第三回 「持続可能な地域社会に向けて」
第三回 「持続可能な地域社会に向けて」
登壇者:玄番隆行(おららの炭小屋)
発表テーマ:生きようとすることは勇敢なこと
登壇者から一言: 持続可能とは、ヒトだけでなく生命あるものが生き続けられるということだと思います。それを自分事としてどの範囲まで考えるのか。里山で暮らすことでブリコルールから教えてもらったコト・モノをまとめてみました。
座長の解説:登壇者は27年前から,徳島県木頭村に移住し,里山暮らしをしている.本発表では,まず生きるために必要な「水,火,刃物,人」についての解説から始まった.地元の人たちは,道具を非常に大切にし,使えなくなった道具を別の用途にまでして使いきるとのことであった.自らの体験に基づき,実演を交えての解説は,非常に分かりやすかった.会場では,鎌を足で固定して縄を切る方法や,雨の日に火をつけるのにダケカンバの皮を用いることを体験させてもらった.村の人々との様々な関わりによって,生きるという勇気が湧いて来るという言葉が印象的だった.
発表テーマ:里山の風景をつむぐ小さな土木
登壇者から一言: 里山の風景は、先人たちがその土地の自然と向き合いながら、日々の営みを重ねるなかで少しずつ育んできた「暮らしの景観(文化的景観)」といえます。 今回は、そんな風景を未来へつないでいくための取組と、自然に寄り添う小さな土木技術「近自然工法」についてご紹介します。
座長の解説:登壇者は,(株)相愛で近自然工法を取り入れた景観設計を行なっている.本発表では,近自然工法についての解説後,熊本県での通潤用水の改修事例が紹介された.アブラボテという淡水魚を守るには,マツカサガイとドジョウも守らなければならないこと,そのために水路内の多様な流れと底質環境を保ちつつ改修を行う必要があるという.石積みや杭出し工は,侵食の恐れがある部分にのみ適用すれば良いということを学んだ.最後に高知県梼原町の神在居千枚田の保全についても触れ,凍結保存型の文化財と異なり,文化的景観は営みが続けられるように,より良い変わり方(動態保存)が求められるという言葉で締めくくられた.
ゼミナールを終えて:登壇者は,実際に里山で暮らしている人と,里山の水路や農道を設計している人で,全く異なる立場からの話題であった.話の切り口や内容も異なっていたが,共通しているところは,そこにあるものを上手に使うということだった.例えば,よそからコンクリート製品を持ってくるのではなく,そこの石を使って石積みで対応する.すると生物多様性が保たれる.手作業は大変だが,壊れたとしても自分で直すことができる.経費も大きくない.里山での土木施設の在り方が分かった気になった.
ただ一人では暮らせない.玄番さんの「ひとりの子供が育つには一つの村が必要だ」という言葉が胸に突き刺さる.その村とは,村のことを熟知し,自立した暮らしと,社会基盤をも自分たちで整えられる人たちの集団であることが求められる.結構ハードルは高いが,これが実現できる村には人が集まり,持続可能になるだろう.