Phylogenetic overview of Erysiphaceae based on nrDNA and MCM7 sequences

 ウドンコカビ科(Erysiphaceae,Helotiales)は,約10,000種の被子植物にうどんこ病を引き起こす絶対寄生菌からなる分類群である.近年,ウドンコカビ科の分類や進化に関する研究は,分子系統推定によって得られる系統仮説に基づいて進められている.しかし,ウドンコカビ科の系統推定に用いられた塩基配列データは約50分類群のnrDNAにとどまっており,科内,特に連や属などの高次の系統関係については十分な検討がなされていない.

 本研究では,ウドンコカビ科内のより信頼性の高い系統仮説を得ることを目的とし,約270分類群のうどんこ病菌から得たnrDNA(LSU,5.8S,SSU)およびMCM7の塩基配列に基づく系統推定を行った.

 その結果,先行研究で報告されている系統樹とほぼ同じ樹形が得られたが,その一方,①GolovinomyceteaeとPhyllactinieaeの分岐順序が異なる,②Phyllactinieaeが単系統群にならない,などの新たな系統関係も示された.PhyllactinieaeとErysipheaeはGolovinomyceteaeとの分岐後に多様化していることが推定され,非連鎖分生子+内部寄生または非連鎖分生子+外部寄生の系統が,連鎖分生子+外部寄生の系統から派生する仮説が示された.PhyllactinieaeはPhyllactiniaLeveillulaのクレードと,PleochaetaおよびQueiroziaからなるクレードに分かれた.この結果は,Phyllactinieaeの分類や,ウドンコカビ科における内部寄生の進化について新たな解釈が必要であることを示している.

 本研究では,過去最大規模のデータセットに基づく系統推定によりウドンコカビ科内の系統仮説を更新することができたが,依然,高次の系統関係は不明瞭であった.ウドンコカビ科のより頑健な系統仮説を得るためには,タンパク質コード領域を含むさらなる配列データを加えた系統推定が必要である.

図.Erysiphaceaeの分子系統樹.

Shirouzu T., Takamatsu S., Hashimoto A., Meeboon J., Ohkuma M.

Phylogenetic overview of Erysiphaceae based on nrDNA and MCM7 sequences.

Mycoscience, 61, pp249–258, 2020

Abstract