土壌棲ケカビ類の多様性調査法確立を目指した釣り餌法の検討

 ケカビ目 Mucorales とクサレケカビ目 Mortierellales (以下ケカビ類と総称する)は接合菌類ケカビ亜門Mucoromycotinaに属し,無性生殖時に胞子嚢胞子,有性生殖時に接合胞子を形成する菌群である.このうちクサレケカビ目は野外で直接発見されることが少ないため研究が遅れており,ケカビ類の種多様性や系統進化を解明していく上での障害となっている.

 本研究では,これらのケカビ類を土壌から効率よく分離する方法としての釣り餌法の可能性に着目した.釣り餌法は水中あるいは土壌中に存在する遊走子形成菌(ツボカビなど)を分離する目的において広く用いられてきた方法である.この方法では,用いる釣餌の種類を変えることで異なる菌種を釣り分けることができる.すなわち,特定の基質に嗜好性を持つ菌群を土壌から選択的に分離する方法として応用できる可能性がある.さらに,用いる釣餌の種類を増やすことで,一つの土壌サンプルから多様なケカビ類を効率良く得ることも期待される.そこで本研究では,ケカビ類が好む基質を用いた釣り餌法によって土壌中からのケカビ類の分離を試み,この方法が多様なケカビ類を分離する目的においてどの程度有効であるか検討した.

 土壌試料は本邦の温帯から亜熱帯地域より採取した.釣餌にはハイビスカス花弁とサクラエビを用いた.結果,6属18種のケカビ目とクサレケカビ目菌類が分離された.また,ハイビスカス花弁とサクラエビで分離される菌相が異なっており,前者はケカビ目,後者はクサレケカビ目を分離するのに好適であった.

 本研究により,釣り餌法が土壌から系統的に多様なケカビ類を分離する目的において有効な方法であることが示された.

図.ケカビ類の分子系統樹(太字:本研究で得られた株)

白水貴,廣瀬大,徳増征二

土壌棲ケカビ類の多様性調査法確立を目指した釣り餌法の検討.

日本菌学会会報,日本菌学会,53:33–39,2012

Abstract