることを見つけたような時は、やはりmRNAレベルでのサポートが必須と考えます。最低限RT-PCRやNorthern、できればやはりin situ hybを併用することが望ましいと思います。

これは免疫染色に限らず、全く独立な2つ以上の手法で再確認する、というのはデータの信憑性を高めるための必須の手段ですよね。

694 名前:MY投稿日:2000/10/27(金) 01:22

>>672 >>674

うわっ、これはどうやら本物のTS君のようですね(当スレッドに既出です)。こんな所でカキコしているのを見つかってしまいましたか...

ホントだ。ここで油売ってる暇があったら、彼の論文早く返さなくちゃ..(^^;;

695 名前:うに丼投稿日:2000/10/27(金) 01:27

>MY先生

675について、どう思いますか?

696 名前:MY投稿日:2000/10/27(金) 01:47

TS君のために弁護しておきます。彼は謙遜して「弟子」という言葉を使いましたが、それはあくまでもlineageという観点からであって、彼は俺の「子分」や「2番煎じ」などでは全くありませんぞ。俺だって、lineageとしては江橋の孫弟子、眞崎の弟子ですが、自分が彼らの2番煎じだと思ったことはないですからね。あと、正確に言うとTS君は俺の兄弟弟子と言った方がよいと思います。

708 名前:TS投稿日:2000/10/27(金) 08:09

>>699

僕は掲示板という場を良く知らないのですが、ここはそれほど有名な場なのですね。

知人に教えてもらってのぞいてみたのですが、書き込みをしたのは間違いであったようです。

堕ちた研究者さんは、面と向かってはなしているときでも、人の話をバカにすような発言をする人なのでしょうか?

僕は掲示板は良く知らないのですが、すくなくとも直接あって話すときと同じくらいの節度をもったことしか書くつもりはないのですが・・・

ですから、正体がわかろうが、問題ありません。

いずれにしろ、アドバイスありがとうございました。

ここでは、無理なようですが、他の方とは、どこかでまともな研究の議論ができるといいですね。

711 名前:TS投稿日:2000/10/27(金) 08:22

>>707

話題になっていたのですか?それは知りませんでした。

出てきてすみませんでしたね。申し訳ありません。

712 名前:MY投稿日:2000/10/27(金) 08:26

>>159 だいぶ以前の質問ですが..

英語のfluencyを鍛えるしかないですね。それも、言語としての流暢さだけでなく、なんつーかな、言い回しの日米文化差、みたいなものが分かってくると、「渡り合う」のが苦痛でなくなります。

751 名前:MY投稿日:2000/10/27(金) 09:48

>>701

ちょっとクソ忙しくてカキコの暇がないだけです。

回答すべき質問はリストアップしてあり、もう1ダースほども溜まっております。(^^;;

891 名前:MY投稿日:2000/10/27(金) 21:40

さて、そろそろ日本に出発でございます。誰かが言ってたけど、ほんとに機内で眠くなるまでレス書き溜めようっと。(^^) 最近のアメリカンのフライトは、全機パワー・アウトレット付きなので二重丸です。

あ、ついでに、俺の時差ぼけ防止法でも..

とにかく出来るだけ機内で眠ること。時差と寝不足が重なると余計ひどくなります。一番いいのは、アルコールと抗ヒスタミン剤(古典的でBBBを透るやつ)を併用して、眠ってしまうことです。話題のメラトニンは、避けたほうが賢明です。理由は:

