07 中華人民共和国糧票 

その26-江蘇省その2-

加藤正宏


中華人民共和国糧票 その26

-江蘇省その2-

加藤正宏

 今回も江蘇省の糧票を取り上げている。但し、厳密には糧票ではなく布票の類である。1964年から1984年の間のものである。

  1964年から65年にかけての江蘇省優待布票

 これは3市尺である。市尺とは3分の1メートルである。なお、1市尺は10市寸にあたる。布票で使われることはないようだが、公尺とは1メートルのことである。文化大革命前の布票で、語録は見られない。

文化大革命期の布票

1967年から68年にかけての江蘇省布票

 これら1,2,5市寸の票の右には太陽と国旗その中央に毛語録の本、その本の上に「為人民服務」と毛沢東の特徴ある文字が記載されている。この時期、毛沢東は象徴的に太陽で表現されている。

 これら1,2,5市寸の票の左には最高指示として毛語録が記載されている。語録は「要闘私批修(自分の中の私と闘い、修正主義を批判する)」である。

 前頁の語録は「発展経済 保障供給」、「備戦備荒為人民」である。右のそれは

「抓革命促生産(抓=掴む、強化する)」である。

  1969年70年71年72年の江蘇省布票、絮綿票

 前期、后期に発給されていたようだ。語録には「自力更生艱苦奮闘」とどれも

記載されている。図柄も同じで前回(その25)で紹介した南京長江大橋が描か

れている。漢数字は見かけない数字が書かれているが、1、4、7市尺である。

 これらは前回も紹介したものだが・・・。

 これは絮綿(入れ綿のこと、中国文字では木偏の綿)票である。この絮綿票には最高指示の「抓革命促生産(抓=掴む、強化する)要節約閙革命(閙=~する、~を行う、~やる)」の語録の他に、「敬祝毛主席万寿無疆(万寿無疆=限りなく長命であること)」と中央の語録の下に「忠」の文字が見える。正に文化大革命期の様子を示した票である。

 1966年から1971年にかけて流行した「早請示、晩匯報」は毛沢東に心を表す個人崇拝的な形式的であった。このような崇拝礼儀は政府の正式な文書には規定されていなかったが、社会全体に広まり、当時は風俗、習慣化するまでになっていた。毎朝毛沢東に向かって今日1日どんな生活をどんなことをしようとするのか請示(請示=上司に伺いを立てる、ここでは申告ぐらいの意味だろう)し、晩には今日一日何をやったかを匯報(匯報=総括報告)する。

 具体的には、「早請示」は朝出勤や登校や商店開業前に毛沢東像前で方陣を組んで立ち、腰を曲げ頭を下げて礼をし、手に持った紅宝書(語録などを記載した紅い小さな本)を頭の上まで高く掲げ、大声で三度以下の文言を口にするのである。

 「敬祝偉大的領袖、偉大的導師、偉大的統帥、偉大的舵手、我們心中最紅的紅太陽毛主席万寿無疆、万寿無疆、万寿無疆!敬祝毛主席的親密戦友、我們的林副統帥身体健康、永遠健康、永遠健康!」この最後の数行からは、林彪が個人崇拝の音頭取りをしながら、毛沢東の後継者としての、布石をしていたことが分かる。それから、『東方紅』を合唱し、毛語録を朗読する。

「晩匯報」は退社前、下校前、商店を閉める前に、今日一日の自己の行動に誤りが無かったか検討し、毛主席や年輩者に懺悔し、最後に『大海航行靠舵手』を合唱する。(*『東方紅』、『大海航行靠舵手』については最後に歌詞と楽譜を記載。)

 これらは家庭でも行われていたそうだ、正にキリスト教徒が食事の前にやるお祈りと同じように。

 「敬祝毛主席万寿無疆」は1966年に内蒙群衆宣伝隊舞踏でダンスと共に歌われたもので、歌詞は最初次のようなものであった。

 「敬愛毛主席、敬愛毛主席、您是我們心中的紅太陽、您是我們心中的紅太陽、我們有多少貼心的話要対您講、我們有多少熱情的歌児要您唱、千万顆紅心向着北京、千万張笑瞼迎紅太陽、祝福您老人家万寿無疆」

 後に、これが一部替えられて最後の部分が「敬祝領袖毛主席万寿無疆」となり、毛沢東の紅衛兵との第4次接見では変更のこの歌詞で歌われている。

 「千万不要忘記階級闘争」「要節約閙革命」「自力更生、艱苦奮闘」「発展経済、保障供給」

 1市尺は「団結起来、争取更大的勝利」、3市尺は「備戦備荒、為人民」である。

 1971年の2市尺も語録は最高指示とあるが右の3市尺同様に「備戦備荒、為人民」である。この布票には太陽が描かれている。毛沢東を象徴したものだ。2枚は1971年と72年 最高指示「階級闘争、一抓就霊」(一抓就霊=やれば、すぐ功能が現れる)

 2枚の絮綿票は長さ、重さの単位でなく「張」と絮綿票の数を示している。最高指示は「為人民服務」

1973年74年75年の江蘇省布票、絮綿票

 文化大革命10年の後期は語録も見られなくなっている。これらはその例である。

 

 文化大革命時期以降(1977年以降)の江蘇省布票

絮綿票の単位は一人券となっているが、実際どれくらいだったのか分からない。

 漢数字で年代を記した1983年の1市寸、5市寸、5市尺の図柄は南京五台山体育館である。1982年1市尺、2市寸、1市寸は「渡航勝利記念碑が描かれている。江蘇省結婚補助綿胎専用券である。中央に「双喜」が見られる。これも、絮綿票の一つであるが、その量がどれくらいであったのか分からない。

 最後に、「早請示」で歌われた「東方紅」 「晩匯報」で歌われた「大海航行靠舵手」の歌詞と数字の音符になる楽譜を示しておいた.

 以上、外国コイン研究会の会誌「外国コイン研究」に掲載したものを、布票の最高指示や語録が紅色と白色で鮮やかに記載されているのを見ていただきたく、ここHPに再録している。会誌「外国コイン研究 NO.37」は2011年12月発行予定である。