第一回 「古民家を残す重要性」
第一回 「古民家を残す重要性」
発表テーマ:空き家と地域
登壇者から一言: 23年間の耐震改修と空き家改修の経験を通じて感じた、空き家活用の意義と難しさについてお話しします。 また、空き家活用から見えてきた地域課題と、その地域がこれから進むべき方向についても考えていけたらと思います。
座長の解説:登壇者は,本ゼミナールの会場であるkuzume Base.の主宰者であり,耐震改修や古民家の改修を事業としているYOHAKU DESIGNの代表者でもある.kuzume Base.は,古民家をコワーキングスペース,ゲストハウス,賃貸住宅に改修し,様々な人が集まるサードプレイスとして機能している.本発表では,YOHAKU DESIGNが手がけた様々な改修事例と,その時の様々な苦労話を聞かせていただいた.市街化調整区域や農業振興地域などの制度の問題や,相続の問題,職人不足の問題,価値観の問題など,多くの課題に対して真剣に向き合いながら解決した話は,多くの参加者にとって非常に参考になったことだろう.「悩む作業は,引き算」「古民家は一度壊すと二度と戻らない」「改修した古民家には人や文化を入れられる」という言葉が印象的だった.
登壇者:渡辺菊眞(高知工科大学)
発表テーマ:民家の典型と突然変異
登壇者から一言: 典型の民家は、町や村で群をなす、一定の型を備えた家です。共同体がそこに生きる意志が結晶しています。一方、突然変異としかいいようのない家もあります。これらは対極なのでしょうか。両者の関係を追い、民家を残す意味を素描します。
座長の解説:登壇者は,高知工科大学の教授で,環境建築デザインを専門としている.里山工学においては,金峯神社の再建に尽力したほか,海外では土嚢を使った個性あふれる建築物を制作している.本発表では,高知県の建築について調査した成果を通して,変容する民家の形態を解説していただいた.農村における母屋と納屋は,一般にL字型に配置されているが,山間部では地形に対応するため一列になっている.市街地では敷地が狭いので,母屋と納屋をくっつける形態だが,屋根の向きを変えたトンボ造りとなっており,L字型を継承していると推察していた.建築家ならではの視点から,建築物における多くの背景を知ることができた.「典型は,共同体の意志である」「社会環境の激変が突然変異を生み出す」「継承することの中には更新が含まれている」という言葉が印象的だった.
ゼミナールを終えて:現在,人口減少が著しくなってきました.ディスカッション資料に2000年から2020年の人口減少を地図上に示しています.特に山間部の人口減少が激しい状況ですから,山間部の空き家をどうするか,重要な課題です.そこで今回のゼミナールにおいては,古民家をどう残すかというテーマを選びました.渡部美奈子さんからは,古民家改修の経験を通して,様々な課題とその解決方法について話していただき,渡辺菊眞先生からは,民家の建築様式の変遷と残すべきものはどういうものなのかを話していただきました.お二人とも建築が好きでたまらないという気持ちが伝わって,大切な建物を長く大事に使っていかねばと思いました.