(1)飲んでも多少眠くなる程度で、効かない。宣伝されている体内時計のリセット効果は、せいぜい30〜60分のシフト程度で、意味なし。

(2)Depressionを誘発するという説あり。

(3)アメリカのスーパーなどで買えるメラトニンは、一部合成品ではなくウシ脳からの抽出物。怖いぞ〜。

それでは、行ってまいります。

930 名前:MY投稿日:2000/10/28(土) 19:10

>>611 >>612 ゴア vs ブッシュ

あはは、出ましたね政治の質問。

アメリカは、日本に比べて(いや世界のあらゆる先進国とくらべて)非常にhyper-capitalisticな国です。アメリカに住んでいると、日本がいかにsocialisticな社会であるかが良く分かります。まず、貧富の差の大きさと、それに伴う社会的経済的階層のコントラスト。日本の大企業で、社長と卒後1年目の新米サラリーマンの給料を比べたら、その比はせいぜい数10倍どまりでしょう?これがアメリカの大企業では、数1000倍にもなり得るのです。昨年ダイムラー・ベンツとクライスラーが合併したときも、両社の社長の年収が10倍以上も違っていたことが話題になりました。逆にアメリカの貧困層は、本当に貧乏です。それに比べたら、日本は(良くも悪くも)本当の金持ちも本当の貧乏人もほとんどいない社会です。たとえばアメリカの犯罪率は、これがある限り、いつまでも下がらないでしょうね。俺の思うに、アメリカ人って、「それでも良いじゃないか」って思う人が多いようです。日本人だったら、例えば「街の安全」は、国民全てにタダで与えられた公共の財産ですよね(もちろん間接的には税金という形でその代金を支払っているが)。でも、アメリカでは、「安全は金を出して買うもの」なのです。

もう言いたいことは判ったと思いますが、(俺自身も含め)平均的な日本生まれの日本人の価値観は、アメリカの基準では圧倒的にDemocrat寄りなのです。俺もその一人です。

PS: 前出で頂いた、キャップを使えばというアドバイスですが、現在キャップ登録は停止中だそうです。

931 名前:MY投稿日:2000/10/28(土) 19:11

>>596 教官の逆評価について

そうですね、学生が教官を逆評価できるシステムは、個々の教官に、自分の教え方に関するフィードバックを提供するという点で、大事だとおもいます。ただ、それをあまりにも重視するあまり、いわゆる「学生に媚びを売る」教官が増えてしまったのでは、本末転倒ですよね。実際、日本と大学の、特に文系の学部では、そういう教官が少なからずいる、ということも耳にします。まず学生の側に、「真面目に」 逆評価するような態度が培われていないと、何も意味のないことになります。

学生による逆評価だけでなく、言い古されたことですが、現在の日本の大学(とくに国立大学)には、一度教官になってしまった者に対する、強制力のある再評価システムは、全く存在しないと言ってもいいのではないでしょうか。そりゃ、仕事をしなければグラントは来なくなるでしょうが(これもそうでもないのか?)、それでも教官としての身分までは危うくならないし、給料も一定の率で上がり続けるし、社会的地位も全く安泰ですよね。これ、どこかおかしいと思います。

932 名前:MY投稿日:2000/10/28(土) 19:13

>>520 文献をどこまで読むか

ほう、HHMI Investigatorでも、そういうタイプの方も居るのですねぇ。差し支えなければ、どなたか教えてください。俺の知っているHHMIの人々は、実に勉強家が多いようですので、ちょっと好奇心です。俺自身はというと、まぁこれに関しては中庸でしょうか。いつもいつも文献を読みまくるには自分は怠け者すぎますし(いかんなぁ)、かといって自分の仕事に関係の深い主要論文を無視できるほどの大人物でもありません。

日頃から文献を読むことは、もちろん研究者として極めて大事なことだと思いますよ。ただ、それによって、自分自身の研究がいわゆるfashionに走り、自分のnicheやユニークさを見失ってしまうのでは、本末転倒です。世の中で起こっている重要な事には(自分の分野とは少し距離があっても)精通し、かつ自分自身はデンと構えて我が道を行く、というのが俺の理想の研究者の姿ですね。

933 名前:MY投稿日:2000/10/28(土) 19:16

>>517 >>675 知的所有権(IP)・特許について

これについては、一家言ありますので長くなりますよ。 生命科学・医薬・バイオ分野(biomedical engineeringを除く)での近年のIPには、大きく分けて4つのタイプがあると思います:

(1)薬理活性のある人工化合物(薬物あるいはその前駆化合物)に対する特許。微生物などからの活性天然化合物(発酵産物など)もここに含めて良いでしょう。

(2)ヒトないしは高等動物由来の天然の生理活性物質およびその製法に対する特許(ほとんどが蛋白質)。例えばリコンビナント・インスリンやリコンビナント・エリスロポエチン、その変異誘導体などがここに入ってきます。

