クマノザクラ葉上に発生したPodosphaera prunigenaおよびその記載文の修正

 クマノザクラ(Cerasus kumanoensis T. Katsuki)は1915年にオオシマザクラ(Cerasus specionsa (Koidz.) H. Ohba)が記載されて以来,日本産として約100年ぶりに新種記載されたサクラであり,その観賞価値の高さから種苗普及などの資源利用に向けた取り組みがなされている.その一環として,自生地より採取した種子から育苗が行われているが,その苗木の葉にうどんこ病様の症状が確認された.本研究では,クマノザクラ葉上に発生したうどんこ病菌(ウドンコカビ科,Erysiphaceae)の種同定を目的とし,顕微鏡による形態観察とDNA塩基配列に基づく系統推定を行った.

 分子系統解析と形態比較の結果,クマノザクラ葉上に発生したうどんこ病菌をPodosphaera prunigenaと同定した.Podosphaera prunigenaのタイプ標本を観察した結果,原記載よりも小さな計測値が得られた.この結果に基づき,P. prunigenaの記載文を修正した.また,P. prunigenaの原記載では未報告の分生子と分生子柄の形態的特徴を記載した.クマノザクラを宿主とするうどんこ病菌の報告は初である.

 本研究を含め,これまでに種まで同定されたP. prunigenaの宿主はすべてサクラ属(Cerasus)である.広義のサクラ属(Prunus s. lat.)に寄生するPodosphaera spp.は,一部の種において特定の樹種を宿主とする傾向がみられることから,うどんこ病菌の宿主選択と種分化の関係を研究する上で好適なモデルとなりうると考えられる.

図.クマノザクラ葉上のPodosphaera prunigena(TNS-F-89227).A 裂子嚢殻;B 付属糸の分岐した先端;C 子嚢;D 子嚢胞子;E 菌糸上の付着器;F 分生子柄;G 連鎖した分生子;H 分生子;I 発芽した分生子.スケールバー A,B=50 µm; C–I=25 µm.

白水貴*,藤田彩花,中村昌幸,高松進

クマノザクラ葉上に発生したPodosphaera prunigenaおよびその記載文の修正

日本菌学会会報,日本菌学会,61:33–39,2020

Abstract