序文

序文

“さあ,研修医としての生活が始まります.社会人としてのスタートであり,夢に見た医師として病院での勤務です.”

2004年4月1日にスタートした臨床研修制度はプライマリケアを中心とした幅広い診療能力の習得を目的として,まず2年間の臨床研修を行うことになります.内科,外科,産婦人科など複数の科で研修するカリキュラムを組むこととされていますので,幅広い診療能力の習得が目的となっています.ポリクリですべての診療科を回るのとは違い,指導医のもと,責任ある任務に就くわけです.

本書は,研修医が2年間という短い間に遭遇・直面するであろう診療に関連する事項で特に前期研修に役立つポケット版の病理マニュアルです.必要不可欠な情報を網羅すると同時にポケットサイズとすることを念頭に置き,各診療科における基本用語および取扱い規約をはじめとした病理のお約束をまとめました.最も重視した点は理解のしやすさと実地に即した情報を網羅することです.また,各診療科で働く研修医に向けた“これは!”というアドバイスを挿入しました.

病理診療科から送られてくる報告書には,生検の報告書,手術材料の報告書,病理解剖報告書があり,それぞれ目的が異なります.生検は患者から組織を採取し,医師が病名を確定するためのものであります.また,手術材料の報告書は,外科系の診療科で切除された検体を観察し,病変がどの範囲に及んでいるかを見極め,診断を改めて確認するために必要になります.病理解剖の報告書では,患者がお亡くなりになったあとの解剖所見が記載されています.

臨床研修制度ではCPC(clinicopathologic conference〈臨床病理カンファレンス〉)への症例呈示が必修化されており,レポート作成の際にも本書を活用することができます.病理報告書の記載を理解するために必要な組織・臓器の所見については各論で記載しました.研修医自身が病理所見をみて解析できる必要はないものの,病理医からの報告に記載されている事項を理解することができなくてはいけません.

そもそも本書はマニュアル本ですが,研修医としての生活の合間に最初から最後まで通して読んでいただけますでしょうか.執筆者たちが絶対はずしてほしくないと思ったキーポイント,写真,図,表がちりばめられた,全ページカラー印刷の,“親心でそっと教えてくれる,研修医にとってあったかい病理の本”であることがきっとおわかりいただけることでしょう.

なお,本書は,各診療科を専門とした病理医が記載し,企画・編集実務を担当してくれた診断と治療社編集部の小岡明裕さんとともにわれわれ編集者がエッセンスを抽出し,全体としての統一性をとりました.原稿を読みやすく構成し,美しい本に仕上げていただいたのは小岡さんのお陰です.ありがとうございます.

2008年5月 5日

編集者代表 梅澤明弘