(3)いわゆるドラッグ・ターゲット(内因性の薬物標的分子)に関する特許。例えばエンドセリン受容体・オレキシン受容体とそのリガンド(この場合、内因性生理活性ペプチド)などがこれに当たります。

(4)そこまでの機能特定がなされていない内因性分子に関する特許。例えば、機能のわからない新しいGPCR遺伝子に対する特許。極端には、単なるEST(無名cDNA)に対する特許。

(1)〜(4)へ行くに従って、人工的「発明」の要素が減り、より「発見」の要素が増えて行っていることが分かると思います。問題は、これを何処までIPとして認知すべきか、という点です。

まず(1)と(2)に関しては、そのものが「薬」になりうる物質ということで、堂々とIPとして認められるべきであるということに異論を挟む余地はあまりないと思います。また逆に(4)に関しては、少なくとも国際特許の舞台においては有効な特許として認められない、というのが最近の動向です。一時期これを乱発した米国も、今はその指針に従いつつあるようです。

つづく...

934 名前:MY投稿日:2000/10/28(土) 19:17

そこで意見の分かれるのが、(3)の範疇です。つまり、機能がかなりハッキリ判っている内因性分子(遺伝子)で、薬物の作用点になりそうなもの、という事です。現在の風潮では、ほとんどの場合、このような薬物標的は正当なIPとして認められていると思います。例えば、エンドセリン系やオレキシン系(受容体およびリガンド)に関する特許が実際に発行されています。

しかし、これは特許法の本来の精神に照らして本当に正しい動向でしょうか?俺自身は、この点おおいに疑問に思っております。特許というのは、なにか世の中の役に立つ物を「作り」あるいは「発明」した場合に、その権利を保護し報酬が生ずるようにして、発明へのmotivationと健全な競争を促すことが、本来の目的だと思います。しかし生命科学分野での現状をみると、製薬業界・アカデミア(公的非営利研究機関)に限らず、この薬物標的としての内因性遺伝子に対する特許を取りまくり、将来発明されるであろう所の、それに対して働く薬物(化合物)までをも自分たちの所有と主張してロイヤリティーを要求する、ということが堂々と行われています。おっしゃるように、特にアメリカでこの動向がピークに達しています。それでいいのだろうか?

俺の考えでは、この動向は決して健全なものではありません。たとえばオレキシン受容体に関しても、TS君の最初のCell paperが、SmithKline Beechem社との共同研究になっているということで、他の製薬会社はオレキシン受容体アンタゴニスト・アゴニストの開発を始めるにあったって、必ず一度は躊躇するようです。製薬企業の研究者の方々と話していると、ふたことめに出てくるのは、「しかしその標的はどこどこの会社が特許をとっているから..」というようなコメントです。薬物標的の同定が、実際に臨床で使えるクスリを作るまでの長い長い道のりのほんの第一歩でしかないことを考えると、この状況はどうみても不健全です。クスリ作りへの健全な競争を阻害しています。ひいては、そのような特許を与えること自体が、社会に対するdisserviceだと思います。

自分がその手の特許を持っていて言うのもなんですが、この薬物標的IP崇拝主義は、近未来にきっと崩れてゆくと思います。必ず揺り戻しが来ますよ。ほんの10年・15年前には、我々の身体に最初から存在ところの薬物標的を「発見」しても、そんなものは特許の対象にならないという考えが主流だったわけで、そちらの方がよほど健全な考え方だと思います。

結論としては(特に >>675 のご質問に関して)、日本の業界は、現在のアメリカ主導のバイオ特許の現況に惑わされず、コツコツとやってゆくべし、という一言ではないでしょうか。 薬物標的を「発見」することと、薬物を実際に「発明」することとは、全く違うレベルの話なのです。まだ負けてもいない戦(いくさ)を、アメリカ側の「hype」に惑わされて、負けたものと勝手に決めつけてはいけませんぞ。

935 名前:MY投稿日:2000/10/28(土) 19:21

..ということで、残りはまた明日(日曜日)にでも。

う〜む、日本はやはり飯が旨いわい!

