Host tree-recurrence of wood-decaying Dacrymycetes

 ある特定の生物を宿主とする性質(宿主選択性)は,菌類の生活史や適応進化を解明していく上で興味深い現象である.植物に寄生あるいは共生する菌類,すなわち生きた植物を宿主とする菌類では,特定の宿主植物に対する選択性がよく知られている.一方,死んだ植物組織を栄養源とする木材腐朽菌においても,特定の宿主に繰り返し出現する「宿主再現性」という現象が報告されているが,研究例はサルノコシカケ類などごく一部の分類群に限られている.

 木材腐朽菌の一群であるアカキクラゲ類においても,針葉樹または広葉樹材に繰り返し出現する種があると言われてきたが,定量的な調査は行われておらず,その宿主選択性の有無については明らかでない.本研究では,日本国内の60か所においてアカキクラゲ類の子実体発生とその宿主樹木を調査し,得られたデータを統計的に解析することで,アカキクラゲ類の宿主再現性の有無について調べた.結果,針葉樹と広葉樹材上のそれぞれにおいて特徴的なアカキクラゲ種組成が形成されていた.また,得られたアカキクラゲ類28種中12種が針葉樹,4種が広葉樹に選択的に出現していることが示された.さらに,このうち8種が針葉樹,2種が広葉樹のみから出現していた.

 一般的に木材腐朽菌などの腐生菌は宿主に対する選択性が低いと考えられてきたが,アカキクラゲ類の一部は特定の宿主樹木に繰り返し出現していることが分かった.この現象は,木材腐朽菌の宿主材への適応や多様化過程を考える上で注目に値する.

図.針葉樹および広葉樹材上にみられたアカキクラゲ種組成の比較

Shirouzu T., Hirose D., Tokumasu S.

Host tree-recurrence of wood-decaying Dacrymycetes.

Fungal Ecology, Elsevier, 5, pp562–570, 2012

Abstract