座長の解説:登壇者は,当初朽ち果てていく錆に惹かれ,それをモチーフに作品を作り始めたそうだ.錆は強度を低下させるので,できるだけ錆びないように手入れするものだが,その錆に取り憑かれていたというのだから,その時の精神状態というのは極限に近いものだったのだろう.その後,植物の影や川底がモチーフになっていったとのことで,いずれも我々が目にしている自然の背景に潜んでいるものが対象となっている.その着眼点と感情は非常にユニークで,一般的ではないが共感するファンは一定数存在する.
画家として生きるため,社会との折り合いをどうするかということが大変だったようで,「自分本位に絵を描いているので、 その真逆の活動、他者を助けることでバランスを取ろうとした」という言葉は重く受けとめられた.我々のような研究者も意識せねばならないところである.また,「評価や地位は結果であって、それを目標にするのは、人生が少しさみしいと思います」という言葉は学生たちに響いてほしい.
さて,彼女が現在住んでいる里山の集落(実は座長の住む集落と同じ)の神祭では,毎年彼女の描いた絵馬が奉納されている.絵馬のモチーフはその年の干支で,非常に可愛らしい作品となっているのが面白い.12年分の絵馬が完成されれば,集落の宝になることは間違いない.