24 名前:MY投稿日:2000/10/29(日) 03:29

誰が立てたかよりも、内容がよりマトモなので、こちらのスレッドに今後書かせていただきます。投稿番号へのリファレンスは、パート1のものです。

25 名前:MY投稿日:2000/10/29(日) 03:32

>>518 >>549 エンドセリンへの道

これ、これまでに口頭では個人的に何度か語ったことはあるのですが、そう言えば文章として書いたことは無いですね。臨場感を出したいので長くなってしまうかも知れませんが..

俺は85年に筑波の医学を卒業し、そのまま同大学基礎医学系の薬理学研究室(眞崎教授)に大学院生として入りました。最初に教授から与えられた仕事は、彼のライフワークである筋肉の仕事のラインで、平滑筋の収縮蛋白質ミオシン重鎖のクローニングでした。当時の眞崎研は、ちょうどcDNAクローニングなどの技術一式を立ち上げつつある所だったので、俺は卒業直後に岡崎の国立共同研究機構の共同研究者の所で出向しました。岡崎には1年ほど居て、その後筑波に帰り、86年終わり頃までには全長cDNAクローニングがほぼ完成し(全長7kbのcDNAクローニングは当時としては大仕事でした)、論文も書き上げることができました。

この時点で、俺としては同じラインの仕事を続けることもできました。しかし、医学生の時に受けた教育のせいでしょうか、俺としてはもう少し、たとい間接的であっても将来臨床医学に結びつきそうな仕事がしたいと常々思っていました。その頃の眞崎研の周囲は、今から考えるとなかなか面白い人たちが集まっていました。当時助教授だった後藤先生(現教授)の部屋では、主として心・血管系の自律神経薬理を比較的古典的な系を使って進めていました。また、お隣の生化学の木村講師(現千葉大教授)の部屋では、数10キログラムのブタ脊髄組織から、生理活性ペプチドの探索が行われていました(木村先生は、ANPの精製などで有名な松尾前国立循環器病センター研究所長の弟子です)。折しも87年といえば、内皮由来血管弛緩因子がNOと同定される前夜です。俺はこのようなinterdisciplinaryな環境の中にあって、主に耳勉強から「今、血管内皮は面白いぞ」という確信を得て行きました。

その当時ちょうど、東大第三内科から、俺とほぼ同年代の栗原先生が眞崎研に分子生物学を習うということで出向していて、俺は彼といつも、「血管内皮で何か面白いことは出来ないかねぇ」と話し合っていました。彼が「内皮由来の細胞増殖因子は採れないものか」と言ったのにたいし、「いや、古典的な系で収縮・弛緩因子をとった方が却って面白いのでは」などと答えた会話を、今でも覚えています(結局エンドセリンは両者だったわけですが)。そんな時ふと、後藤先生が教室にたまたま持って来られた心血管系の基礎研究の教科書(当時出たばかりだった。編者は忘れました)の、Regulation of Coronary Circulationとか何とかいう章をパラパラとめくっていて、その中に1パラグラフだけ、内皮由来の収縮因子の可能性について触れた部分があったのです。そこに引用してあったのは、シンシナチ大のグループがFASEBに出したアブストラクトでした。早速、図書館に行き、興奮してそのアブストラクトを読みました。血管内皮細胞の培養上清中に、どうやら血管収縮活性が存在する、という85年の報告でした。栗原先生と二人で、そこから著者検索でたぐっていった所、この内皮由来収縮因子に関して、87年までにシンシナチとコロラドのグループからそれぞれ1報ずつ論文が出ていること、しかしどうもこれらのグループは、この物質に関してそこから先に進めあぐねているらしいこと、などが見えてきました。つまり彼らは、このものをバイオアッセイでの活性としては検出していましたが、もしかするとペプチドかも知れないという程度で、物質的根拠は全く得られていなかったのです。

to be cont'd...

