第二回 「地域文化の継承」
第二回 「地域文化の継承」
登壇者:玄番真紀子(太布織伝承者)
発表テーマ: 太布
ー「衣」の生活文化を伝承するー
登壇者から一言: 太布は楮の皮から糸をつくり織り上げる織物で、麻と同様に歴史は古く、その製造方法は現在徳島県の木頭地域でのみ伝承されています。かつて山村の生活文化のひとつであった太布織りは実用の役割を終えましたが、いま地域で伝承する意義について考えてみたいと思います。
座長の解説:登壇者は徳島県木頭村に移住し,太布の伝承者として活動している.縄文時代から全国各地で様々な植物から織物が作られていたようで,シナノキ,クズ,バショウ,カラムシ,麻などが使われていた.徳島と高知では楮(コウゾ,カジ)が多く自生していたことから楮を原料とした太布が主流だったそうだ.日本で綿花が栽培され始めたのが室町時代からということで,その後太布はどんどん衰退したが,木頭村では太布が昭和の時代まで残り,現在は保存活動が展開されている.今回の講演では,太布の作り方や,その苦労話を聞かせてもらった.「楮の繊維を触った時,太布を教えてくれたお婆さんに触れた感覚になる」とのことで,人との触れ合いを大切にしながら伝承されていることに感動した.また「生活文化を残すことは,その土地の人と記憶を残すこと」という言葉が心に響いた.
登壇者:楠瀬慶太(地域文化資源研究家,高知高専)
発表テーマ: 中世のムラと「後山」「奥山」
―土佐における里山の原型を探る―
登壇者から一言: 里山の原型が生まれた中世という時代。ムラの中で、人々は「後山」や「奥山」の空間をどのように利用したのか。古文書や小地名から土佐における里山の原型を探ります。
座長の解説:登壇者は歴史民俗の専門家で,私の研究室で博士号を取得し,現在は高知高専で教鞭をとっている.里山工学においては,学生たちと一緒に現地調査を行い,様々な成果を残している.今回の講演では,その成果や里山の歴史について聞くことができた.まず江戸期の人口は,平野部より山間部の方が多かったこと,明治期の地券を調査した結果,里山の資源は土地の値段から推定すると,芝山や茅場の価値が高かったことなどが紹介された.里山の開拓は,室町時代から始まったそうで,その頃から資源を求めて山を切り拓き,江戸期には治水技術の発達により平野部でも田畑として使えるようになり,戦後はまた山を切り拓いた歴史があるということだった.
ゼミナールを終えて: 今回,太布の伝承者と歴史民俗の専門家から話を聞いたが,いずれも室町時代が大きな転換期であったという共通点に驚いた.それまで中央集権によって統治された時代から,地方の大名による統治に変わり,自由に開拓できるようになったのではないか,ということだった.
自分が住んでいる地域の歴史を学ぶことは,非常に重要である.しかし地域の歴史を学ぶ機会は意外と少ない.小学校では社会科で地域が題材として取り上げられているが,中学校から一気に少なくなる.高校受験や大学受験に出てくることがないためだろう.地元の地理や歴史の学びは,そこで暮らす人には役立つはずであり,伝統を引き継ぐ意識も育まれる.里山工学は,その役割も担っていきたい.