アステラス製薬株式会社 代表取締役社長CEO 岡村 直樹 氏の特別講演会が本学で開催されました。この講演会に先立ち、岡村社長との座談会が実施されました。
岡村 直樹 社長(アステラス製薬株式会社)
原 英彰 学長
学長: 本日はアステラス製薬の岡村さんをお迎えしました。この機会に、本学向けのお話やメッセージをいただければと思います。まず岡村さんのこれまでの経歴などをお伺いできますでしょうか。
岡村社長:アステラス製薬の前身、山之内製薬に入社してからは、営業計画部、薬事部等を経て、30歳のときに経営企画部に異動しました。ヨーロッパ子会社のサポートをしながら、パートナーとの契約締結後の業務に携わりました。1998年頃より、契約を結ぶ側の仕事に移りました。その後、ニューヨークにてがん領域の会社の買収後統合に関わること1年、半年間の帰国を経て、ロンドンにて2年余り欧州事業の戦略策定業務に携わりました。帰国後は、事業開発部長、経営企画部長、経営戦略担当役員などのポジションに就き、2019年6月から代表取締役副社長経営戦略担当、2023年4月に代表取締役社長CEOに就任しました。
学長:中外製薬の奥田社長もそうでしたが、海外の仕事を纏めた方が製薬企業のシニアの立場になられていますね。(参考:中外製薬奥田社長との対談 )
岡村社長:従来、日本は日本、海外は海外、というビジネスモデルでした。しかし、段々と国際協調が進み、日本だけで仕事が完結する風潮ではなくなってきました。このような時機に運良く海外の仕事に携わることができたと感謝しています。
学長:学生へのメッセージも頂ければと思います。最近の学生はよく勉強が出来て真面目である一方、挑戦することがやや足りないような気もします。このような学生に何か伝えたいことなどありますか。
岡村社長:勉強をすることは良いことだと思いますが、世の中には勉強だけでは得られないものがあることを知ってほしいですね。また、将来のキャリアについて考えすぎる傾向にあると思います。まずは、眼の前のことをしっかりやり遂げる、可能であれば少しずつ自分の創意工夫を加えることが大事だと考えています。自分のアイデアで新しいことに挑戦し、成果が出ると誰かが見ていて評価してくれます。そうすると、人生の次の扉が開きます。その次の道でもまた頑張る、その繰り返しだと思います。人生を登山に例えて、「富士登山型」と「連峰縦走型」の2種類があると考えています。前者はゴールを始めから決めているタイプですが、私の人生は後者に近いと考えています。
学長:ご自身を支えている理念や言葉などありますでしょうか。
岡村社長:以前薦められた本のタイトルで、「逆命利君」という言葉を大事にしています。命じられた事以上に世の中のためにより良いことであれば、命令に逆らってでもやるという信念を持っています。
学長:今後どのような会社にしたいと思われていますか。
岡村社長:継続的にイノベーションを創出し、患者さんにとって「価値」のある成果を届けていくことが目標です。最先端の科学に従事していても、患者さんに還元されなければ意味がないと思います。また、イノベーションは異質な者同士から生まれると考えているため、均質な人材確保というよりむしろ多様な能力を持つ人材を採用するようにしています。
学長:たとえば、目標としている会社あるいは唯一無二の会社にしたいと思われていますか。
岡村社長:他の会社には作れない、患者さんの「価値」を生み出していきたいと思っています。また、会社の規模よりもどれくらいの「価値」を生み出すかを重要視しています。
学長:その場合、すぐに結果が出ないような気がしますが、如何でしょうか。
岡村社長:信じて待つしかないと考えています。
学長:岡村さんの考える、我々アカデミア(大学)の役割は何だとお考えでしょうか。
岡村社長:日本のアカデミアのシーズは優れたものが多いと考えています。ただ、日本のライフサイエンス業界のエコシステムにおいて最も欠けているのは人材の流動であると考えています。アメリカでは、一人の人間が
大企業→スタートアップ企業→FDAなどの公的機関(行政)→アカデミアなど
流動的に異動し、シーズをモノにするための知識を持った方がいます。このような人材を日本でも育成すること、あるいは、別の形として、企業がアカデミアに対して予算の提供のみならずノウハウを提供する仕組みを日本に作ることが必要であると考えています。
学長:一つの職種に拘ることなく、色々な経験を積んで全体的に俯瞰できる人材が望まれているということですね。本日は、本学にとって貴重なお話、メッセージをいただきありがとうございました。