26 名前:MY投稿日:2000/10/29(日) 03:34

そこで俺は少し「計算」をしました。つまり、自分に当時与えられているリソースは何々であるか、一歩下がって考えてみたのです。まず、それまでの大学院生活で、細胞培養は収得していましたので、内皮細胞は自分でも培養できそうだと思いました。血管収縮のバイオアッセイは、まさに後藤研で毎日動いています。さらに、この物がペプチドだとすると、お隣の木村先生に教えてもらえば精製できるのではないかと思い、彼に相談すると、「活性がしっかりしてさえいれば、きっと出来る」との力強い回答でした。さらに、そこまで行ければその後は自分の分子生物学の腕を試すチャンスだとも思いました。

その頃ちょうど東大三内で、ある製薬会社で樹立されたブタ冠動脈内皮細胞を培養しており、栗原先生がその細胞を筑波に持って来ました。早速、小スケールで培養を始め、後藤先生の部屋に上清を持っていっては収縮活性を見る「つるし」実験を始めました。87年3月頃のことです。最初、ウシ胎仔血清からのアーティファクトが出たりして苦労しましたが、これはウマ血清を使うことによりすぐに解決し、どうやら報告されている活性は本物らしい、ということがハッキリしてきました。眞崎教授に、このミステリー・ファクターを掴まえたい、と相談したのはたしかこの時点でだったと思います。眞崎先生は、「しょうがねーなー、ミオシンのことは辞めちゃうのかぁ?まぁいいや、やってみたら?」という感じでした。彼の実に偉大なところです(マジで)。

木村先生とも相談し、starting materialは多いほど良いということで、培養のスケールを最高40リットル/バッチまで上げて行きました。NuncのCell Factoryという、20階建てになった巨大な培養器(ディスポ!)をどんどん使いまくりました。このディスポ容器と、血清・培地だけでも、当時としてはかなりの費用で、実際に精製に入ると、それに加えていろいろなHPLCカラムも買わなくてはいけません。眞崎教授にまた頭を下げに行ったところ、「まぁ、6ヶ月やって結果がでなかったら、辞めろよな」ということで、大きな出費を許してもらえました。当時、眞崎先生にはちょうど文部省の特定研究が当たっていて、割とお金があったのも幸いでしたが、やはり眞崎先生の度量の大きさには今でも感謝の言葉以外ありませんね。きっと彼は彼なりに俺が始めたことについて計算し、面白いものかも知れないことを嗅ぎ取っていたのでしょう。

大スケール培養で本格的な精製を試み始めたのが87年5月くらいでした。基本的に、俺が細胞培養とカラムの操作を担当し、栗原先生と当時後藤研で研究生をしていた友部さんという女性が「つるし」のバイオアッセイ(ブタ冠動脈平滑筋標本)を担当しました。精製の後半では、木村先生ご自身がHPLCを助けてくれました。

最終HPLCカラムからの画分をアッセイしていて、吸光度(物質)のピークと収縮活性のピークが初めて一致した夜のことは、今もはっきり覚えています。もう夜中の2時を廻っていましたが、俺はかまわず木村先生宅に電話をかけました。すると木村先生は、「それなら朝までに完全精製しようや」ということで、何とすぐに大学に出てこられました。早速、最々終ステップのカラムにとりかかり、朝5時くらいまでに最初の完全精製に成功しました。87年7月でした。友部さんがコンビニでケーキを買ってきてくれて、ひっそりとお祝いしました。彼女が感動に涙していたのを覚えています。

当時の筑波大医学には、ABIの最新型ペプチドシークエンサがまだ無かったので、精製標品を持って古巣の岡崎生理研へ行き、そこのシークエンサを使わせてもらいました。ご存じのように、当時の機械はだいたい1時間に1残基の割合でN端から答えが出てゆきます。サンプルをアプライしたら、後は自動なので寝ていてもいいのですが、俺はずっと機械の前に座って、Peninsulaの生理活性ペプチドのカタログを首っ引きで見ていました。既知のペプチドでないことを祈らずにはいられない気持ちでした。XSXSSLMDK...(Xは後に還元してCystineと同定)と出てきたあたりで、どうやら新規のペプチドらしいことが判った頃には朝になっていました。最高にエキサイティングな時でした...

