Hexarthrius parryi (ヘクサルトリウス・パリーイー)。古くはフタマタミヤマクワガタ、近年ではセアカフタマタクワガタ、パリーフタマタクワガタの和名を持つ。
当サイトでは、パリーフタマタクワガタと表記する。
この種は、以下の四亜種からなる。
Hexarthrius parryi parryi Hope, 1842
Hexarthrius parryi deyrollei Parry, 1864
Hexarthrius parryi elongatus Jordan, 1894
Hexarthrius parryi paradoxus Möllenkamp, 1898
以降、それぞれについて略記する。
Hexarthrius parryi parryi Hope, 1842
パリーフタマタクワガタ パリー亜種(名義タイプ亜種)。
1842年3月1日、ロンドン・リンネ学会の特別会員であったイギリスの昆虫学者フレデリック・ウィリアム・ホウプ(Frederick William Hope, 1797.1.3-1862.4.15)が Hexarthrius parryi として記載した。
Transactions of the Linnean Society of London, Volume XIX, 1843, "On some rare and beautiful Coleopterous Insects from Silhet", pp. 104-105, Table 10 - Figure 2
Proceedings of the Linnean Society of London, Volume I, 1849, "March 1.", p. 127
タイプ標本はインドのシレット地方(現在のバングラデシュ・シレット管区)で採取。
「parryi(パリーの)」はイギリスの昆虫学者フレデリック・ジョン・シドニー・パリー(Frederic John Sidney Parry, 1810.10.28-1885.2.1)への献名であり、ラテン語の属格へと変化させ parryi としたもの。
(註:フレデリック・ウィリアム・ホウプは1843年10月2日にミヤマクワガタ属の Lucanus parryi Hope, 1843 (Lucanus parryi Boileau, 1899 とは別種)を記載している為に混同され易いが、これは Hexarthrius parryi の属を変更したものではない。ちなみに、この種は現在 Dorcus (Hemisodorcus) nepalensis (Hope, 1831)(ネパールコクワガタ)のシノニムとなっている。)
1847年、ドイツの昆虫学者ヘルマン・ブルマイスター博士(Dr.med.u.Phil. Hermann Burmeister, 1807.1.15-1892.5.2)がエダツノクワガタ属 *¹ に記載し Cladognathus parryi (Hope, 1842)となった。命名者と記載年が括弧書きとなったのは、属の変更があった為である。
Handbuch der Entomologie, Band V, 1847, "6. Ordnung Coleoptera - 1. Zunft Lamellicornia - 5. Familie Pectinicornia - 12. Gattung Cladognathus", p. 367
1852年12月22日、フランスの昆虫学者ルイ・ジェローム・ライヒェ(Louis Jérôme Reiche, 1799.12.20-1890.5.16)がフタマタクワガタ属とし Hexarthrius parryi Hope, 1842 となった。
Annales de la Société Entomologique de France, Série III - Tome I, 1853, "Notes Synonymiques", p. 75
1994年5月30日、水沼生物研究所所長水沼哲郎(Tetsuro Mizunuma, 1949.5.1- )はデロール種、エーロンガートゥス種を亜種へと降格させ、名義タイプ亜種 Hexarthrius parryi parryi Hope, 1842 とした。
世界のクワガタムシ大図鑑, 1994, p. 257
バングラデシュ~ミャンマー(メガラヤ山脈~パトカイ山脈)に分布。
*¹ 本サイトでは、便宜上クラドグナトゥス属を「エダツノクワガタ」とした。
Hexarthrius parryi deyrollei Parry, 1864
パリーフタマタクワガタ デロール亜種。
1864年、フレデリック・ジョン・シドニー・パリーが Hexarthrius deyrollei として記載した。
The Transactions of the Entomological Society of London, Series III - Volume II, 1864, "A Catalogue of Lucanoid Coleoptera; with Illustrations and Descriptions of various new and interesting Species", p. 11, Plate IV - Figures 1
タイプ標本はシャム(現在のタイ)にて採取。
「deyrollei(デロールの)」はフランスの昆虫学者アンリ・デロール(Henri Deyrolle)への献名であり、ラテン語の属格へと変化させ deyrollei としたもの。
