この季節は,餅を食べたくなる.いや食べなければならない時がある.正月は餅を食べる風習があるものの,それとは別に自分にとっての理由がある.それは,寒い季節にバイクで通勤する時.体を冷やさない効果がダントツで高いからである.パンを食べて気温0度以下の中,愛車のカブに乗って片道16キロの大学に行く際,防寒手袋をしていても中間地点にたどり着く前に手が痛くなり,感覚がなくなってしまう.ところが餅を食べて出発すると,大学に到着する直前まで手の感覚が残っている.食べ物によって,そんなに違うものなのだ.バイクに乗っていなければ分からなかったかもしれない.正月に餅を食べる習慣は,暖房のなかった寒い時代に,体を温める効果を狙ったものなのだろう.そして餅つきは,結構大きい労力を必要とするので,正月というイベントに合わせて,みんなで力を合わせて作業して蓄えておこうという意味合いもあったと考えられる.
里山に来てから,研究室の新年会は,学生たちを自宅に招いて,餅つきをしている.多くの学生は,餅つきを経験していない.経験あるという学生も,餅をついただけという程度だったりする.餅米を蒸す,餅をつく,餅を丸めるという全ての工程を経験している学生は,ほとんどいない.我が家の場合,餅を蒸すのもカマドに火をくべるので,薪割りから始まる.薪割りも多くの学生は初体験.里山での暮らしは,彼らにとって初めての事ばかりなのである.
餅つきは,たくさんの熱湯が必要なので,カマドで餅を蒸しながら別のカマドで湯を沸かす.湯は,臼と杵を温めたり,手水に使うのだが,冬はすぐに冷めてしまうので,火の番と湯の番は結構忙しい.蒸しあがった餅米を臼に移して杵でこね,ついていく.冷めないうちに餅をつきあげて欲しいのだが,餅の品質よりも餅つきの経験が重要なので,作業は学生に任せて,自分は安全管理に努めている.少々粒が残っていてもコシがなくなっても,それはそれで経験や思い出となる.
つきあがった餅は,米粉などをまぶして,両手で揉み出してちぎり,丸めていく.餡餅の場合,揉み出す時に適量の餡を丸め込んでちぎる.この作業を教えておかないと,いびつな形の餅だらけになってしまう.地方によっては,丸めるのではなく,麺棒でのして切り餅にするところもあるが,四国は丸餅が主流なので,このやり方を学んでもらっている.
餅の食べ方も地域や家庭によって様々.私の実家では砂糖醤油につけながら食べていたが,関東に行くと,海苔で巻いて醤油につけて食べるのが主流のようだ.現在私は,日本酒に合うこの海苔醤油が定番になってしまった.お雑煮も様々,うちはすまし汁に餅を入れて煮て食べるが,味噌仕立てだったり,焼き餅を入れたり,香川の方では餡餅を入れる風習もある.そんなそれぞれの餅の食べ方を学生たちから聞くのも面白いものである.
学生との新年会では,餅つきが終わると,学生たちの地元から持ってきてもらったお土産のお披露目と試食が始まる.今年の研究室は,九州,四国,中国,近畿,中部からの学生が在籍している.なのでお土産は,いろいろな地域からで,それぞれのお土産を並べて眺めるだけでも結構面白い.学生からは,ひとりひとり今年の抱負を語ってもらい,持ってきた土産について説明してもらう.お土産は,地元のお菓子や地元の名物から始まって,わざわざ自分で作ってきたものや,お婆さんに作ってもらいましたというモノまで様々.今年は,ひねポンと呼ばれる姫路の居酒屋料理や,鹿児島のさつま揚げが印象的だった.私は,猟師さんから分けてもらったイノシシを使った猪鍋を提供した.
新年会終了後,片付けは大変だが,学生たちが手伝ってくれる.余ったお餅やお土産は,分けて持って帰ってもらえるので無駄がない.居酒屋でする新年会は楽だが面白さに欠ける.このイベントは続けていきたいものだ.