27 名前:MY投稿日:2000/10/29(日) 03:35

この新規ペプチドのクローニングは、まさに寝る間も惜しんで1ヶ月そこそこで完成させました(注:今のようにRT-PCRなど無い時代です。オリゴプローブを使っての、ラムダ・ライブラリからの新規クローニングです)。一方、合成品の製造を大阪のペプチド研究所にお願いしました。エンドセリンの合成はなかなか難しく(S-Sが2カ所、C端がTrpなど幾つか難所がありました)、時間がかかりましたが、87年11月頃までには出来上がり、合成品を用いての薬理実験一式を後藤研で完成させました。論文をNatureに投稿したのが、たしか87年終わり近かったと思います。

これは知る人ぞ知る裏話なのですが、論文の最初の投稿原稿では、エンドセリンの構造図が完全に間違っていました。エンドセリンにはCys残基が4つあり、二組のS−S結合を作っているのですが、そのS−Sのトポロジーを逆にしてしまったのです(正解は1−4,2−3のところ、1−3,2−4として投稿)。これは後で単純な試験管ラベルミスであると判明しましたが、冷や汗ものでした。おかしかったのは、論文がNatureの88年3月31日号に出た直後のFASEB meetingで、何故かすでにPeninsulaが合成エンドセリンのカタログを配っており、それが逆の構造になっていたこと(レフリーから最初のバージョンが漏れた以外考えられない)。それから、後でDr. S. Moncada(NOの話で、ラスカー賞とノーベル賞を両方取り損なった人です)が、「自分も実はレフリーで、間違った構造で合成してしまい、えらい無駄をした。あれはお前、どう見てもわざと間違えたんだろ?」と笑いながら言っていました。(爆)

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このプロジェクトは、仕事の開始から論文が実際にプリントされるまで、ほぼ1年という超スピードで進みました。俺のスタイルだと、大きな仕事がこんな短期間で完成されることは、もうおそらく2度とないでしょう。

全プロジェクトを通じて、一つだけとても悲しいことがありました。それは、栗原先生が、87年夏、まさに精製ペプチドの構造が決まり、これからクローニングだという決定的時局に至って、三内の某先生からの「医局の意向」によって、いきなり東大に撤収させられてしまったことです。それまでのプロジェクトはずっと二人でやって来ただけに、これは俺にとっては精神的に打撃でした。同時に、栗原先生にとってもそうだったに違いない、と思っています。今考えると、何か、日本の大きな医局にありがちなmicro managementの縮図だったと思います。言いたい放題だな... m(_ _)m

37 名前:MY投稿日:2000/10/29(日) 07:54

>>30

>もう数あるラボのどこかが発見するべき時期が到来していた

その通りです。実際、スイス・バーゼルのRocheのグループが、同じ活性の精製に当時着手しようとしていた旨、数年後に聞かされました。もっとも、面白いもので、その他には同じものを狙っていた方の話は聞いたことがありません。

>>31

>「これなら相手よりも先に結果を出せる」という理由で..

それは当時の俺の心理とはかなり違いますね。実際、文献を調べた時点で、「活性」を最初に記載した2グループは、どうもその先を全く続けていないらしい、ということが判って来たからこそ、始めたのです。そのまま捨て置くには、あまりにも面白いリードだと思いました。

俺と付き合ったことのある人なら皆知っていると思いますが、俺はじつは「競争」は大嫌いです。結果として、他のグループをスクープしたり競争になってしまったり、ということはこれまでにありましたが、最初から競争が存在しそうな(つまりfashionableな)仕事はまず始めないタイプです。競争があるということは、自分のアイデアが大してユニークではないという証明でもあるわけで、それだけでもう興味がそがれてしまうのです。PIとしてはこれ、長所にも欠点にもなるのは良く知っていますが、それが自分のタイプなので仕方ありません。中には、競争があるからこそ闘志が沸くというPIもいますが、自分は正反対です。

>たちまち複数の人間が組むプロジェクトが出来ること

これは、医学部の特徴と言うよりも、当時の筑波の医学全体の(良い意味で)著しい体質だったと思います。つまり、講座間の心理的・物理的「壁」がほとんどなく、当時の俺のような一介の大学院生のレベルでも、やる気とアイデアさえあれば、同士を集めることが出来た、ということです。今から考えると、当時の筑波だったからこそ出来た仕事である、と断言できますね。