東京大学産学協創推進本部 ディレクター 奥村洋一氏をお招きして学長との座談会が実施されました。
奥村 洋一 氏(東京大学産学協創推進本部ディレクター)
原 英彰 学長
学長: 奥村氏は1982年に岐阜薬科大学を卒業(大学30回卒)されていますが、その後の進路など教えていただけますでしょうか。
奥村氏:薬剤学研究室での修士課程終了後、武田薬品工業に就職しました。実は、修士課程の間に論文を書いていたので、博士課程への進学も考えていましたが、研究以外の職種への興味が強く、唯一、武田薬品工業では研究職以外の道に進めそうであったので選択しました。
最初は知財部門で特許関連の仕事を始め、米国駐在中には特許権侵害訴訟事件を現地で担当しました。帰国後、製品ライセンスやM&Aを担当する事業開発部に異動しました。事業開発の担当中も米国子会社のBusiness Development部門のヘッドとして駐在することになりました。その後、元の知財部門に異動して、国内外100名以上の部門のヘッドとして勤務し、定年前に退職しました。
武田薬品退職後、バイオベンチャーの社長を数年勤め、現職に至ります。現職では産学協創、スタートアップ創出、知財・契約関連の業務を担当しております。
学長:武田薬品勤務中に二度の海外駐在をしていますが、何か変化はあったでしょうか。
奥村氏:最初の駐在では異文化圏で異文化の人たちと一緒に仕事をする経験は刺激的でもあり、地理的な視野を広げるきっかけになりました。
次の駐在の時期は、武田薬品工業自体がグローバル化を重視する方針に転換した頃でした。ビジネスのグローバル化にはライセンスやM&Aの活動が欠かせないということでした。そして、私がその部門に入り、数年間のうちに、アメリカの子会社のライセンス部門でマネジメントを行いました。この業務を通して経営へ関与し直接社長や会長とコミュニケーションを取る経験が得られました。この2回目の海外経験では海外人材のマネジメントや業務の幅を経営的視点から考えるという、そういう視野の拡張になりました。
その後、知財部門のグローバルヘッドというポジションについたので、国の知財等の政策議論を行う場や国連等において国際的製薬産業界の提案を協議する場に参画する機会があり、日本国は、そして製薬業界は今後どうしたらいいのか?という視点も持つようになりました。
学長:産学連携の円滑な進め方についてご教授いただければと思います。
奥村氏:大学は開発早期段階の技術が多いと思います。一方で、企業はそのフェーズの開発をせず、ベンチャーに頼る傾向にあります。すなわち、ベンチャーの数を増やし開発早期の種を育てなければ、日本の創薬力を維持できないのではと考えています。
学長:企業の基礎研究への興味は薄いですよね?
奥村氏:はい。一般的にはそうだと思います。ただし、話題性の高い技術、将来性が高いと思われているような面白い技術であれば、開発早期段階でも企業が興味を持つ可能性は十分にあります。しかし、やはりベンチャーが一定レベルまで開発を進めているようなアセットではなく、大学発の種の状態では、企業が興味を示さないことが多いのも現状です。
ベンチャーを成功させようと思うと、スタートアップを作る時から並走してくれるVC(ベンチャーキャピタル)が必要な可能性が高いと思います。大学にはサイエンスをわかる人間はいますが、ビジネスをわかる人間がいないのは大きな課題ですね。
学長:その課題の解決法が、企業経験者や関連のポジションを務めた方の招聘だと考えています。実は、本学でもいくつかのベンチャーを作ろうとしています。
奥村氏:素晴らしいです。小回りが効き、判断が早い単科大学のメリットを維持したまま、スタートアップ支援の環境を整えるというのが理想的です。また、日本には使ってないお金をたくさん保有している人や企業が結構たくさんいると思いますが、アメリカと比べてそれをベンチャー投資に使おうという人や企業が少ないのは問題な気がします。他に、若い方に期待したいのは政治家的な目線です。社会制度、保険制度や薬価等の社会的問題が長年懸念されていますが、全く手つかずです。
学長:今までの物の見方や考え方では全く通用しないということですよね。
奥村氏:そうですね。日本には創薬の力が十分にあると思います。今、必要なのは、ベンチャーや実用化に踏み出す勇気を持って、種を実にしていくことだと考えています。
学長:このような日本、世界の流れの中で、学生はどのような視点を持つべきでしょうか。本学は小さな大学ですが優位性などあるでしょうか。
奥村氏:学生さんへ伝えたいメッセージとしては、1) 昔よりも簡単に得られる情報が多いので、それらについて色々考えて視野を広げる、2) 英語を嫌がらずに使う、3) 入試などで挫折感を覚えている人は多いと思いますが、それを糧に頑張る、ことですね。挫折を恐れず挑戦していれば、挫折に負けない気持ちが出来上がると思います。結局はそれがベンチャーへの挑戦など、失敗を恐れない精神に繋がってくると思います。
学長:色々なメッセージを頂きありがとうございました。以上で座談会を閉じたいと思います。