里山研究フィールドでは,様々な活動をしている.以前にも紹介したが,2024年4月に氏神さまの再建プロジェクトが完了した.その再建には御神木の倒木や社地の安定性という難題を乗り越えながら8年の歳月を要した.やっと落ち着いてフィールドワークに専念できると思っていたのだが,2ヶ月後の6月に今度は研究拠点としている古民家の納屋が倒壊してしまった.氏神さまへの参道を塞いでしまい,通れなくなってしまった.この地の氏神さまは,次から次へと我々に課題を与えてくれる...
すぐに瓦礫の撤去を行うのは,危険と判断した.納屋は全壊ではなく半壊状態だったので,作業中に残った部分が崩れると想定されたからである.倒壊した6月は梅雨入りした直後で,大雨は7月の梅雨明け頃に多い.そして台風は10月頃まで来る可能性がある.なんとか迂回路となりそうなケモノ道を整備して,しばらく様子を見ることにした.思った通り,大雨ごとに倒壊部分が広がっていった.
崩れ落ちた納屋の瓦礫を見ていると,震災直後の調査の思い出が蘇る.阪神淡路大震災の時に現地を調査したり,スリランカの津波被害を調査したり.それぞれの場で,悲惨な光景に心が傷んだ.それから東日本大震災や熊本の地震などが発生したが,震災直後の調査には行っていない.精神的に辛いのである.直近では能登半島の地震が記憶に新しい.復興事業は今も続いている.
この納屋の倒壊は,我々にとっていい経験になりそうだった.重機が入らないので,手作業がメインとなり,危険とも隣り合わせなので,簡単にできるものではない.どのくらいの時間をかけると,どこまでできるのか,それを数値化するだけでも重要なデータになる.
2025年の4月に入り,里山工学を履修してくれた学生たちに里山研究フィールドを見てもらい,様々な課題に対して自分の専門性を活かしながらどう解決するか,考えてもらった.今年度の大きな課題は瓦礫処理で,他にも荒れ果てた耕作放棄地,山道,竹林など,課題は山積している.今回,早々と瓦礫処理を含めた防災班が結成されたのは,非常にありがたかった.
倒壊した納屋は,山側から少しずつ崩れていったが,反対側の壁が残った状態だった.山側の湿気が納屋を傷めていったのだろう.納屋の東には母屋が建っている.その母屋は改修工事をして,活動拠点となっていたため,守らなければならない場所である.納屋の残った東側の壁が倒れたら,母屋を損傷させる危険性があった.倒壊して丸1年,次の神祭までに参道も啓開しておきたい.
家屋の解体も行っている建築設計の専門家に見てもらい,アドバイスをもらった.彼の見立てだと,チェンソーで上から少しずつ落としていけば,何とかなるということだった.そこで防災班の学生が解体の手順を作成し,私がチェンソーで切り落として行くことにした.こんな時,山仕事でチェンソーを使っている経験が役立つ.ハシゴをかけて登り,上から切り落としていくのだが,私は高所恐怖症なのだ.しかし,そうも言っている場合ではなく,気合いを入れて登り,緊張で汗を滲ませながらチェンソーを操る.梁や柱は残っていたとはいえ腐食が進み,あっさり切れたので安堵した.
その後瓦礫は,木材,瓦,金属,ガラスなどに分別し,バケツリレーで運び出す.若いだけあって学生たちの手際は速い.山道の啓開は午前中で終わった.学生たち自身も人海戦術の力に驚いていた.そう,人海戦術は最終手段として用いられるが,なんだかんだ言って里山では最も有力な手段なのだ.
この季節は,餅を食べたくなる.いや食べなければならない時がある.正月は餅を食べる風習があるものの,それとは別に自分にとっての理由がある.それは,寒い季節にバイクで通勤する時.体を冷やさない効果がダントツで高いからである.パンを食べて気温0度以下の中,愛車のカブに乗って片道16キロの大学に行く際,防寒手袋をしていても中間地点にたどり着く前に手が痛くなり,感覚がなくなってしまう.ところが餅を食べて出発すると,大学に到着する直前まで手の感覚が残っている.食べ物によって,そんなに違うものなのだ.バイクに乗っていなければ分からなかったかもしれない.正月に餅を食べる習慣は,暖房のなかった寒い時代に,体を温める効果を狙ったものなのだろう.そして餅つきは,結構大きい労力を必要とするので,正月というイベントに合わせて,みんなで力を合わせて作業して蓄えておこうという意味合いもあったと考えられる.
里山に来てから,研究室の新年会は,学生たちを自宅に招いて,餅つきをしている.多くの学生は,餅つきを経験していない.経験あるという学生も,餅をついただけという程度だったりする.餅米を蒸す,餅をつく,餅を丸めるという全ての工程を経験している学生は,ほとんどいない.我が家の場合,餅を蒸すのもカマドに火をくべるので,薪割りから始まる.薪割りも多くの学生は初体験.里山での暮らしは,彼らにとって初めての事ばかりなのである.
餅つきは,たくさんの熱湯が必要なので,カマドで餅を蒸しながら別のカマドで湯を沸かす.湯は,臼と杵を温めたり,手水に使うのだが,冬はすぐに冷めてしまうので,火の番と湯の番は結構忙しい.蒸しあがった餅米を臼に移して杵でこね,ついていく.冷めないうちに餅をつきあげて欲しいのだが,餅の品質よりも餅つきの経験が重要なので,作業は学生に任せて,自分は安全管理に努めている.少々粒が残っていてもコシがなくなっても,それはそれで経験や思い出となる.
つきあがった餅は,米粉などをまぶして,両手で揉み出してちぎり,丸めていく.餡餅の場合,揉み出す時に適量の餡を丸め込んでちぎる.この作業を教えておかないと,いびつな形の餅だらけになってしまう.地方によっては,丸めるのではなく,麺棒でのして切り餅にするところもあるが,四国は丸餅が主流なので,このやり方を学んでもらっている.
餅の食べ方も地域や家庭によって様々.私の実家では砂糖醤油につけながら食べていたが,関東に行くと,海苔で巻いて醤油につけて食べるのが主流のようだ.現在私は,日本酒に合うこの海苔醤油が定番になってしまった.お雑煮も様々,うちはすまし汁に餅を入れて煮て食べるが,味噌仕立てだったり,焼き餅を入れたり,香川の方では餡餅を入れる風習もある.そんなそれぞれの餅の食べ方を学生たちから聞くのも面白いものである.
学生との新年会では,餅つきが終わると,学生たちの地元から持ってきてもらったお土産のお披露目と試食が始まる.今年の研究室は,九州,四国,中国,近畿,中部からの学生が在籍している.なのでお土産は,いろいろな地域からで,それぞれのお土産を並べて眺めるだけでも結構面白い.学生からは,ひとりひとり今年の抱負を語ってもらい,持ってきた土産について説明してもらう.お土産は,地元のお菓子や地元の名物から始まって,わざわざ自分で作ってきたものや,お婆さんに作ってもらいましたというモノまで様々.今年は,ひねポンと呼ばれる姫路の居酒屋料理や,鹿児島のさつま揚げが印象的だった.私は,猟師さんから分けてもらったイノシシを使った猪鍋を提供した.
新年会終了後,片付けは大変だが,学生たちが手伝ってくれる.余ったお餅やお土産は,分けて持って帰ってもらえるので無駄がない.居酒屋でする新年会は楽だが面白さに欠ける.このイベントは続けていきたいものだ.