植物絶対寄生菌であるウドンコカビでは,有性生殖器官である裂子嚢殻の付属糸の形態が宿主植物上での越冬戦略において重要な機能を有していると考えられている.先行研究(Shirouzu et al. 2022)により,ウドンコカビでは落葉樹上の複雑付属糸から草本・常緑樹上の単純付属糸への収斂進化が複数回起こっていることが示唆された.しかし,これまで解析に用いられた種数は限られており,宿主タイプと付属糸形態の進化的依存関係については未解決であった.
本研究では宿主タイプと付属糸形態間の進化的関係を明らかにすることを目的とし,ウドンコカビの中でも最大かつ最も多様な分類群であるErysipheaeを対象に系統比較法(Phylogenetic Comparative Methods, PCMs)による状態遷移,祖先状態,進化的依存関係,進化順序に関する解析を行った.
結果,落葉樹タイプと複雑付属糸が最も祖先的で,これらの状態から草本・常緑樹タイプと単純付属糸への収斂進化が複数回起こっていることが示された.また,ウドンコカビにおいて初めて宿主タイプと付属糸形態の進化的依存関係が検出された.これは,植物寄生菌における宿主のフェノロジーと菌の形態形質の進化的依存関係を示した数少ない例である.進化順序解析により,草本・常緑樹上で付属糸の単純化,落葉樹上で付属糸の複雑化が起こりやすいことが示された.これらの状態遷移については各付属糸の越冬戦略における機能的利点から説明可能であり,解析した宿主タイプと付属糸形態の組み合わせの約9割がこの観点から解釈できた.一方,付属糸の機能的利点からは一見非合理的な状態遷移もみられたが,これらは越冬戦略の柔軟性や付属糸機能の定量化から説明できるかもしれない.
図.研究結果の概要.
Shirouzu T., Suzuki T.K., Matsuoka S., Takamatsu S.
Evolutionary dependence of host type and chasmothecial appendage morphology in obligate plant parasites belonging to Erysipheae (powdery mildew, Erysiphaceae).
Mycologia, 116, pp.487–497, 2024