卵巣および子宮

3 卵巣および子宮

1 外陰部 ・ 膣

a 非腫瘍性病変 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1)Bartholin腺嚢胞

外陰部に発生するBartholin腺嚢胞は、慢性炎症によるBartholin腺開口部の閉塞によって生じる嚢胞である。嚢胞内腔に漿液性または粘液性の分泌物が貯留し、無痛性腫瘤を形成する。嚢胞を被覆する上皮は、扁平上皮、移行上皮、円柱上皮と多彩である。

2)ベーチェット病

再発性口腔内アフタ性潰瘍に皮膚症状、外陰部潰瘍、眼病変を合併する全身性の疾患である。

3)膣炎

膣炎は婦人科外来受診患者のなかで最も頻度の高い疾患である。その原因は、感染、外傷、タンポンなどの異物、薬剤があげられる。感染の原因となる病原体には、カンジダ、トリコモナス原虫、大腸菌、ブドウ球菌、淋菌がある。

4)線維上皮性ポリープ

線維性上皮性ポリープは、重層扁平上皮に被覆され上皮下結合織の増生を認める良性病変である。外陰、膣、子宮頚部にもみられるが、膣における発生頻度が最も高い。

b 良性腫瘍 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1)尖圭コンジローマ

HPN感染による重層扁平上皮の乳頭状増生よりなる良性病変であり、HPV-6、HPV-11が原因とされる。肉眼的には、外陰部皮膚または、粘膜の境界明瞭な疣状の白色隆起性病変を呈する。好発部位は膣前庭部または外陰唇の正中側である。

2)平滑筋腫

外陰部の良性軟部腫瘍の中で最も頻度が高い。組織学的には、子宮体部に発生するものと同様の組織像を呈する。

3)侵襲性血管粘液腫

10~30歳の女性の会陰部または、その近傍から発生する軟部腫瘍である。組織学的には、小型の紡錘形細胞の増生と壁の肥厚を伴う血管と細胞成分の少ない粘液腫状の間質とからなる。異型性や核分裂像はみられないが、境界が不鮮明で完全摘除が困難なため、再発が多い。

c 悪性腫瘍 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1)扁平上皮癌とその前駆病変

a)外陰部上皮内腫瘍(VIN)

外陰癌のうち90%以上を扁平上皮癌が占めるが、その前駆病変は外陰部上皮内腫瘍vulvar intraepithelial neoplasia(VIN)と呼ばれる。VINは重層扁平上皮の各層の極性の乱れと、核の異常を示す上皮内病変を示し、異形成と上皮内癌をさす。

b)扁平上皮癌

間質への浸潤を示す悪性の扁平上皮腫瘍である。60~70歳代の女性に好発し、後発部位は、小陰唇ないし大陰唇である。

2)Paget 病

Paget細胞とよばれるアポクリン腺または、エックリン腺様の分化を示す大型の腫瘍細胞が上皮内に増生する腫瘍である。乳房外のPaget病のなかで外陰部は好発部位である。約30%の症例で真皮内への浸潤がみられる。

3)悪性黒色腫

外陰部の悪性腫瘍のうち扁平上皮癌についで頻度が高い。膣の原発はまれである。肉眼形態は様々な形を呈する。色素沈着を伴わないものもある。

4)胎児型横紋筋肉腫(ブドウ状肉腫)

横紋筋への分化を示すまれな肉腫である。90%は、5歳以下の小児に発生し、小児の膣悪性腫瘍のうち最も頻度が高い。肉眼的にブトウの房状の腫瘤を形成することからブドウ状肉腫ともよばれる。

