皮膚

14 皮 膚

1 検体の取扱い

皮膚病変は,検体を生検あるいは切除後,可及的速やかにホルマリン固定しなければならない.ホルマリン固定しないでそのまま病理に検体を提出するのは,膠原病,水疱症,血管炎で,蛍光抗体法の検索が必要となる場合のみである.未固定材料は,切除後の乾燥や変性を少なくするため,生理食塩液に浸してきつく絞ったガーゼに包んだ状態で速やかに病理に持ち込む.なお,ほぼすべての特殊染色や免疫組織化学染色は固定材料で染色可能である.

病理検査の依頼用紙に必ず記載する内容について,表1に示した.採取部位については,体の印鑑などを押して図示するとよい.断端が知りたいときには,病理医に検体の向きがわかるように,断端に糸をつけるかピオクタニン(青い色素)を塗って左右や上下の方向を表す.

炎症性疾患では,皮疹の所見に対応する病理像が何であるかを知る必要がある(表2).なお,病理への依頼用紙には,“平素は大変御世話になっております”,“お忙しいところ恐縮ですが,御高診,何卒宜しくお願い申し上げます”などの挨拶は不要である.

迅速診断は,基本的に皮膚腫瘍ではすべきではない.迅速診断は(ホルマリン固定された通常の組織診断が病気の最終診断になりうるのとは異なり)あくまで補助診断である(mini lecture).

2 おもな皮膚疾患

a 表皮嚢腫(粉瘤) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

毛嚢が閉塞して拡張した状態であり,腫瘍性疾患ではない.しばしば壁が破壊され,角化物に対する著しい異物肉芽腫の形成を伴う.病理所見を図1に示す.

b 軟性線維腫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

表皮と結合組織が増生した隆起性病変である.非腫瘍性で一種の奇形性疾患である.中高年の女性の頚部に多発すれば,アクロコルドンとよばれる.病理所見を図2に示す.

c 母 斑 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

メラノサイトの奇形性疾患であり,腫瘍ではない.10歳台では表皮内に病変が限局するが,成人になるに従い真皮内に移動する.悪性腫瘍ではないにもかかわらず,基底膜を越える.浅層では胞巣を形成し,メラニンが多い.深部で細胞が紡錘形となり,メラニンが少なくなる(これを,神経線維への“maturation”と表現する).病理所見を図3に示す.

d 悪性黒色腫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

メラノサイトの悪性腫瘍で,予後は非常に悪く,組織学的な深達度によって決まる.病理所見を図4に示す.病期分類については「皮膚悪性腫瘍取扱い規約」を参照されたい.

e 尋常性疣贅 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヒトパピローマウイルス感染症であり,腫瘍性病変ではない.癌化することはない.病理所見を図5に示す.

f 脂漏性角化症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

毛嚢ないし表皮の角化細胞による良性腫瘍である.病理所見を図6に示す.

g 基底細胞上皮腫(癌) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

角化細胞の悪性腫瘍だが,転移しないので,癌という名前を避け,あたかも良性腫瘍のようにbasal cell epitheliomaとよばれることが多い.間質は粘液調で,しばしばアミロイドやメラニンが沈着する.病理所見を図7に示す.

h 日光角化症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

扁平上皮癌だが表皮内に留まった状態である.予後がよいので,“~癌”ではなくこの疾患名が伝統的に残る.ごく一部だが,浸潤性の扁平上皮癌に移行する.病理所見を図8に示す.

i Bowen病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日光角化症と同じく,扁平上皮癌だが表皮内に留まった状態で,予後がよいので,“~癌”ではなくこの疾患名が伝統的に残る.ごく一部だが,浸潤性の扁平上皮癌に移行するのも日光角化症と同様である.病理所見を図9に示す.

j 扁平上皮癌 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

扁平上皮癌といえば,通常は浸潤癌の意味で使用される.病理所見を図10に示す.