1994年5月30日、水沼哲郎はパリー種の亜種へと降格させ、Hexarthrius parryi deyrollei Parry, 1864 とした。
世界のクワガタムシ大図鑑, 1994, p. 257
ミャンマー・タイ国境周辺(シャン高原、ドーナ山脈)に分布。
直線的で細身の大腮、頭幅の細さは、同地方に生息する Hexarthrius nigritus に似る。
Hexarthrius parryi elongatus Jordan, 1894
パリーフタマタクワガタ エーロンガートゥス亜種。
1894年4月、ドイツの昆虫学者ハインリヒ・エルンスト・カール・ヨルダン博士(Dr. Heinrich Ernst Karl Jordan, 1861.12.7-1959.1.12)が Hexarthrius elongatus として記載した。
Novitates Zoologicae, Volume I - No. 2, 1894, "On some new Genera and Species of Coleoptera in the Tring Museum", pp. 484-485
タイプ標本はボルネオ島の北ボルネオ(英保護領)キナバル山採取。
「elongatus」はラテン語の完了分詞で「延びた」の意。
1994年5月30日、水沼哲郎はパリー種の亜種へと降格させ、Hexarthrius parryi elongatus Jordan, 1894 とした。
世界のクワガタムシ大図鑑, 1994, p. 257
ボルネオ(カリマンタン)島に分布。
肢を含む全体に赤味を帯びる。
Hexarthrius parryi paradoxus Möllenkamp, 1898
パリーフタマタクワガタ パラドックスス亜種。
1898年1月1日、ドイツの昆虫学者ヴィルヘルム・メーレンカンプ(Wilhelm Möllenkamp, 1858.4.2-1917.11.29)が Hexarthrius deyrollei var. paradoxus として記載した。
Societas Entomologica, XII. Jahrgang - Numero 19, 1898, "Eine Prachtsendung aus dem innern der Insel Sumatra", p. 145
パラタイプは蘭領東インドであったスマトラ島ランガットのBalei Gadjah Juin とメダンのDoloc Baros Aout、アロタイプはパダンにて採取。
「paradoxus」はギリシャ語の形容詞「παράδοξος(parádoxos)」から転じたラテン語の第二変化形容詞で「思いがけない」の意。
1994年5月30日、水沼哲郎はデロール種の変種からパリー種の亜種、Hexarthrius parryi paradoxus Möllenkamp, 1898 とした。
世界のクワガタムシ大図鑑, 1994, p. 257
スマトラ島およびクラ地峡以南のマレー半島に分布。
頭部のボリュームや大腮の根元上部に発達した小歯が並ぶ点では、生息地の近い Hexarthrius buquetii と似る。
尚、ドイツ語の ö を英文字表記にすると oe となるので、記載者を「Mollenkamp」とする表記は誤りである(ウムラオトを用いない場合は、Moellenkamp が正)。
これは、学名に用いられている場合も同様であり、国際動物命名規約第4版(ICZN4)の条32.5.2.1にも明示されている(1985年より前に公表された学名に適用)。従って、発音も「モーレンカンプ」とはならない(モーレンカンプオオカブトやモーレンカンプオウゴンオニクワガタ、モーレンカンプコクワガタといった和名は厳密に言うならば不正確である。また、これらの学名の綴りを mollenkampi としているものも見られるが、moellenkampi とするのが正しい)。
北方に生息するパリー亜種やデロール亜種は比較的小型であり黄色味のある斑紋を、南方に生息するエーロンガートゥス亜種やパラドックスス亜種は体長も大きく橙色味を帯びた斑紋を持つ傾向にある。
日本では1999年11月24日に植物防疫所が輸入規制無と判定した。日本での生体輸入量等は次の通り。
パリー亜種:生体輸入量は僅かで、2006年夏に流通。
デロール亜種:生体輸入量は比較的少なく、タイのチェンマイ県ファーン郡産(2010年夏国内流通)、ミャンマーのタニンダーリ管区産、タイのターク県ウムパーン郡産、チェンライ県ウィエンパーパオ郡産(2016年10月16日国内流通)、ターク県メーソート郡産(2016年11月1日に14♂♂、14♀♀国内入荷)の個体が流通。
エーロンガートゥス亜種:生体輸入量は比較的少なく、マレーシアのサバ州にあるクロッカー山脈産、トラスマディ山産、サラワク州産の個体が流通。
パラドックスス亜種:生体輸入量は非常に多く、フタマタクワガタ属ではブクエティウス種と双璧をなす。マレーシアのキャメロン・ハイランド産、インドネシアの西スマトラ州パダン市産(2011年11月通関)、ベンクル州産(2007年4月20日、2008年3月25日、8月16日、2012年4月2日、5月5日、5月12日通関)、ジャンビ州産、ランプン州産(2009年9月10日、2011年4月12日、5月13日、6月3日、6月21日、7月5日、7月19日、8月2日、9月9日、10月7日、11月11日、12月16日、2012年3月23日、4月18日、5月19日、6月15日、7月16日、10月26日通関)の個体が流通。