2 子宮頚部

a 検体の取り扱い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

婦人科領域の検体のうち最も頻度が高いものは細胞診検体であるが、生検材料とともに、既往歴やホルモン剤の服用の有無等の臨床情報が大切である。また、子宮頚部病変に対する円錐切除材料は、病変部の範囲の同定も重要なことから、切除後すぐに固定番に貼り付け、必要な切除断端の情報を伝えることが大切である。

b 子宮頚管炎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

子宮頚管炎は、子宮頚管部の急性及び慢性の炎症をさす。子宮頚管炎は非感染性と感染性に分類される。非感染性の原因としては、タンポンや避妊具による刺激による刺激、放射線照射による障害がある。感染性の原因としては、クラミジア、アメーバ、放線菌、淋菌、梅毒、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスがあげられる

c 非腫瘍性病変 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1)頚管ポリープ

頚管腺上皮に被覆されたポリープである。炎症による反応性病変と考えらえる。

2)子宮内膜症

子宮内膜症とは、異所性に子宮内膜腺上皮と子宮内膜間質組織を認める病態である。子宮内膜症の成因は未だに不明であるが、月経血の逆流による変化(卵巣病変や腹腔内病変)とする考えと、内膜の幹細胞が異所性に存在し(遊走し)子宮内膜組織へ分化したとする考え方が存在する。頚管部内膜症は後者の成因と考えらえる

d ヒトパピローマウイルス(HPV)と子宮頚部上皮内腫瘍 ・・・・・・・・・・・・・

外陰、膣、子宮頚部のHPV感染は、尖圭コンジローマ、異形成病変(上皮内腫瘍)、扁平上皮癌および腺癌の発生に関与する。HPVには、80種類以上の亜型が存在し、約40種類が外陰、膣、子宮頚部に感染する。感染後の発癌のリスクからlow oncogenic risk群とhigh oncogenic risk群にわけられる(http// 参照)。日本では、high oncogenic risk群のうち特に33型、56型、58型が多い。

一方子宮頚部の前癌病変は、異形成と上皮内癌が定義されてきた。異形成は重層扁平上皮の各層における細胞極性の乱れからさらに3つに分類される。すなわち、異形成が上皮の下層1/3に限局するかkoilocytosisが表層1/3にあるものを軽度異形成、異形成が上皮の下層2/3に限局するものを中等度異形成、異形成が表層1/3に及ぶが全層を置換していないものを高度異形成という。上皮内癌とは、癌としての形態学的な特徴を持つ細胞が上皮の全層に及ぶか間質甲順を欠如する病変である。現在我が国で用いられている子宮頚癌取り扱い規約(第2版、1997年)には、WHO分類で採用された子宮頚部上皮内腫瘍cervical intraepithelial neoplasia(CIN)という定義が用いられ、異形成と同義語として用いられている。CINは3段階に分類され、CIN1は軽度異形成に、CIN2は中等度異形成に、CIN3は高度異形成及び上皮内癌に相当する(表***)。

e 早期浸潤癌(微小浸潤扁平上皮癌) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

臨床的に上皮内扁平上皮癌とともに初期癌として扱うことができる病変として設定された疾患単位である。FIGO分類(1995年)の臨床進行期IA期に相当する。具体的には、癌細胞の間質内浸潤を組織学的に確認ができ、かつ表層基底膜から測定した浸潤の深さが5mmをこえず、またその縦軸方向の広がりが7mmをこえないものをさす。IA期は、さらに浸潤の深さが3mm未満のIA1期と、3mmをこえ5mm以内のIA2期に分類される。

f 扁平上皮癌 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

間質への浸潤を示す扁平上皮癌である。組織学的には、表**の如く分類されている。この中でも角化型および非角化型が大部分を占める。最も重要な予後因子は進行期である。日本では、子宮頸癌の臨床進行期分類にはFIGO分類を用いるが、原則として治療開始前に決定し以後これを変更しないことになっている。

g 腺癌 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

頚管部に存在する腺上皮細胞から発生する癌である。間質に浸潤をしていない病変は上皮内腺癌adenocarcinoma in situ(AIS)と呼ばれる。この病変には、HPVが約90%の割合で検出され、中でもHPV-16,18型が多くみられる。また約半数の症例でCINを合併している。一方、腺癌が正常内頚腺領域に限局し、間質への癌の芽出をみとめるものは早期浸潤腺癌(微小浸潤腺癌)と呼ぶ。ただし、内頚腺の深さには、個人差があるため早期浸潤扁平上皮癌のような浸潤の深さを計測することは行われていない。さらに、間質浸潤が目立つ浸潤癌を腺癌として扱う。組織学的な分類は表**に示す。

3 子宮体部

4 卵巣