国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所前所長(現、理事長特任補佐)近藤裕郷先生(岐阜薬大第27回卒)の講演会が本学で開催されました。講演後、近藤先生と原学長の座談会が行われました。
近藤裕郷(こんどう ひろさと)先生
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所前所長、現、理事長特任補佐、九州大学客員教授、徳島大学客員教授
原 英彰(はら ひであき)学長
学長:近藤先生は、本学を卒業され、九州大学で修士課程を修了した後、鐘紡株式会社に入社、米国Scripps研究所に留学、塩野義製薬株式会社など、色々なご経験がおありの中で、これまでを振り返って本学の学生に伝えたいメッセージはありますか?
近藤先生:そうですね。自分自身の様々な経験から感じていることですが、世の中の環境が大きく、色々な意味で変わってくるというのは避けられません。その環境変化にどううまく対応するか、また環境変化に順応するだけでは何も変わらないので、自らが自らの環境を変えていくことが、非常に重要だと感じています。学生の皆さんにお伝えしたいことは、これからのご自身の人生の中で、自分が経験したことのない難局に直面した際に、簡単に諦めたり、避けたりしないで、それを自分のこととしてしっかり受け止め、まずはチャレンジをする・経験をするということを心がけて頑張られたら良いかと思います。
学長:変化を恐れず挑戦し、その結果、自分の力になっていくのですね。研究所や製薬企業で働いた経験から、どのような学生を採用したいですか?
近藤先生:「これは自分には合わない」或いは「これは自分がやることではない」と、やる前から簡単にあきらめるのではなく、様々なことに対してフレキシブルに対応していくという姿勢が大事ではないかなと思います。このようなマインドを持った学生さんはいいですね。
学長:前向き進んでいく、与えられたものをとにかく一生懸命やっていくという人材が欲しいと言うことですね。
近藤先生 :かつて勤務していた塩野義製薬では、執行役員創薬研究所長、医薬研究本部長、信頼性保証本部長、グローバルSCM本部長など色々な役職を経験させて頂きました。研究所長をやっていた時には、私自身も採用面談に立ちあい、学生さんの研究発表や質疑応答を聞かせてもらったことがあります。ほとんどの学生がほぼ完璧に、研究発表し、色々な質問に対して、しっかりと答えることができていました。これだけでは、どの学生を採用していいのか、判断が難しいため、別の観点での評価もしておりました。例えば、ご本人が想定していないような突拍子もない質問をし、それに対して論理的な回答が出来る学生は、将来、どのような職場に行っても戦力になるのではないか、と考えていました。
学長:プレゼン発表や、プレゼンの受け答えは練習したら出来ますからね。経験が無い事でも、論理的に応えられる学生は興味を引くのですね。近藤先生は卒業してもう40年近くですか?
近藤先生 :40年以上ですね。
学長:その中で、良かった選択や決断はありますか?
近藤先生 :大学の研究室実習の中で、化学実験っていうのは結構面白いなって感じたのが大学院進学の契機になった気がしますね。大学院進学の際、当時、本学の薬品化学研究室は大学院生3人しか採れない中、大学院希望者が、私を入れて4人いました。従って、1名は外部の大学院に行く必要がありました。私以外の3人は私より成績の高い人ばかりだったので、大変なことは分かっていましたが、自分が手を挙げて外部を受験し、九州大学の大学院に行くことになりました。振り返れば、あの時の選択は、上手く行くかどうか自分の中では何も考えは無かったけれど、今の環境をそのまま保持して順応していくよりも、自らが苦労しても自らの環境を変えていったことが、結果的には良い選択をする指針になっていた気がします。
学長:あの選択は間違っていたなっていうのはありますか?
近藤先生 :それは沢山あります。失敗が徹底的に尾を引くような大変な失敗は、絶対に避けなければなりません。そうでないならば、失敗をあまり恐れないで、挑戦をし、経験をしていくという事が財産になっていくと考えています。
学長:では、最後の質問になりますが、日本の創薬産業、医薬産業というのは、世界の中での地位も次第に低くなり、危機的状況ですが、どうやってこの創薬産業を活性化していくとお考えですか?
近藤先生:あくまでも私見ですが、優秀なアカデミアというのは、萌芽的な研究を行っている。それを信じる。そこに企業としての経験値とか、お金を投資していく。国としてはそれを担保しながら伸ばしていくような環境を作っていく。産官学連携、三位一体となってオール日本チームで、目標を明確に持ち、流動的で、なおかつスピード感のあるものを、日本の中に仕組みとして作っていかなければならないと思います。
私がかつて経験した鐘紡株式会社薬品研究所閉鎖の後にオルガノン株式会社に異動した時驚いたことがありました。それは会社の設備投資や研究投資の中で、大学への投資の優先順位が高かったことです。日本の場合は、恐らくインハウス予算を優先し、余った予算の中からその一部が大学への投資に回っていると理解しています。当時、オルガノンでは各研究用部門のPIは大学の教授も兼務していました。だからそこの大学に投資するっていうのは、オルガノンの研究ミッションを十分理解している研究者への投資だと理解していました。
ところで、当時から海外の場合は、企業から大学に、大学から企業に、という人材の流動が凄く活発でした。一方、日本では、企業と大学間の人的な流動がまだまだ停滞していると感じています。特に、創薬産業の活性化には、最先端技術を持つベンチャー企業や医薬品開発の経験がある製薬企業、そして薬事規制やガイドライン作成にかかわる国の機関が三位一体となって素早く薬を作り出していく仕組み(創薬エコシステム)や文化が、まだ日本では成熟化してなく、それが諸外国との差となっていると感じています。
学長:産学一致ですね。
近藤先生:大学の先生も今、副業が出来るようになったので、先生は大学で講義をしながらもある会社の仕事もやる。そこがもっともっと活発になると、変わってくると思います。
学長:最後の質問ですが、本学のことを考えると、やはりどうやってこの創薬の考えを持った学生、世界で活躍出来る学生をいかに輩出するかが、我々教員の役目だと思っていますが、そのためには、最前線で働いている先生方が、本当の研究を目の当たりにして、学生が興味を持つ、「楽しい」「やりたい」と、それを見出してやることが課題かと思っています。
近藤先生:そうですね。先ずは、これは一般的によく言われることですけども、知識だけで頭でっかちな人の中には実社会に出てから十分な戦力になってない人が少なからずいるのではないでしょうか?その人自身、能力はあるけれども知識しかなく、経験値が無い。大学の教育の中で、どうやって知識と経験値が備わった本当の意味での能力の高い学生を輩出していくかは重要だと思います。
学長:今日はどうも貴重なご意見・コメントをありがとうございました。今後とも本学の支援宜しくお願いします。