Resource utilization of wood decomposers: mycelium nuclear phases and host tree species affect wood decomposition by Dacrymycetes

 陸上生態系の強力な分解者である木材腐朽菌はその宿主である樹木と共に進化し,現在見られるような材腐朽能と多様性を獲得してきた.木材腐朽性担子菌類の一群であるアカキクラゲ類は特定の樹木に繰り返し出現する現象(宿主再現性)がみられることから,木材腐朽菌の宿主樹木への適応を研究する上で注目に値するグループである.

 ところで,担子菌類の材分解効率を評価するときにはその菌糸体の核の状態を考慮しなくてはならない.担子菌類の菌糸体には一細胞区画中に一つの核を含む“一核菌糸”と,二つの核を含む“二核菌糸”があり,後者の方が自然生態系での生存率が高いと言われてきた.しかし,この通説を実験的に証明した例はなく,一核菌糸と二核菌糸の性能の差についてもあまり調べられていない.

 本研究では,木材腐朽菌の資源利用効率を明らかにすることを目的とし,アカキクラゲ類の材分解効率と宿主樹木および菌糸体の核数との関係を実験室内での材分解試験により検証した.特に,宿主樹木との関係については“木材腐朽菌の宿主再現性は菌の宿主材に対する資源利用効率の差から説明できる”という仮説を立て,検証を行った.

 アカキクラゲ類8種の一核菌糸と二核菌糸の培養株を用いた材分解試験により,4樹種(アカマツ,モミ,ブナ,コナラ)に対する材分解効率を調べた.結果,一核菌糸よりも二核菌糸の方が高い材分解効率を示した.このことから,菌糸の二核化は,例えば分解酵素の生産量や機能的多様性といった菌糸体の生理的性能を引き上げ,その結果として材の分解速度が速くなったと考えられる.

図.A,B.材分解試験の概要(a 麦芽寒天培地,b 滅菌材片,c 含菌寒天).C.分解試験後のブナ材片(上 一核菌糸による腐朽,下 二核菌糸による腐朽).

 また,全ての菌株がアカキクラゲ類の主要な宿主であるアカマツの材に対して高い分解効率を示した.一方,ほとんどの菌株において,その菌種の本来の宿主材に対する分解効率はそれほど高くなかった.この結果から,木材腐朽菌に見られる宿主再現性の一部は材分解効率(資源利用効率)によって説明できるが,自然生態系における材分解には他の生物的・非生物的要因が複雑に影響しており,一元的には説明できないと言える.

 野外では二核菌糸が優占するという観察結果から,二核菌糸は一核菌糸よりも生存率が高いという考えが通説となっている.本研究は,木材腐朽菌の二核菌糸が一核菌糸よりも高い材分解効率を示すことを複数種を用いた実験により示した初の事例であり,これまで教科書で常識とされてきた説を支持する.一方,腐朽菌の宿主再現性を説明するには複雑な生物的・非生物的要因を解く必要があり,一筋縄ではいかないことを研究結果は示している.


Shirouzu T., Osono T., Hirose D.

Resource utilization of wood decomposers: mycelium nuclear phases and host tree species affect

wood decomposition by Dacrymycetes.

Fungal Ecology, Elsevier, 9, pp11–16, 2014

Abstract