12 山東の縦長銭荘票の図柄と中国の伝統文化 

八仙及び囲碁 その2


加藤正宏

山東の縦長銭荘票の図柄と中国の伝統文化

八仙、及び囲碁 (その2・暗八仙)

加藤正宏


二、暗八仙

 これら八仙と全く同じように、霊験あらたかなものとして扱われているのが暗八仙である。八仙のそれぞれの宝器がそれである。つまり、李鉄拐の葫芦・張果老の魚鼓・曹国舅の拍板・藍采和の花籠・呂洞賓の宝剣・韓湘子の笛・何仙姑の荷花・漢鐘離の扇である。

藍采和の花籠       呂洞賓の宝剣


 韓湘子の笛     曹国舅の拍板 


何仙姑の荷花         張果老の魚鼓


  漢鐘離の扇     李鉄拐の葫芦 

舞台壁面      過海八仙 

 拍板

 魚鼓

 荷花

 花籠

 下は上の壁面裾部

 扇

 葫芦

 宝剣

  

 壁面裾部の暗八仙

 中国江西省萍郷市安源の映画村乃至は映画スタジオで目にした暗八仙の浮彫

 二年前、東日本大震災時には中国江西省萍郷市で生活していた萍郷市安源には建設中の電影製片廠城(映画村乃至は映画スタジオ)があり、中国の時代劇の背景になるような建物や文物の模造品があちらこちらに造られていた。その中に見られた、暗八仙の浮彫などを先ず紹介しておこう。

 銭荘票背面にもよく描かれている。背面中央中心に「留心細看」の文字があり、その四文字の前後五箇所に二つ一組に交叉させ、上から払子と葫芦、魚鼓と拍板、花籠と宝剣、笛と荷花、扇と払子が描かれている。

 杏村居

  協昶號



 協成永



  恒順興

 楽善堂

 劉海さんの銭荘票では杏村居、協成永、協昶號、恒順興、友桂軒、大義徳、楽善堂、萬昌永の背面に見られた。

 花銭にも暗八仙は採用されている。『中国花銭』を参考にして見ておこう。

 正面「華封三祝」背面「同慶千秋」の花銭がある。文字と文字の間には暗八仙が描かれ、右廻りに「華・(葫芦)・三・(笛)・封・(拍板)・祝・(魚鼓)・華」「同・(宝剣)・千・(花籠)・慶・(扇)・秋・(荷花)・同」となっている。また、正面「平安吉慶」背面「日兌斗金」は「平・(拍板)・吉・(葫芦)・安・(宝剣)・慶・(扇)・平」「日・(花籠)・斗・(魚鼓)・兌・(笛)・金・(荷花)・日」となっている。なお、「華封三祝」は華地(現在の陝西華県)に封じられていた役人が天子の巡遊にさいし、長寿・富有・多子を祝ったことに由来している。ところが、天子が「長寿であれば恥辱も多く、富多ければいろいろと問題も多くなり、子供が多ければ惧れることが多いから、朕はこれら全てが不要だ。」と応じたという。

 この話は『荘子・天地』に記載されたものだが、天子とは異なり、一般庶民は多富多寿多子孫(富が多く、長寿で、子孫が多いこと)を願う語句として使用するようになった。「日兌斗金」は「日進斗金」と同じように使われ、毎日たくさんの売り上げ(収入)があることを指す。暗八仙ともども吉祥語と言える。

 花銭「龍鳳紋乾隆国寶」の背も暗八仙の図案である。咸豊元寶當百、咸豊元寶當五百、咸豊元寶當千、咸豊重寶當五十の花銭にも、暗八仙が文字と文字の間に刻まれている。當百以外は全て正面に四つ背面に四つ、字と字の間に刻まれている。例えば、當千では「咸・(扇)・元・(魚鼓)・豊・(拍板)・寶・(笛)・咸」「當・(花籠)・満字泉・(宝剣)・千・(葫芦と鉄拐)・満字寶・(荷花)・當」となる。當百は正面に暗八仙の図案を刻み、背面は梅の花が刻まれている。当然、正面の暗八仙は二つ一組に交叉させ刻まれている。例えば、左下は「葫芦と宝剣」というようにだ。これらの花銭は外郭の輪に装飾が施され美しい仕上げになっている

 龍鳳紋乾隆国寶

 咸豊元寶當百

  咸豊元寶當五百


咸豊元宝 當千

 暗八仙のそれではないが、これら装飾を模倣し、個人的に線刻を加えたような貨泉もたまに見うける。手持ちの康熙通宝(寧)などもその一つである。また、雑誌『収集』1987年3月号「張甦氏に羅漢銭の由来を尋ねる」でも、羅漢銭を一枚紹介しているが、それもその一つといえよう。この羅漢銭の背面下には魚が刻まれている。

 「魚」は「余」と同じ発音で、吉祥用語「年年有余(毎年ゆとりがある、余裕がある)」の図柄として用いられる。

 

 康熙通宝(寧)

 羅漢銭